セイロン沖海戦
1942年2月11日
セイロン島東海上800キロ地点
超弩級多目的戦艦龍神はセイロン島へ向けて航行していた。
超弩級多目的戦艦龍神艦橋
『偵察機より入電。本艦より西方80キロ地点に敵大英帝国海軍発見です。』
「80キロ!?余りにも無警戒過ぎます。」
通信室からの報告に岸本航海長が驚きの声をあげた。その言葉に、篠田艦長も海図を見つめながら答えた。
「敵はまさかここまで来るとは思っていないのよ。シンガポールが陥落して、勢力圏が減少しても自信は残っているはず。嘗ては世界に君臨した大英帝国海軍だからね。」
「その通りだと思います。敵もまさかこの段階でセイロン島に攻撃部隊が来るとは思っていない筈です。」
川村砲術長が賛同の意思表示をした。
「そうと決まれば、行動開始。航海長、潜水艦部隊に出撃命令。航空長、航空部隊に出撃命令。但し敵に被害を与えるのでは無く、敵を撹乱させるのが目的。以上。」
「「了解。」」
岸本航海長と入江航空長は、篠田艦長の命令に敬礼をしながら答えた。
10分後
大英帝国海軍東洋艦隊旗艦戦艦ウォースパイト艦橋
『敵機来襲!!』
「敵機だと!?」
通信室からの報告にジェームズサマヴィル司令長官は、驚きの声をあげた。
「長官!!直ぐに航空隊の出撃を!!」
オースチン参謀長はサマヴィル司令長官に進言した。しかしサマヴィル司令長官は返事をせずに敵機を見つめていた。
「長官!!」
「航空隊出撃の暇は無い。敵機は30機だけだ。艦隊対空戦闘を開始する。」
サマヴィル司令長官は静かに口を開いた。
「了解しました。直ぐに命令を……」
オースチン参謀長が命令を復唱しようとした瞬間、ウォースパイトが大きく揺れた。
「何事だ!?」
サマヴィル司令長官の声が艦橋に響いた。そこへ伝令が艦橋に飛び込んできた。
「報告!!艦尾に魚雷2本直撃です!!」
「本当か!!」
「本当です!!自分が目撃し、他にも目撃者多数です!!」
サマヴィル司令長官の言葉に、伝令は一瞬ムッとしながら答えた。
「何故だ!?敵は今攻撃体勢に入ったばかりだぞ!!」
サマヴィル司令長官は叫んだ。それに答えられる人はいなかった。思い込みとは怖いもので、まさか潜水艦の攻撃とは思わなかったのである。潜水艦などいない、いても艦隊だけ。その思い込みが東洋艦隊の判断を狂わせた。
呂100潜水艦艦橋
「よし、命中よ。」
艦長の羽島千華大尉はそう言うと、潜望鏡を上げた。
「任務完了よ。龍神に帰還するわ。」
「了解しました。」
羽島艦長の言葉に、航海長の榊原直子中尉が答えた。羽島艦長達が乗っている呂100級潜水艦こそ、超弩級多目的戦艦龍神が3隻搭載する秘密兵器であった。呂号潜水艦は基本的には龍神の護衛を主任務としている。その一連の流れとして今回は雷撃を行ったのである。現在海軍連合艦隊は龍神と行動を共にする新型潜水艦の建造を進めている。さすがに1隻だけでは心配になったのである。
『超弩級多目的戦艦龍神は大英帝国海軍東洋艦隊にただ1隻で攻撃を仕掛けた。最初に仕掛けたのは龍神搭載の航空隊である。航空隊は勇敢に攻撃を仕掛けた。更にその前に龍神搭載潜水艦隊が東洋艦隊に雷撃を敢行。東洋艦隊は突然の雷撃に大混乱となった。突然の雷撃である。航空隊に気をとられていた事もあるが、潜水艦隊に全く気付かなかった。だがこれは東洋艦隊の手落ちでは無い。実は龍神が搭載する呂号潜水艦は世界初のポンプジェット推進を採用した潜水艦であった。これにより東洋艦隊は探知が遅れた。その為易々と雷撃を許したのである。これにより旗艦である戦艦ウォースパイトはスクリューを破壊され、推進力を完全に喪失してしまったのである。更に航空隊も攻撃を開始。東洋艦隊は広く浅く被害を受けたのである。そこへ龍神が現れた。東洋艦隊は混乱の極みに達した。その好機に龍神は砲撃を開始。46センチ砲9門の砲撃は東洋艦隊を圧倒した。だが東洋艦隊もたかが1隻の戦艦相手に負ける訳にはいかない。全力を挙げて砲撃を開始した。しかし龍神は全長300メートル・満載排水量89500トンにしては高速の33ノットを叩き出した。ディーゼル機関を搭載している為に成せ得た技であるが、東洋艦隊は呆気にとられ命中弾を出せなかった。かつて大英帝国海軍を師と仰いだ大日本帝國海軍が今では優秀な戦艦を建造し、しかもたった1隻で大英帝国海軍東洋艦隊に喧嘩を吹っ掛けたのである。だがこの戦艦はただの戦艦では無かった。旗艦ウォースパイトは早々に撃沈され、残る主力戦艦も面白いように沈められた。海戦は龍神の圧勝に終わった。東洋艦隊は龍神ただ1隻に叩き潰されたのである。』
高田多江子著
『無敵戦艦物語』より抜粋