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それぞれの夜明け

いつも覗いて下さっている方、本当に感謝です。

始めて来られた方、ここまでお読みいただき有難うございます。

お気に入り登録下さった方、感想下さった方、感謝です。

すごく励みになります。


年齢設定はずらす場合があります。

誤字脱字等ご指摘いただけると助かります。

今回数行、男女の絡みがありますが、飛ばして読んで支障はほぼ無いです。


 

 手にしたものを維持するための犠牲など考えもしなかった。

 自分しか居なかったあの日が懐かしくさえある。










 美味しそうな匂いがする。

 いい匂いだ。

 クッキーとお茶。

 ばあちゃんが入れてくれるお茶は匂いはとてもいい。

 でも子供の俺には苦いので、ミルクと砂糖は欠かせない。



 クッキーは最高に美味い。

 どんな味だったか、もう……忘れたけれど。



「私はそろそろ、ここを去る。お前の父を連れて行けず、本当にすまなく思うよ。ファーラにはリュリアーネを分けよう。火にまかれたら彼女を頼って是が非でも逃げるんだ、いいね、後ろを振り返ってはいけないよ。私に言えるのはこれだけだよ。おやすみ。最後にお兄ちゃんを呼んで来てくれるかい?」



 火にまかれたら逃げろと言われていたのを、今更思い出す。

 熱くて熱くてたまらなかったけど、兄さんがいない。



 母から受けた呪いでいつ死ぬかもわからないなんて知らなかった。

 それなのに、俺にやさしい言葉をかけてくれた。

 それが偽りだったとしても。



 父さんが怖くて、痛くて身動きも出来なかったあの日に、手を差し出してくれたのは彼だけだった。

 本心では笑っていたとしても。



 兄さんは俺の支えであり、ここでの生活の全てだった。

 あんな事をしようと考える、その事自体が悲しくて。自分が受けた屈辱よりもっと辛くて。きっと同じように無為に体を奪われた事があるのだろう、そう思えた。

 それでも生きていてほしいと強く願った。

 生きていなければわからない、喜びがあるのを、きっと兄は知らないから。俺ではその喜びは与えてやれなかったから。



 でも俺が生きているという事は兄さんはどうなったんだろう?

 この場所と、そして俺が兄さんを縛っているなら、崩したいと望んだ。

 それでも俺は壊れなかったみたいだ、元々未練だらけだった自分を思い出す。

 銀の天使を見たら、死ぬのが惜しくなって、遠くでレイルが叫んでいるのを見て、本当に死にたくはないのだと思った。

 その時、レイルを喰いたいと思っている事に気付いて、必死に止めたのを憶えている。



 口の中に残る甘いそれは、忘れたクッキーの味ではなく、喰らった天使の……










「ここは……」

 もう懐かしい香りはしなかった。

 目が覚めるとファーラの目には晴れ渡った空が視界に入る。

 青天井。

 雲はない、晴れ渡っている。ただ僅かに霧がかった煙が上がっていた。





 肌寒い空気だったが、暖かいモノが寄り添っていて寒くはなかった。

 黄金色の豪華な髪が彼の鼻をくすぐる。それで寝そべる自分に乗りかかっているのが、紫水晶のレイルだと気付く。

 レイルはファーラの耳を、自分用の特製耳栓で塞いだ上、抜けないようにしっかり押さえている。その手をそっと外すと、自分の膝の上に彼の頭を残すようにして、レイルの体をずらしながら、おそるおそる上半身を起こす。

 低血圧でも起こしたのか、眩暈がしたが、レイルの耳栓を外すとだいぶスッキリした。

 世界は無音ではない。それなのに常時ほぼ無音を作り上げているのは、苦痛だろうなとファーラは友人の事を慮る。 

 しかしそれが何故、自分の耳に差し込まれているかファーラにはわからなかった。振り返れば一瞬だけ、引き裂かれるような銀天使の歌を聞いた気がする。



 耳に栓を戻してやった方が良いのだろうか?



 そう考えもしたが、ここでは音楽も聞こえないだろう、そう思い、手にそっと握らせてやった。顔を辛そうにゆがめているのが気になったが、揺り起こすのが可哀想な位、疲れが滲んでいる。

 ファーラは自分にかけられていた無地のチュニックを羽織る。丈が長いので下着無しでも大丈夫そうだった。

 彼は下半身を隠していた千切られたワンピース。真っ白な生地には細かい草花の刺繍が施されたそれは、雰囲気的にルナが纏っていた服と同じだった。その端切れをしっかりと握った。割けた衣服に要らない恐怖が沸く。綺麗なワンピースを引き割くような何が起こったのかと。



「レーヴェ……」



 炎の中まで助けに来てくれた天使。

 少しだけ意識を回復した時、彼女もいたが今は何処にも見えない。あの時、何度か呼んだけれど、来てはくれなかった。

 一緒に居た数日間で、何度か「嫌い」だと投げつけられているので、きっとその言葉の通りなのだと思った。空恐ろしい殺しの為に育てられた人形だと言うのに、魅かれている自分をそこで押し留める。

 父を逝かせられなかったのは兄のせいだったようで、彼女が嘘をついたのではない事だけが救いだった。彼女が自分の事を貶めようとしたと考えるのは、今の彼には辛すぎた。

 父の顔を思い浮かべた途端、自分が何をしたか僅かながら記憶が蘇る。

 禍々しいまでの黒い「石」が砕け散る。

 最後に見た兄の手には緑色の塊があった。



「俺、父さんを……兄さんは……」



「目が覚めたんだね。お前の死体を連れ帰らずに済んで嬉しいよ」

 思考を断ち切るように、声をかけて来たのはレイルではなく、泉の中に居たリュリアーネだった。大きすぎる瞬きのない瞳で、ずっとソコで見守っていてくれたのだろう。

「いつもの泉なのか、ここは」

 ファーラが確認するのも無理はなかった。



 遠くの森がまだかすかに煙を上げて、燻っていた。

 泉の周りの樹はあったが、その先は焼け野原で、街までの視界が開けている。少し小高くなっている森であったこの場所から見える町並みは、がれきが詰まれた廃墟のように見えた。赤い瓦の建物がたくさん倒れ、燃えて崩れているのもわかる。火は消し止められているのか、炎はない。

 中央まではその崩れが行ってはいない様だったが、森寄りの街が半壊状態なのが手に取るように見えた。

 そしてこの泉の周りの樹がまた異常だった。

 燃えてはいないが、幹も葉も色が銀色だった。葉も幹も風に揺れるとさらさらと砂と化し、銀色のそれは幻のように空気に溶ける。

「消えてく……」

 まるでここを守っていたかのように、今まで形を成していた樹々がファーラの目前で一気に崩れ去り、砂となる。流れてくるそれを手で掴もうとするが、夢の様に触れる事も出来ない。

 その銀色はあの天使を思い出させるのに十分な色だった。

「どうなっているんだ?レーヴェは……」

「銀の子なら、側に居た魔道士の子が連絡して連れ帰ったよ」

「なら、生きているんだよな、何か嫌な予感がして……」



 黒緑に戻った髪を揺らして、頭に過ぎる嫌な考えを振り払う姿を見て、リュリアーネは言葉を紡がなかった。



 彼女は朝日が上がる前に、ルナとソネットが連れ帰られる様を見ていた。



 ぐったりと血まみれになったルナに、手を尽くす事もせず、震える手で何とか応援を呼んだ後のソネットは、ぼんやりと座りつくしていた。

 岩の上には折り重なり倒れる二人の少年。

 傍には力なく血の海の中で横たわる銀色の天使。

 細い胴の鎖で結わえた首を開放すると、朱に塗れた自分の手と鎖を眺めて。

 そのソネットの目は焦点が合っていなかった。



 彼女達を迎えに来た天使達は、ファーラもレイルも纏めて連れ帰ろうとした。

 が、現れた魔道士の一団がそれを反対し、二つの集団は一触即発状態までなった。

 リュリアーネも断固その行為に反対した。陸には上がれないが、水を使って彼らに攻撃する事は可能で、それも辞さない覚悟だった。表面上、少年二人の体の保護をと訴えていたが、それを鵜呑みには出来なかった。魔道士達は紫水晶の関わりになるからとここでの主導権を主張した。

 中間位置に立つソネットは呆然として、何も言わないまま座りつくす。

 どちらも退かない膠着状態が続いた後、小さな声が沈黙を破る。

「二人に指一本触れないで。ここに居る全員、強制葬送するぐらいの力は残ってるわ」

 死んだかのようにしていたルナがよろりと動いた。

 四つ這いで銀の乱れた髪の隙間から皆を覗く。

 異常に冷たい青の瞳に、手負いの獣が放つ本気を漂わせた。その事により、場は一気に収束し、二人だけを連れて彼らは引き上げた。



 魔道士はレイルとファーラを連れて行くかと思ったが、二人の体自体の状態は悪くないと判断した。その為、何もなければこのまま目覚めを待つと言い、彼らはばらばらと、この場から消えた。

 今もどこからかは監視しているのだろう。警察などは彼らが接触しないよう押さえているようだった。




 リュリアーネはファーラの額に傷があるのを見て言った。

 そして溜息をつく。

「受け渡せたようだね」

「何を?」

「お前の兄に、母の「玉」を」

 彼女は水の中で息をしながら、顔は目だけ出した格好で話しはじめた。古き主に頼まれた仕事をこなす為、彼女は語り始める。



「アーサー……お前の兄が変彩効果(シャトヤンシー)の緑玉を作ろうとしていたのはもう知っているかい? そして祖母ファーラは、生前に母の緑玉を手に入れていた。それがあれば兄にかかった呪いは解けるのだよ。または同じ力を必要としていた」

「兄さんが言ってた……くれなかったから、父さんに襲わせたって。何でばーちゃんは早くそれを兄さんに渡さなかったんだ?そうすれば……」

 父に襲われ、自分が死ぬ事もなかっただろうにと続けようとしたが、リュリアーネはその言葉を遮るように言葉を紡いだ。

「二人ともに生きて欲しい、彼女の願いは一つだった」

 年老いた占い師は兄が父の手を使い、ファーラを傷つけていた事を知っていた。

 だが阻止、またはファーラに明かすなら、その場で弟と心中すると彼は言った。

「色々……あったのだよ」

 ただし母の「玉」とならば交換に父を死に送り、更に弟を開放する事を約束した。全ては呪いを解く為、必死に生にしがみ付く彼を諭しても、無駄に終わった。

「やっとの事で母親の「玉」を手に入れた時、コレで兄弟が傷つけあう事も無かろうと、喜んでいた無邪気なファーラを忘れられない。でもお前の兄に緑玉をただ渡しても、大火事が起こる日、お前か兄が死ぬと占いに出てね、悩んでいたよ」

 子や孫にはどうしても甘い彼女に、未来を占えと進言したのはリュリアーネだった。

 そして出たのは緑玉をただ渡しても、兄弟のどちらかが死ぬと言う変わらぬシナリオ。それを変化させる方法を彼女はその後、時間をかけて綿密に占い、計画を立てた。

「どちらも死なずに居るには、お前が「目覚める」瞬間に合わせて、緑玉が受け渡される事が必要だった。だからお前の額にその「玉」を埋めたのだよ。お前の体の「玉」と共鳴して両者が守られるはずだと言っていたよ。それは叶ったようだね」



「額に?」



 触れた途端、思い出したようにずきっと痛みが走った。

 そしてファーラは祖母に会った最後のあの日、自分の前髪を撫でていた事が、脳裏をちらっと過ぎる。痛みも不具合も感じなかったが、きっとそんな他愛のない隙に彼女は彼の額に「玉」を埋め込んだのだろう。自らの命が散る事を確定する行為であったが、彼女なりの正義がそこにはあった。

 そしてファーラは兄の握った剣が胸を貫き、剣封じがかけられそうになった瞬間、確かに剣が弾かれ、緑の光が辺りを埋めたのも思い出す。

「こんな所に……考えましたね、あの天使も」

 兄がそう言って額から取った緑の塊こそ、母の「玉」。

 ファーラはその後、緑光に怯んだ魔と化した父に球封じをかけた所までは何とか思い出せた。

 父の「玉」は黒く、もはやジュエルと呼べるモノではなく、すぐに砕け散る。それを悲しく見ながら、自分が次は魔に堕ちていくのを感じて……兄が落とした剣を握った所までは何とか思い出した。



「お前の兄と二人を生かす為に、苦肉の策だったんだよ」

 リュリアーネはそう言って、ゆっくりと髪をなびかせながら泉を泳ぐ。

「彼女にとって二人とも大切な孫なのは同じだった」

「でも「目覚める」ってどういう事?」

 彼女は少し言い淀み、考えるように、

「昨日まで私もわからなかったが、火の霊王(ファイ・アリア)がお前の中にいるようだね。お前が魔に落ちかけた事で「目覚め」たのだろう。あれは魔に近い存在。余りに苛烈な王の為、神剣に封じられたはず」

「ファイ・アリア……神剣……?」

「天使界の話だから私も聞きかじった事しか知らないが。王を封じた事で「魔剣」とも呼ばれるようになった「剣」は、彼の死後、「冠」と共に行方不明になっている」

「剣に、冠? 彼って?」



「神の御使い、神の写し鏡とも言われる、大天使ミカエル」



「は? ミカエルだって?」



 こんな所でその御名を聞くと思わなかったファーラは、立て続けに疑問詞付の声を上げるしかなかった。

「ミカエルはその剣で魔王サタンを葬ったと言われている。その子と同じ、紫の目をした魔王をね。言って聞かすまでもないだろう?」

 数か月前、行われた奉納舞、あの日の祭りはその天使の誕生を祝うものだった。そんな天使が振るった剣にあるはずの力が、何故自分の中にあるのか、見当もつかない。



 ファーラは膝の上で休む、小さな天使を見やる。

 小さい小さい金の羽が彼の背中に輝いている。同じ色をした髪が、風に揺れた。汚れていたが白い長衣を纏って転がる姿は、神の申し子の様にとても愛らしい。

 だが一度その瞳を開けば、辺りを凍らす冷気を含んだ存在となる。

 ファーラが知る限りは、優しい心根の少年なのに。



「アーサー」

 彼女は心を込めて彼を呼んだ。

「私が祖母のファーラと契約したのは、彼女が未来視出来た、「玉」を渡し、私が知る事をお前に語る、今日、この時までなんだよ。今後、何かあって私にも被害が及ぶのは忍びないと言ってね」

「帰るんだ、自分の世界に」

 リュリアーネはこっくりと頷くと、ファーラの座る岩に半身を乗せ、その手を取った。まだ火傷が残っているのかピリピリとした痛みがあった彼に、その冷たさは気持ちが良かった。

 その爽快感が体全体に駆け巡った時、妙に背中が軽いのに気付く。いつも背中に負っていたぎこちない皮膚の硬さが殆どないのだ。振り返っても背中の事なので、見る事は出来ないがあの醜く酷い火傷とケガがほぼ癒されている事に驚いた。

「これは、どうして? レイルが?」

「紫の子と銀の子の「英断」だよ。愛されてるね、お前は」

 天使が見る限り、表情が読めない彼女が嬉しそうに笑っているとファーラは感じた。だがそれは一瞬で、次の瞬間には憂いを湛えている気がした。

「お前達兄弟、その紫の子、この世界がどうなっていくのかわからない」

 占い師は二人の孫を選べず、どちらも生かした。この事が彼らの未来に、良い事だったのか、悪い事だったのかリュリアーネにも占い師にもわからなかった。



「気を付けるんだよ? 大切にしなさい、お前は占い師ファーラ、そして紫と銀の子に生かされた命だからね」

 彼は冷たい彼女の手に確かな温かさを感じる。それは確かに心が通う瞬間だった。

「お前は私の弟であり、子であり、心配の種だ。だけど、火の王を含むとわかった以上、私は水の者故にここに居るとお前とは契約できないのだよ。主が居ない以上、こうやって頻繁には来れなくなる。それが我らが掟。でもお前は契約に関係なく愛しい子」

 彼女はその後、時には賢く生きよと言いたいけれど、清廉だからこそ火の「鞘」に選ばれたのだろうね、と、付け加えた。意味は解らないが、ファーラは大切な事だと直感した。

「巡り合わせとは奇なモノ、いつか会える日を望みたいよ」

「俺もだよ」

 手を放したリュリアーネは美しい姿態でゆっくり名残惜しそうに小さく円を描くように泳いだ後、パシリと水面を尻尾で叩いて姿を消した。



 その時、飛んだ水滴が一粒、レイルの頬にかかる。



 その冷たさで目が覚めたレイルの視界に、友人の見慣れた透き通った緑玉瞳が飛び込む。揺らめく赤色はそこになく、鮮やかな緑が紫の双眼を優しく見やる。

「ファーラ、気が付いたんだ。……あれ、泣いているの?」

「いや、レイルに迷惑かけたな」

「ううん。ここは現実だよね」

 気怠い体、多少混濁した意識の中で、レイルは手に握らされた耳栓でルナの無差別攻撃を受け流せた事を確認し、安堵の息をつく。無意識でそれを自ら耳に戻し、会話ができる程度まで音声を解いた。



 そして回りを見やる。

 うっすらと銀色の粉が流れるその空間の向こうに広がる瓦礫の街に、先程目覚めた時のファーラと同様に唖然とした。回りに立っていた銀色の樹々が無くなっていた為、先程より街は良く見えた。

 溶けた地面や、魔が少しでも流入しないように、放棄した建物をバリケードとして使ったのだろう。無残に横倒しになったそれらに、被害の大きさを知る。

 そして辺りに二人の少女を探すが、ルナとソネットが居ない事に気付く。

 そこでハッとして、レイルはファーラを見た。



 薄暗い中、赤とも黒ともつかない朱に染まる銀色の天使の姿を思い出し、ファーラが助かったと言う喜びは払拭され、途端に身震いした。冷たくはあるが、いつも冴えた輝きを持つ紫の瞳が濃く淀む。態度の急変にファーラも気付き、不可解な表情でレイルを見つめる。

「レーヴェともう一人の娘……ソネットは?」

「ああ、俺も起きた時には居なくて。リュリアーネが側に居た魔道士の子が連絡して連れ帰ったって言っていたよ。彼女も今、帰ったよ、自分の世界へ」

 レイルは立ち上がると、ふらふらしながらルナが座りつくしていた場所辺りに膝を折り、その地面を触る。

 何事も無かったかのように、そこには血の一滴も落ちていない。

 だがルナはココで歌ともつかない声と共に、血を撒きあげた。

 あの時、レイルにはその歌も血も、図形に分解され、歌は辺りを飛び交い、その効力を振りまく様が光って見えた。

 彼女が「世界の全ては図形によって構成されている」と言ったのは魔法、そしてその根源はと言う意味で嘘ではないとレイルは気付く。

 土を攫い、普通は目に見えないはずの図形として目を凝らす。



 ファーラがゆっくり立ち上がり、近づいて横にしゃがむ。

「どうした?」

 ここに一体何居たのか知らぬ彼は、首を傾げるしかない。

 だがレイルは銀色の天使が街から魔を一掃するための声と共にあげた血の痕跡が、土の中に微細に紛れているのを拾っていた。



 細い銅の鎖は、嫌がる聖唱使い(スペルメイジ)を従わせ、詠わせる為の魔法具だろう。

 肩の激痛も、レイルが体内を奪ったのも、堪えていた彼女に一瞬で声を出させたその鎖は、一体彼女にどれだけの負荷をかける道具なのか。

 あの鎖からは淡い光や優しいモノをレイルは感じなかった。あったのは強い征服と服従を求める強制の渦。



「背中、治してくれたのお前か? ありが……」

「ごめん!」

 ファーラの言葉を聞かぬよう、覆い被せるようにレイルの口から洩れたのは謝罪の言葉だった。

「その言葉は俺にじゃなくて、レーヴェに」

 彼女を傷つけたのはあの鎖だけではなく、自分の無知と決断だとレイルはわかっていた。

「ごめん、ごめん、俺、お前の好きな天使を傷つけてしまった、死んでしまうかもしれないくらいに深く、深く……そうしなかったら……」

 そうしなかったら、今、ここにお前はいないと言いかけて、言葉を飲む。

 自分と銀天使が何をしたか言えば、それを受け取ったファーラをも傷つけてしまう。



「俺、どうしたら良かったんだろう?」



 地面を引っ掻くと土が爪に入り、その手が汚れる。ファーラには見えない血の色がレイルにははっきり知覚できていた。

 レイルが足りないと請求したモノの量は半端ではなかった。

 掌の皮なんて比じゃない。それ程、傷ついていたファーラの体。

 同じだけ傷つけ、奪い、銀の天使は砕ける寸前だったのに、レイルはそれに気付けなかった。

 彼女があれ程望んだファーラの声に答えなかったのは、何も意地悪や嫌いだったからではない。どれだけ飛びつきたかったか知れない。だが彼女がそうしなかったのは、目の前でくずおれる姿をファーラに見せたくなかったからだ。

 全てに気付いたからとして、レイルにどうできたか?

 彼女が望んだとはいえ、声を上げただけで血を吐き上げるほど酷く、それは至っていたのに。



「何を、何があったんだ? レイル。レーヴェに何かしたのか?」

「ごめん、わからなかったんだ、ごめん。でも俺、自分が怖い……」

 もしあれほど傷つけるとわかっていたら、彼女と共に彼が救えただろうか?

 自分も死を覚悟して彼にその身を差し出せただろうか?

 余りの躊躇なさに気付かず、それでも施術者としてリュリアーネの忠告から導き出すべきだった事。

 銀の天使は鎖の呪縛から逃げられずに声を上げたが、街一つを犠牲にしてもファーラの事だけしか考えてなかった。ファーラが街を助けろと言うだろうからと迷っただけで、たぶん彼女に決断させていたら詠わなかったろう。



 レイルには全てを犠牲に友人を救うほどの覚悟はなかった。

 でも一見の彼女よりファーラの方が付き合いも長く、生贄に捧げるなら彼女を……結果を知った今、何度やり直しても同じ事をしてしまうと考える自分が怖かった。

 土に塗れた手が、レイルには赤く見え、この力は諸刃の剣なのだと心に焼き付ける。

「ごめん、ごめん……」

 レイルは謝りの言葉を繰り返し、泣き喚くその体を、ファーラは撫でてやる事しかできなかった。











 炎の中に、果敢に突っ込んでいく銀色の天使。

 どうして俺の前でなく、あいつの下に降り立つのか。

 銀色の大きな翼、守りの翼。美しく輝くナイフの鋭さをもつ庇護の力。

 川のように流れる長き髪に、煌めく青き瞳は、宇宙に浮かぶ地球のように遠く……

 それを見ながら、視界が歪む。熱で総てが奪われる。

 早く逃げるべきだったが、視力などどうでもよかった。



 きらきらと彼女の口にした歌が二度聞こえた。



 一度目は弟の魔化を止める歌だろう。



 二度目は叫びが声になった歌だった。



 初めて自分以外の聖唱使い(スペルメイジ)の歌を聞いた。

 彼女が歌って死に落とそうとしている父の体に触れ、その痕跡を読み、その歌を解いたが、直で聞くのは初めてだった。

 冷たい月の輝きを思わせる、けして派手ではないが、力強い灯を初めは感じ、二回目は苦しさと悲しさを混ぜた、かつて母の前で歌った自分の声を思わせる歌だった。

 銀の翼を大きく広げたあの姿と重なり、ぞくりとするような高揚感を初めて知る。

 あの声を腕の中で奏でさせたい。そう思った。





「あのお方が放った火の中で、まだ生きているなんて、流石だね」

 昨夜、大火事を出した南の森であったが、全域が燃えたわけではなく、白いフードが付いた服を着たその者が足を投げ出した地面には豊かな緑が朝露と雨に濡れて光り、背凭れにした針葉樹はしっかりとした緑の葉を風に揺らしていた。

 焦げたフードを目深に被っていたが、彼には声をかけた来た彼女が誰だかわかった。

「マーヤ様」

「目をやられたようだが、わかるのだね」

「私にアリエルを育てさせたのは、目覚めを促す為だったのですね」

「ふふふ……でもお前の呪いを解くカギは、昨夜のあの時に向かっていたのだ。お前の為にもなっただろう?」

 無理やりに彼女はフードをかぶった彼の顎を掴み、上に向かせる。そして輝くような美しい唇に、赤い口紅をひいたその唇を重ねる。激しくお互いの舌を絡め、奪い合うように口付を交わす。

「また私をお傍に置いていただけるのですか?」

「野心ある者は好きだよ」

「呪いが解けたら交わしたいという約束、お忘れではないでしょうね」

「ここでかい?」

 ファーラが学校へ行くようになり、屋敷で彼一人になる事が増えた頃から、彼女は彼の所を訪れていたので、そんなに久しぶりの再会でもない。だがこうやって契りを交わすのは、呪いを受けて以来なかった事だ。

 黒いドレスに身を包んだその姿は、何年も経つと言うのに変わらない。一時的にしていなかった化粧気も戻り、その妖艶さは衰えていなかった。

 その手で彼の下半身をさらけ出すと、自分の服もたくし上げ、下着をずらすと、何のお構いもなしにその上に座る。お互い荒い息をついて確かめるように動きを速め、ねっとりとした体液の分泌が結合を深めてゆく。

「ああっ……お前、うまくなったね」

「いつまでも小さな少年ではないのですよ」

 突き上げられ、堪えきれなくなった彼女の方が声を上げる。腰を浮かそうとした彼女をぐっと引き寄せ、一層深く突き込んだ。

「感謝していますよ」

 その言葉が吐かれると同時に彼女が達する。

 彼の左手が彼女の体を掻き抱き、唇を奪う。声が誰にも聞こえぬように。

 そしてそっと口を離すと、彼女の赤い唇からつつつっ…っと赤い雫が舞い落ちた。

「お前……そうか、良い覚悟だ……」

「ええ、私はもう誰の下に付く気も、命を差し出す気もないのですよ。逝って下さい」

 彼女に回した右手に握られた、飾りのないナイフが心臓の裏から差し込まれ、その動きを確実にとらえていた。何が起こったのか気付く間も殆どなく光を失った緑玉の瞳、それでもゆったりと彼女は笑う。彼女の手にも同じように刃物が握られていた。

 そして力なく倒れ込む体。死んだ体の中に一気に自分の物を吐き捨てると、だらりとした死体を彼は蹴り飛ばし、自分と彼女の繋がりを断つ。

「いつまでも自分のコマだと思ったら大間違いです」

 立ち上がった時、パサリと脱げたフードからゆったりとウエーブのかかった長いオレンジ色の髪が揺れる。

「火の信奉者……というより、狂信者と言った方が正しいですかね。宗教には興味はないのですよ」

 彼は今通じた女を殺し、死体がそこにあると言うのに、動じる事もなくクスリと笑った。

「さて、どこへ行きましょうかね?」



 彼の耳に祖母の言葉が響く。

「お前の望むモノは手に入らないだろう。今も昔も答えはその手の中にあるのにも気付かないで。恨みも憎しみもお前自身を切り裂いているというのに、それでも尚進むならそこには荒れる波が待っている」

「私やアリエル、小さな個人の痛みより、その波を起こさなければいけないのが貴女の使命と言うわけですね」

 その時、彼はそう言い返した。

「否定はしない。お前はそこまでわかっていながら、あえて波を受けに行くのだね」

「貴方の孫ですから」

「ならば、お前には私の遺産を譲り受けてもらおう。足掻いても世界の流れはなかなか変えられないが、

 お前は好きに生きればいい、私のように。それで世界は回っていく」

「貴女が子を産んだように、孫を守ろうとするように、好きにしていいと言うのですね」

「止めても無駄だろう? ただ今は「玉」は渡せない」

 とにかく生き延びたかった、どうしてこうまで執着するのか自分でもわかってはいなかった。

 でも母のように無為に殺されたり、誰にも知られずに死んでいったりするのが嫌で、もう誰かに利用されるのも、何も知らないのも御免だった。



 呪いは解けた、命は繋いだ。

 なら、この世界を歩むのは、この自分の足と翼で。



 彼の頭に大きな銀の翼を持つ女神がよぎり、その手を取る者の姿が見える。

 その傍らには黄金の髪の少年が居て、その先には水色の目をした少女。

 沢山の糸が絡んで揺蕩うのが、今の彼にはよく見えた。












 いつまでも泣いているわけにはいかなかった。

 レイルは動けば動くほど、嫌な方向に物事が動いている気がしてならなかった。だが動かないまま、成り行きを見定められるほど大人しい性格でもない。

 どうにかしてあのレーヴェ、ルナと名乗る銀天使の様子が知りたかった。様子を知ったところでどうなる物でもないのは分かっている。ただ一人しかいないならすぐに見つかりそうな気もした。

 だが、今まで銀の天使など会った事はない。稀有な銀色の天使、その存在を覆い隠すほどに力とは一体どれほどなのか、想像もつかない。

 家に戻るまでに魔に荒らされ、酷い状況を眼下に見ながらレイルは帰宅した。

「大丈夫か? レイル?」

「ううううううっ……レイルさまぁ重ーーーい。ちょっとファーラ、ちゃんと抱えてる?」

「抱えてるよ。でも俺の魔力も限界~」

「だから病院に行ってくれればいいのにっ! これじゃ私が二人運んでいるようなものじゃないのっ! 無理よーっ」

「やれてる、やれてる、カデンツァは出来る子だ」

「きいいいいぃっ! 貴方に褒められてもうれしくないし」

 ファーラとカデンツァはあまり仲が良くない。良くないと言うか、妖霊は気ままであり、自分の気に入った天使にも気分が乗らなければ従わない。だからそれ以外の天使には尚更、態度が悪い。それだけの事である。



「俺、調子悪いのかな?」

 レイルは今までカデンツァの力を借りれば飛べていた。

 だが今、ふらふらの低空飛行すらままならなかったのである。

「かな? じゃないだろう。レイル」

 ファーラに抱えられ、カデンツァに添えられてやっと飛んでいる有様だったのだ。

「でも飛ばないと帰れそうにないし」

 南の森から離れたレイルの家の周りは荒らされていなかったが、点々と黒い毛玉が転がっている。ヒトを喰う魔物エポデの死骸。少し大きな体の魔もいて、軍が車で回収しているのも見て取れた。

 こんな所まで魔が来ていた事と、歌の効力が届いている事に驚く。一応、動いている塊がないことを確認し、家の前に降り立つ。

「昨日の夜から散々だわっ」

「カデン、本当にありがとう。ファーラが助かったのは君のおかげだよ」

「ぇ……うん、レイルさま、大丈夫なの?」

「カデンツァもゆっくり休んで」

 彼女はソネットと言う子に脅されて火の中に飛び込まされたり、今も酷使されている事を文句言おうとした。だが、レイルの言葉にむくれた顔のままだったが少し頬を染める。自分の好きな天使からかけられる、偽りのない賛辞や感謝が守護霊(ガーディ)としての誇りだ。

 満足の行く言葉だったが、疲れからかレイルの微笑が余りに薄いのを気にしながら、彼女は姿を消した。



「ファーラもありがとう。中に入って」

 レイルはそれでも精一杯ファーラが躊躇しないように笑いかける。

 彼には行く場所がない、病院に行くように促したが、彼と今離れるのはお互いに不安で一緒に動く事にしたのだった。



「ただいま……」



 誰もいないかもしれない、そう思っていた彼らを待っていたのは、顔色が悪いまま荷造りをする母メアリの姿だった。











「どう言う事だ?」

「ルナの側にいる事が私にとってもプラスになると思っていました。彼女の世話をし、命令に従わせる事が彼女の為になるとも」

「命令に従ったから彼女はココでちゃんと面倒を見る。それにお前が強制的にでも歌わせていなかったら、あの町は崩壊していただろうし、ルナはその責務放棄で粛清対象になっていた。正しい事をしたのに、何故ここを辞めたい?」

 ソネットを見やる紅玉瞳(ルビーアイズ)の女は、端末に流れる文字を拾いながら話し、彼女を見ている様子すらなかった。冷淡な顔立ちに鋭い眼光を宿す赤の瞳、短めに整えられた髪は真珠のような輝きを放つ淡い藤色と赤の髪が混じった不思議な毛色をしている。



 リィ財団の「紅」。

 血の赤と見まがうほどの紅い印象を放つ二十歳にもならないと思われる彼女は、ここでそう呼ばれている存在。本名はシフォーミルフ・ティリオス・ミルフリィ・リィフレアというが、長すぎてその名を名乗る事は少ない。財団当主のみが代々受け継ぐクレナイの名が彼女に付いてそう長くはなかったが、もうそれが彼女の一部となっていた。

「この財団より良い待遇の場所でも見つかったか? それともファース財団から戻るように要請されたか?」

「そんな話、無いのは知っているでしょう、財団の中で一番安定しているのぐらいはわかっています」



 財団は天使界の経済を司っている集団で、一般市民にはあまり馴染みがない。財団が動いてくれなければ、物資の供給が止まるらしい、その程度の認識でしかない。そして止まるとは思われていない天使界の巨大な庇護の集団である。



「確かに一番大きいのはうちだな」

 紅は大して面白くもなさそうに相槌を打つ。

「医療系行為だった事は報告書に上がっているが、銀は何をやらかした?」

「良くわからないんです」

 ソネットは昨夜、ルナと紫水晶瞳を持つレイルが何かしらやり取りをし、火を纏っていた瀕死の黒天使を癒したのを目の当たりにしている。

 三人に近付こうとして、ルナが作り出した防御壁に阻まれた時間はそう長くはなかった。壁が無くなった途端に力が抜けたように座ったルナの顔はどことなく力がなく。

 でも立ち上がっていたから、大丈夫だと思った。

 だが詠わせた途端に吹き上げた血の多さに、ソネットの方が委縮して、動きが取れなくなった。



「まあ、お前がわからないなら、他の誰にも判明できないだろうが。バイオレットが居たら、さぞ喜んだだろう、研究熱心だったからな」

 そこでやっと紅は一瞬だけソネットを見やった。

 バイオレットは彼女の姉。

 彼女と同じ魔道士でもあった彼女はルナについていた医師であり教育係でもあった。ソネットから見て、自分より遥かに優秀で、将来が期待された医師であり医療研究者だった。

 彼女は、警護中に命を落としたのは数年前だ。



「バイオレットの事でも思い出したんだろう?」

 ソネット彼女は姉の血まみれとなった姿を見ており、それとルナの姿がフラッシュバックして、身動きが取れなくなった事ぐらい、紅は簡単に見越していた。それ故に、ルナの側に居る役を辞退したいと言ってきたことも。



「だいたい何故、あの葬送に付けていた補佐を外したのですか?」

「ん? 聞いてないのか?」

「ええ」

「銀には、恋をして来いと言って置いて帰った」

「はい?」

 紅の言った言葉の意味が解らず、何も返せない。そんな彼女を見やって、笑う。

「あのまま育てたら、弱点も急所もない天使に育つ。適当な所で天使らしい感情を持たせる事も必要だ。それはお前じゃ無理そうだったから、私が言っておいた」

 して来いと言われてできる物でもないが、意識するのとしないのとでは、ルナの様な極端すぎる性格なら効果があるかもしれない。実際、ルナはあの黒天使の事を気にしていた。

「弱点と言うか、どうなのでしょう? 今後、彼の事となると、思い通りに動いてくれないかもしれませんよ? 今回も詠わないって言いましたし」



 紅は「その辺は問題ない」と言って、端末から手を放し、立ち上がる。

「銀の体は一度くらい診たか?」

 ソネットが複雑そうに表情を変えた事で、怖くて彼女に指一本たりとも触れられなかった事を紅は察する。

 目にかかった髪を無造作に掻き上げる。

「今日、この場を持ってソネット・レイザ・ブルーを、聖唱使い(スペルメイジ)銀専属補佐主任および警護任務を解雇する。以降、ファース財団所属政府警護集団である魔道士にその身を返却し、その取扱いは魔道士長、および財団当主に一任する。また専属補佐主任は空席のままとし、魔道士の警護は不要とし引き継ぎは無用とする」

 ソネットはそれを聞いて、ルナを置いていく事に後ろめたさを感じる。本当に友ではなかったし、手間のかかる子ではあったが、嫌いではなかった。

「本当はそろそろお前に銀のエンゲージドラックを用意させるつもりだったのだが」

「エンゲージ?」

「もうお前には関係ない話だ。シフォルゼ、彼女がお帰りだ」

 いつの間にか部屋に黒髪に赤い角を持った黒天使が現れ、彼女に退室を促した。

 紅はもうソネットを見てはいない。彼女を送り出した黒天使シフォルゼが扉を閉め、口を開く。

「銀は誰に診せる気だ? ソネット以外の治療を拒否してるぞ」

 シフォルゼは黒い切れ長の瞳で紅を見返した。

「どうせ今のソネットでは治せないだろう。銀は生命維持用のポットに放り込んでるんだろう。そのまま死なない程度で生き延びさせろ。暴走だけはさせるな」

「わかった」

「それから拒否反応の少ない複製の完成を急げ」

 そう言ってから彼女は端末を切り替えると、暗い部屋に置いてある水槽が画面に映る。



 水槽には人形が幾つか浮かんでいる。

 その人形の髪は輝く銀色、背中には銀色の翼。

 銀天使の複製。

 だが「玉」のない、どれ一つとして水槽からは出せない不良品であった。

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