ぼくらのはな
友達のケンちゃんと喧嘩した。
悪いのはケンちゃんなのに、ケンちゃんは謝らなかった。
だから僕たちは絶交した。
次の日、起きると僕の頭に植物の芽が生えていた。
抜こうとしたけど、髪の毛のようにしっかり頭にくっついていて抜けなかった。
僕は慌ててパパとママに知らせに行った。
すると、なんとパパとママの頭にも芽が生えていた。
しかも、2人は頭に生えている芽が見えていないみたいだ。
僕が必死に頭の芽の事を言っても、信じてくれなかった。
この芽は何なんだろう?
なんで僕だけに見えるんだろう?
そして一体何の芽なんだろう?
外に出てみると、みんなの頭にも芽が生えていた。
そして、やっぱり誰も芽が見えていないようだった。
僕はいろんな人の芽を観察してみることにした。
みんな同じように芽を生やしている。
芽が成長している人はいないかさがしていると、笑っている人の芽が急に成長した。
その人の芽はあっという間に花を咲かせて、なんと咲いた花は周りに花粉を飛ばした。
すると、花粉が付いた周りの人たちの芽も、急に花を咲かせて笑い出した。
何が何だかさっぱり分からない。
しばらくすると、頭に咲いた花は急にしぼんで、また元の芽に戻ってしまった。
そして花を咲かせて笑っていた人たちは笑うのを止めてしまった。
花が咲くのと笑うことには、何か関係があるのかな?
僕の頭の芽も、花の芽なのかな?
もっといろんな人の芽を見てみよう。
今度は泣いている人の頭に花が咲いた。その花はさっきの人と同じように花粉を飛ばし、花粉の付いた周りの人たちもまた花を咲かせた。
すると、みんな悲しそうな顔をした。
イライラしている人が咲かせた花は、たくさん花粉を飛ばして、側にいる人をみんなイライラさせた。
どうやらこの芽は、笑ったり、泣いたり、怒ったりした気持ちに反応して花を咲かせるみたいだ。
そして周りの人たちを同じ気持ちにさせてしまうんだ。
そっか、いつも笑顔の人の側にいたら何だけ自分も楽しくなったり、悲しんでいる人を見ると自分も悲しい気持ちになったりするのは、この頭の花が花粉を飛ばしてるからなんだ。
みんな気付いていないだけで、この芽は誰にでも生えているものなんだ。
花の正体は分かった。
でも、なんで僕にはこの芽が見えるんだろう?
そうやって、いろんな人を観察しながら芽について考えていると、ばったりケンちゃんに会った。
ケンちゃんは僕を見ると頭の花を咲かせて花粉を飛ばした。
その花粉が僕に付くと、なんだかむしゃくしゃした気持ちになった。
そして僕の頭も花を咲かせて、ケンちゃんにむしゃくしゃした花粉を飛ばした。
僕たちはお互いむしゃくしゃした花粉を飛ばし合い、会話もせずに別れた。
ケンちゃんがいなくなっても、僕の頭の花はずっと咲き続けていた。
僕の胸はずっとむしゃくしゃした。
謝ってくれないケンちゃんに、僕はむしゃくしゃした。
本当は、謝ってくれれば、僕はケンちゃんを許す気だった。
でもケンちゃんは謝らなかった。
僕の頭の花は、いつまでもむしゃくしゃした花粉を飛ばした。
芽について考える気がすっかりなくなってしまい、僕は家に帰ることにした。
むしゃくしゃした花粉は、パパにもママにも飛んで行き、2人は僕がむしゃくしゃしているのに気がついた。
理由を聞かれて、しかたなく僕は素直に話した。
すると、ママは僕に謝りに行きなさいと言った。
なんで僕が謝らないといけないのだろう。悪いのはケンちゃんだ。
僕はママに怒った花粉を飛ばした。でも、ママの花は咲かなかった。
確かにケンちゃんも悪いかもしれない。でも、そうやってすぐ怒るあなたも悪いのよとママは言った。
ママの話を聞いている内に、僕の花は萎んでいった。
確かに、僕はケンちゃんが謝る前に怒った。
僕が怒って飛ばした花粉が、ケンちゃんに怒った花を咲かせてしまったのかもしれない。
そして僕たちはお互い怒り合って、喧嘩してしまったんだ。
さっき会った時、先にむしゃくしゃした花粉を飛ばしたのは、本当にケンちゃんだったのかな?
ひょっとしたら、僕が先に飛ばしていたのかもしれない。
…………。
僕はもうむしゃくしゃしていたくない。早くケンちゃんと仲直りしたい。
僕はすぐにケンちゃんに謝りに行くことにした。
そしてケンちゃん家に行く途中で、ケンちゃんに会った。
ケンちゃんも僕の家に行く途中だった。
僕たちは同じ事を考えたんだ。
だから、僕たちは同時に謝った。
「「ごめんね」」
僕たちの頭に、今度は笑顔の花が咲いた。
次の日起きると、もう頭の芽は見えなくなっていた。
でも、きっと見えなくなって今でも、僕たちの頭には芽が生えているんだ。
おしまい