『其の十五』 ヒモリの裏側
俺とヒモリは、イノとシラヌイが言い合っていた綿あめの屋台のところまで歩いていた。
先程までは赤く染め上げていた空は、暗くなっていた。
「もう夜か……早いな」
「そうだな……」
するとヒモリは俺に話しかけた。
「なあレイよ、どうして今日会ったばかりなのに優しくしてくれるんだ?」
俺は少し考え、答えた。
「意味なんてねーよ……でもあるとしたら一緒にいると楽しいから、かな?」
「お前ってやつは……」
少し呆れていた声だった。
そして目的の場所まで歩いていると、少し前の時より人が増えていた。
笑う声、話す声、子供が泣く声。
全部が祭りの一部となっていた。
するとヒモリは歩みを止め、俺の手を握った。
「ん……?どうしたんだ?」
ヒモリは俯いていて、表情が分からなかった。
その状態でヒモリは俺に話した。
「私は神様なんだぞ?恐れられてもしょうがないほどに」
「それがどうしたんだ?」
「普通ならベタベタと触らないものだ、屋台の店主達も一定の距離感がある」
「でもお前は関係無しに、一人の女性として扱ってくれた」
俺は何を伝えたいのか分からなかった。
するとヒモリはゆっくりと俺の方へ歩き出した。
「もしかして体調が悪いのか……?」
その瞬間、ヒモリは俺を抱きしめた。
いきなりのことで声も行動も何もかも出せなかった。
「……だからお前はあの二人を勘違いさせるんだよ」
ヒモリの温かさを感じた。
火の神様だからか、それとも祭りのせいなのか。
しかし鼓動が早くなっているのだけは分かった。
「勘違いって……おれは何も……」
するとヒモリは顔をあげ、俺の目を見つめた。
「私は生まれて始めて、こういう扱いをされた」
「一緒に射的をしたり、一緒に遊んだり……」
ヒモリの表情がだんだんと火照っていた。
「今日始めて会った、それなのにこの胸の高鳴りがずっと、ずーっと止まらないんだ!」
そして俺の胸にヒモリは顔を埋めた。
「神様が普通の人間に恋をするのはあり得ないと思ってる」
「……でもお前の優しさに始めて触れて、この気持ちが生まれた」
俺はただ聞くことしかできなかった。
「私はずっと一人ぼっちだったんだ」
「人々からは感謝されていた……守ってくれてありがとうって」
「……だからこそ孤独だったんだ」
その言葉におれはようやく話せた。
「……どうして孤独だったんだ?」
「……人と接しすぎると守れるものも守れなくなると知ったからだ」
「それって……」
ヒモリは俺を抱きしめ、話した。
「そうだ、私は一人の少年を見殺しにしてしまった」
「彼なら大丈夫だと、彼なら帰ってくると……そう信じていたのに消えてしまった」
そしてヒモリの目から涙が溢れ出した。
「だから私は一人を選んだ」
「……それなのにお前に出会って、気持ちが揺らいでしまうんだ!」
人の声、雑音、環境音。
それらがまるでヒモリを不安にさせているかのように感じた。
「なあレイ……私はもう一人になりたくない……」
「もう犠牲を出したくない……」
「どうすればいいんだ……?」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せた。
前までは姉御肌だったが、今では小さな少女になっていた。
そして俺はヒモリを抱きしめ、頭を撫でた。
「なら一緒に旅をしないか?」
「旅……?」
「そうさ、イノが俺の記憶を取り戻す為にって」
「……それがなんで?」
俺はヒモリの頭を撫でながら話した。
「一人になりたくないなら俺達と一緒にいろ、そして俺達を守ってくれ」
「そうすれば強くなれるし、孤独にもならない」
「で……でも」
ヒモリの口を塞ぐように強く抱きしめた。
「何も言うな、お前は頑張ったんだ」
「これ以上頑張ってどうする……自分の身を滅ぼしてたら元も子もないだろ?」
するとヒモリは強く抱き返した。
そしてぼそっと言った。
「ありがと……レイ」
「ああ、満足するまでこのままでいいさ」
そうして俺達はイノとシラヌイの所に行く前に、少しだけ二人の時間を作った。




