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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

王子!貴方との婚約、破棄させて頂きますわ!

作者: ボアの本棚
掲載日:2026/01/30

「カロン王子!貴方との婚約、破棄させて頂きますわ!」


 婚約者のアイリスが声高に叫ぶ。

 今日は学園の卒業パーティー。

 このパーティーが終わったら俺達は結婚するはずだった。

 ダンスが終わり、俺が跪いて指輪を見せ、プロポーズした瞬間に婚約破棄宣言だ。


「貴方と結婚なんて地獄でしかないわ!これで何度目?!百回目ですよ!百!しかも相手は私の妹よ!」


 俺は土下座した。側土下座した。

 学園の教室で婚約者の妹と浮気した俺が悪いのは分かってる。

 床に額を殴りつけて謝った。


「済まない!ちょっとした遊びのつもりだったんだ!でも本当に愛しているのはアイリス、君だけなんだ!」


 アイリスが頭を抱え、髪を振り乱しながら涙を流して叫ぶ。

 

「そのセリフも百回目!いつもいつも同じ言い訳!私は何度このやり取りを繰り返せばよろしいんですの!もう解放してください!」


 わぁっ!と床に突伏して号泣するアイリス。

 会場にいる参加者達は誰も口にしない。

 アイリスの泣き声だけが会場中に響く。


「アデル嬢・・・」

「アイリス様」


 俺の友人達やアイリスの友人達が駆け寄り、慰めの声を掛ける。


「大丈夫か、アデル嬢!」


 俺の護衛騎士のラルク。


「頑張りましたね、アイリス様」


 俺の側近候補のノクティス。


「アイリス様、帰りましょう」


 アイリスの親友、ジュナ・アイリーン嬢


「・・・・えぇ」


 アイリーン嬢の手を借り、立ち上がるアイリス。


「さすがに愛想が尽きたぜカロン」

「すみません、僕はもう、貴方を支えられません」


 ラルク、ノクティス。


「済まないアイリス。許してくれ・・・・」


 ギッ!と俺を睨む彼女らに支えられ、アイリスは参加者の間を抜けて去って行く。


「アイリス・・・・」





 控え室に一人で座り込み、今までの事を思い返してみる。

 思えば、俺の浮気癖は九歳頃から始まった気がする・・・。

 それまでは何とも思わなかった他の女の子達が突然輝いて見えて、仲良くなりたくて仕方がなくなった。

 そう言えば、そうなる前に何か、何かがあった気がする。

 何だっただろう。

 ここまで引っかかっているのに思い出せない。

 

 頭を抱えて悩んでいると、コンコン、とドアをノックされる。


「はい、どうぞ」


 ドアの隙間から顔を覗かせたのは、アイリーン嬢だった。


「アイリーン嬢、どうしました?アイリスは?」


 アイリスに何かあったのかと椅子から立ち上がり、状況を尋ねる。


「カロン王子!」


 アイリーン嬢は俺に駆け寄り抱きついて来た。


「アイリーン嬢!どうしました?!」


 俺は慌てて彼女を引き離す。


「私、実は子どもの頃から王子をお慕いしておりました。でも王子にはすでにアイリス様と言う婚約者がおりました。しかし今日、お二人は破局されました。私は浮気など気にしません!最後は私の元へ戻って下さる。そう信じております。どうか私をお選び下さい!」


 彼女の水色の瞳から涙が一筋流れる。

 俺はその目に吸い込まれる様にキスをしていた。


 サクッ


「ゔっ」


 アイリーン嬢の体から力が抜け、重さが腕に伝わる。

 気づけば俺の左手は彼女の生温かい血で染まっていた。

 目の前には見覚えのある赤いドレスの裾が揺れている。

 視線を上げると、アイリスが鬼の形相で俺を睨みつけ、両手には短刀が握られている。


「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!」


 アイリスは両手を振り被り・・・・。

 そこからの記憶は無い。





「カ・・・・、ロン、カロン!」


 ハッ!と目が覚めると、目の前には小さなアイリスが居て、目を見開き、驚いた様に俺を見ていた。

 ここは、王宮の中庭?茶会?左には母、白い丸テーブルを挟んで目の前にアイリス、左にアデル夫人が座って紅茶に口をつけている。


 (コレはどう言う事だ?なぜ俺は生きてる?体が、縮んでる。まるで子どもの頃に戻った様に・・・・)


 心臓が高鳴り、冷や汗が出る。

 それはアイリスも同じ様で、青い顔をして震えている。


「大丈夫ですか?カロン。具合が悪いのなら今日の顔合わせは延期しても良いのですよ?」

「お母様・・・・」


 母の温かい手が俺の頬を撫でる。

 

「お、俺は、大丈夫です」

 (顔合わせ?何の?)

「それなら良いのですが、アイリス嬢はどうです?」


 母がアイリスに機嫌を伺う。

 

「アイリス、緊張しているの?今日はただのお茶会みたいなものだからそんなに気負わなくていいのよ」


 アデル夫人が優しくアイリスの背中を擦る


「わ、私は、その」

「私は!王子の婚約者にはなりたくありません!」

 

 アイリスは今まで聞いた事の無いような大声で叫んだ。

 母もアデル夫人も驚いて何も言えない様子だ。


「俺はアイリスと結婚したい!浮気はしない!アイリスだけを愛す!約束する!」


 俺の宣言に母達は微笑ましく笑い合っている。

 突然、アイリスは席を立ち走り去ってしまった。


「待ってアイリス!」


 俺も急いでアイリスを追いかける。


「あまり遠くへ行ってはだめよ!」


 母の声が遠くに聞こえる。


「待ってくれアイリス!君は何か知っているのか?これはどう言う事なんだ?!」


 アイリスは意外と足が速い。どんなに走っても追いつかない。


「来ないで下さい!世界一の浮気者の婚約者なんてゴメンですわ!」

「私は平凡でも真面目で誠実な男性と結婚して幸せになりたいのです!」


「今度こそ、浮気しない!真面目で、誠実な、男に、なってみ、せる!」


 俺は全力でアイリスを追いかけた。


「信じられませっ!」


 振り向きながら走っていたからか、アイリスは誰かにぶつかってしまったようだ。尻もちをついている。


「だ、大丈夫かアイリス?」


 俺はアイリスの肩を支える。


「失礼しました。お怪我はありませんか?」


 アイリスを起こしながら相手の女性に声を掛けゾッとした。

 女は全身黒尽くめで天を見上げながら何やら呟いていた。


「失礼します」


 俺はアイリスを抱き寄せその場を後にしようとした。


 突然、女はグルンッと体をこちらに向け、ギョロッと見開いた目で俺達を見つめると、ニヤッと笑って「可哀想」と言った。


「可哀想。貴方は愛されない。愛する人から愛されない。私と同じ。私と同じ。愛する人から愛されない。私と同じ」


 女はケタケタと笑う。


「そんな事は無い!俺が愛す!俺はアイリスだけを愛す!アイリスだけを愛す!」


 俺はアイリスを抱き寄せ力強く宣言した。


「・・・・」

「次は無いわよ」


 そんな事を言って消えた。


「本当ですか?カロン様」

「今度こそ本当に私だけを愛してくれますか?」


 アイリスが俺の腕の中で呟く。


「アイリス、正直に言うね。俺は、一度死んでるんだ。この先十年の間に百回くらい君を裏切り傷つけた。そして当然の報いを受け、気づいたら今日に戻っていた。約束する。今度は君を裏切らない。大切にする。でもって一回でも浮気したら婚約破棄で良い!」


 俺はアイリスの目を見て誓った。


「私も、正直に言いますわ。私、カロン様とアイリーン嬢を手に掛けた後処刑されました。そして気がづいたら今日に戻っていました。時が戻った事は理解できましたが、またあの様な人生を歩みたくなかったのです。でも、あの女性に会った時、思い出しました。あの時は、カロン様に会えて、恥ずかしくて逃げ出してしまいました。そしてあの女性にぶつかり同じ事を言われたのです。まるで、呪いの様に・・・・」


 呪い。もしかしたら、俺の浮気はあの女の呪いなのか?

 




「何言ってんだお前、人生は一度きり。死んだら終わりに決まってんだろ」


 将来の俺の護衛騎士、ラルク・ダーナー。


「大丈夫ですか?母に頼んで治癒魔法を掛けてもらいますか?」


 宰相の息子のノクティス・ウェッジ


「本当ですわ。信じられないのは当然ですが、私達、死に戻りしましたの」


 悲痛な表情でアイリスが呟く。


 俺達は今、王立学園初等部の食堂で昼食を取りながら話をしている。


「アデル嬢が仰るなら僕は信じますよ」

「俺も信じるぜ、カロンと違ってアデル嬢はくだらねえ嘘つかねぇもんな」


 (コイツラ後で潰す!)


「で、お前らには俺が浮気しそうになったら殴ってでも止めて欲しい。俺が愛しているのはアイリスだけだ!」


 俺の隣でシチューを食べているアイリスを見る。

 アイリスは恥ずかしそうにしている。


「ふへっ!アッツいね〜」

 

 ベーグルサンドに齧り付きながら冷やかしてくるラルク。


「ねぇ、次の授業の実技自信ないわぁ」

「あたしも〜。魔力をおなかに集中させるってよく分からなくて」


 俺の横を女生徒が通り過ぎる。

 俺は無意識に彼女らを目で追っていた。


 バシャアアアン!


「要するにこうやって目を覚させてやればいいんだろ?」

「・・・・まぁ、そうだな」


 ラルクが俺に水をぶっ掛けたようだ。

 全身がずぶ濡れだ。


「ノクティスもアデル嬢も、カロンが浮気しそうになったら水魔法をぶちかましてやれ」

「そうします」

「はい!」

「・・・・」


 そうして、俺が女の子達に目を奪われる度に水をぶっ掛けられて常にずぶ濡れでいた為、とても不名誉なあだ名がつき、女の子達は俺を避ける様になった。。    

 どんなあだ名かは俺の名誉の為に伏せて置く。





「ゲボッ!ガハッ!ゲハッ!」


 一ヶ月間にわたって浮気ができないストレスと、アイツらに水をぶっ掛けられ続けたせいで風邪を引いたようだ。


「あなた達どんな遊びをしていたの」

「ずぶ濡れの状態で一日過ごしていれば風邪も引きますよ」


 お母様が額のタオルを替えてくれる。


「すみません、お母様」


「あなた達、何を隠しているの。お母様に話してごらんなさい」


「どうせ信じてくれませんよ」


「信じますよ」


 お母様はどこか空を睨む様に言った。


「?」

「分かりました。笑ったり呆れたりしないでくださいね」


 人生二度目の事、浮気性の事、呪いかもしれない事、浮気しそうになったら水をぶっ掛けて止めて貰っていた事。

 呪いの解き方が分からない事を話した。

 お母様は真剣に、黙って聞いてくれた。


「こんな話、お母様は信じてくれますか?」

  

 俺は子どもの様に伺う様に聞いた。

 実際今は九歳の子どもなんだけど・・・・。


「さぁ、もうお休みなさい。お母様が側にいますよ」


「はい」


 こんな安心感に包まれて眠るのは何年ぶりだろうか。





 俺は夢を見た。

 一人の黒尽くめの少女が家族から虐待を受けている夢。

 殴られ、蹴られ、暴言を吐かれ、兄妹の中で自分だけ愛されない夢。


「お前なんて産まれて来なければよかったのに!」


 開かれたお茶会で隅のほうに立ち、誰からも声を掛けられる事も無く、少女の方から声を掛けても嫌そうな顔で避けられる。使用人にも居ない者として扱われる夢。


「やだ、話しかけないで!呪われそう!」


 学園では死神と呼ばれ、教師公認のイジメの対象になっていた時、哀れに思ったお父様に救われて初めての恋を知った夢。


 (この人は私を愛してくれる?)


 お母様と言う婚約者の存在を知り、嫉妬と絶望の感情を知った夢。


 (やっぱり私は愛されない・・・・)


 学園のホールで、沢山の参加者に囲まれて、お父様がお母様を抱きよせて一人の女を断罪している夢。


「アンジェ・ウェッジ侯爵令嬢。私が君を愛する事は決して無い!私の婚約者はここにいるヴァイオレットだけだ!私に付き纏うのはやめてくれ!」


「付き纏うだなんて私は、」


 女は全身が黒尽くめで顔も髪で隠れていてよく見えなかった。


「ヴァイオレットに対する嫌がらせに、暴行傷害!」

「証拠は上がってるんだ!」


「そ、それは、わざとじゃないんです。偶然そうなっただけで・・・・」


「偶然で階段から突き落とされたり教科書や鞄がズタズタにきり裂かれてたまるか!」


 (私は許されない事をしてしまった。そしてやっぱり私は誰からも愛されない・・・・)


 あの日のあの女の後悔と悲しみの夢。


 あの女は笑顔で涙を流し床に崩れ落ちて呟いた。


「貴方は愛さない。皆と同じ。貴方は愛さない。絶対に私を愛さない」


 女の呟きに俺は答えた。


「うん。俺はアンタを愛せない。皆と同じ。俺はアンタを愛せない」


 息子は「ごめん、ごめん」と呟き、涙を流してあの女を哀れんでいる。

 

 アンジェ・ウェッジ侯爵令嬢。

 常に黒いドレスを身に纏い、陰気でオドオドとしていて存在するだけで周囲を苛つかせていた女。

 夫に恋をして、私を嫉妬して疎み、消そうとした女。

 それだけでは飽き足らず、息子の人生まで壊した女。

 

 誰にも愛されない女。


「私が愛してあげるわ!」

「アンジェ!私が愛してあげる!」

「このお腹に宿りなさい!」

「愛のある人生を歩ませてあげるわ!」


 私は息子の側で「ありがとう」と泣く黒い女に向かって叫んだ。


「さぁ、来なさい」


 女は顔を上げ、一つ頷くと、スゥッと私のお腹へと入った。

 息子の表情が和らいだ気がした。


 



「アンジェ・ウェッジ侯爵令嬢の魂を腹に宿した?!」


 お母様に子どもが出来たと聞いた時、俺とお父様は驚いた。

 俺に弟妹は居ないし、何が未来を変えたのか分からなかったが、あの日何が起きたのか聞いて納得した。

 しかし、全てが初めて聞く話だったお父様は最初は理解出来なかったようで、信じられない様子だった。

 だか時間は掛かったが母の説得と、大きくなるお腹を見て覚悟を決めたようだ。

 

「お前最近女子に興味示さなくなったなぁ」


 授業中、隣に座るラルクがつまらなそうに呟いた。


「俺が興味あるのはアイリスだけだからな」


 あれ以来、俺の浮気性は鳴りを潜めた。


「カロン様、そんなに見つめられては恥ずかしですわ」


 最近、アイリスがよく笑う様になった。

 女の子が側を通り過ぎても声を掛けたくなる衝動も無く、どんなに遠くにいる女の子も察知する能力もなくなった。


 今ではどんなに遠くにいてもアイリスを見分ける能力を身に着けた。


 



 十年後


「カロン王子!貴方との婚約、破棄させて頂きますわ!」


「止めろアンジェ!断罪ゴッコなんて縁起でもない!」


 今日は学園の卒業パーティーだ。

 卒業した後は、俺とアイリスは結婚する事になっている。


 皆が見守る中、俺はアイリスの前に跪き、指輪を見せてプロポーズした。


「俺と結婚してください。アイリス」


 婚約破棄しますわ!なんて言わないでくれよ!


「はい。その申し出、受けますわ」


 アイリスはそう言って左手を差し出した。

 薬指に指輪を嵌めて立ち上がると、皆が一斉に拍手をしてくれた。


 ラルク、ノクティス、そしてアンジェ。

 ありがとう。幸せになるよ。



こんにちは、ボアと申します。

もし「面白い!」と思われたら

感想などいただけると参考になりますので

嬉しいです。

よろしくお願いします。

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