【6】冒険者ギルド
――――異世界と言えば冒険者!そしてその象徴であり拠点が冒険者ギルドだろう。
「わぁっ、ここが冒険者ギルド!」
まさしく異世界ファンタジーの冒険者ギルドのイメージだ。西洋風の大きな建物に、出入りする冒険者たち。
「ロジー、冒険者ギルドには初めて来たのね」
「うん、レベッカ」
今まで異世界らしいものなんて全く体験できなかったもん。強いて言えば馬小屋か。
「中はどうなってるんだろう」
「きゃん」
「シギも気になる?」
「きゅうん」
おや、気になっているかと思えば。腕の中で胸元にスリスリするように頭を押し付けてくる。
「人見知りかしら」
「大丈夫だよ、シギ。一緒だから」
「きゅう」
なでなでと頭を撫でてあげれば、嬉しそうに俺を見上げてくれる。
「ほら、お前たちも来な。はぐれるなよ」
「はーい!」
ルオさんに呼ばれ慌てて後に続く。しかし……周りは屈強そうな冒険者ばかりだな。因みに種族的には。
「魔族も人間もいるんだ」
「そりゃそうよ。魔族も人間も同じ世界で暮らす人類よ」
レベッカが告げる。勇者と言うジョブはあれど、魔王率いる魔族と人間があからさまに対立している世界でもないのだ。
実際魔族の長は魔帝さまな時点でテンプレとはだいぶ違うんだもんな。
「けどここは魔族領のシュヴァルツィア魔帝国内だから魔族の割合の方が多いわね。でも人間もいるし、珍しいところで言えばエルフもいるわよ」
「……エルフか」
キャンプ場などで見掛けた彼女たちか。
「もしかしてロジーもエルフの子みたいなかわいい子がいいの?」
「はぇっ!?」
その……エルフってやっぱりこの世界でも地球のイメージのようなキャンプ場で見掛けたような美人や美少女が多いのだろうか。いや、でも……。
「レベッカもかわいいと思うけど」
むしろ美少女じゃないだろうか。
「……っ、そう?うん……ならいいけど」
レベッカが笑顔で頷く。
「レベッカは母ちゃんそっくりな美女になるぞ。期待してな」
とルオさん。いや何を期待するの!?
「んもぅ、ルオったら」
しかし照れているレベッカはかわいらしいと思うんだ。
「仲いいねぇ、子どもたちは」
「天然でしょうか?まぁ微笑ましいですが」
アルさんとルシルさんがクスクスと和やかに苦笑する。
しかし天然とは……?
「さて、冒険者登録してしまおうか」
アルさんの言うとおり、そうだった!冒険者ギルドを訪れたのはそう言う目的があるからだ。
「私も早くしたいわ」
「そうだねぇ……帰ったら主から言ってみるとはいえ、学園に上がればどのみち冒険者登録することになるだろう?」
「でも見守るしかないのはもどかしいの」
「もう少しの辛抱だよ」
「むぅ……分かったわ」
レベッカは残念そうにしつつも待ち遠しいと楽しみなようだ。しかし学園か。そりゃぁこの世界にも教育機関はあるよな。そこら辺も俺は全然知らないな。
「それじゃ、早速手続きね」
そう言うとアルさんが俺たちをカウンターに連れていってくれる。
カウンターに座るいわゆるギルド嬢のお姉さんは魔族角を持っている。冒険者には人間も見かけるが職員はやはり魔族が多めらしい。
「げ……っ、アルヴィンさん。本日はどのような?」
しかしアルさん、何故ギルド嬢のお姉さんに『げ……っ』って言われてるの!?
「あはははは。俺も信頼ないなぁ。主君が一緒なんだからそうそう問題は起こさないと思うけど」
「そうですよ。その場合はまず私がアルの頭をひっぱたいてますので」
「んぇ?カウンターでいきなり?」
「いきなりです」
アルさんとルシルさんったら何だか息ぴったりだなぁ。
「ルシルさんも一緒でしたら安心ですね」
「えー……?俺の信頼度は?まぁ皆無なのは知ってるけどー」
ケラケラと笑うアルさん。いや……だから何故ギルドからの信頼度が皆無。
「本日はロジーくんの冒険者登録を。彼です」
「承知しました」
ルシルさんの言葉にお姉さんがてきぱきと書類を用意してくれる。
「ところでひとつ確認ですが……それ竜ですか?」
お姉さんが俺の胸元のシギを見る。
「そうそ。黒魔竜。この子がテイムしてるからね」
とアルさん。
「くろま……っ、いやアルさんのお連れさまならもう驚きませんよ。ギルマスへの説明はご自身でお願いしますね」
「はいはい。じゃぁギルマスのところへは俺が行ってくるから、ルシルはこっちお願い」
「えぇ。お任せを」
一瞬顔をひきつらせたお姉さんだがどうしてかアルさんの顔ひとつで納得している……?
「その、ギルマスって……どうしてそんな大事に?」
ルオさんを見れば。
「黒魔竜は強い魔物……いや、神にも近しい竜だからだよ」
「きゃ?」
当のほんにんは無自覚なようだが。
「それをテイムするものが冒険者登録するのなら、テイムする魔物や竜も一緒に登録される」
「きゃん」
言葉を正確に理解してるのかどうなのか。何だか誇らしげなところがかわいらしい。
「でも各地のギルドで身分照会をする時に驚かれるから事前にギルマスに話を通しておくんだよ。そこら辺はアルに任せるといい。アルならだいたいのギルマスとも顔馴染みだしな」
いや、何故だいたいのギルマスと顔見知りなんだ。
「顔を合わせる機会が多い、と言うことだな。アルはアルで高ランク冒険者だが……少し問題があってな」
問題……?
「例のレッドランクのことですよ」
「そうそ。でも今は俺の眷属だからなぁ。魔帝の後見と慈善活動多めにするのを条件にSランクなの。アレを下手に下のランクにするわけにもいかないし……まぁ世界には必要な存在ではあるもんでな」
「そうねぇ……アルは魔人だけど魔族も寿命が長い種族だからみんな色々とあるのは当たり前のことよ」
みんないろいろと……か。
「大切なのは今どうしてるか、どうしたいか。だからアルは慈善活動を条件に冒険者もしているのよ」
レベッカが補足するように教えてくれる。寿命が長い種族だからこその考え方なのか。
「うん……俺も今のアルさんは尊敬してるもん」
何だかお兄さんみたいで優しいし頼りになるし。
「ふぅん兄貴分か。そう言うのもいいのかもな。ひとりよりもな」
ルオさんの言葉はどこか意味深だった。それは俺の前世の?それとももっと前の……。
「きゃっきゃ」
その時シギが何か言いたげにルオさんに吠える。
「そうだったそうだった。お前は一緒にいたもんな」
ルオさんがシギの頭を撫でるとシギが満足げに笑う。
「お前の場合は弟みたいなもんだが」
「きゃ?」
シギが首を傾げるが俺もシギのお兄ちゃんとしてしっかりしないと。だけどさっき……。
「あの、そう言えばテイムのことですけど。この世界のテイムって契約とか特にいらないんでしょうか」
前世のイメージでは何らかの契約を結んでいたように思うが。
「テイムには契約は必要だが卵から孵化した場合は別だ。卵から孵化させたものが自動的に親となる。その親が親であることを放棄しない限りな」
つまりシギの卵を孵した俺は自動的にシギの親となった。
「名付けもしたろう?」
正確には俺が知っていたシギの名。シギは【シギ】と言う名だと何故か分かったのだ。
「同じことだ。名付ければ正式な親としてステータスに紐付くんだ」
そう言うものかな?
「名付けたのは、お前だからな」
それはもしかして地球の前の俺のこと……?
「そう。そしてお前は再びシギの親になった」
「はい」
ルオさんに導かれるようにしてシギと出会ったのだ。
「さて、そう言うことだ。だから書類に……」
ルオさんはそう言いかけて止める。
「あ……俺は文字が書けないから」
「私が代筆しますよ」
ルシルさんがすらすらと書いてくれる。文字も教えてもらえるだろうか。
「これから習えばいい。それに……そうだな、お前もレベッカと共に学園に行くか?」
「え……学園に?」
「ロジーも一緒に来てくれるの?」
レベッカが嬉しそうに顔を上げる。
「そうだな。レベッカに変な虫が付くよりはいいと思うしせっかく仲も良くなったもんな。ロジーにもいろんな世界を見せてやりたいし魔帝にも推薦状を頼もう」
ルオさんもまるで兄と言うか、親のような。でもそんなところが温かくて好きかも。
そう心の中で思えば、ルオさんが優しく微笑んでくれる。
「まぁ入学は13歳からだから……飛び級してもらうことになるが」
「え……?」
……ってことはレベッカは俺よりもひとつ年上と言うことになる。いやそれ自体は何も問題ないのだが。
「あの……勉強は……」
俺はこの世界の文字すら知らないのに。
「大丈夫、大丈夫。数字覚えれば計算はいけるだろ?」
それは前世の知識で間に合うものであれば……だが。
「おや、ロジーくんは計算系が得意なので?」
ルシルさんがこちらを見る。その……さすがに前世のことを言うわけにはいかないよな?
「それはロジーの自由だな。この世界には昔から転移者や転生者と言う存在がある」
そうなのか!
「かつて勇者や聖女と言う特別なジョブの持ち主を別の世界から招いていた時代もある。ぶっちゃけ今もその子孫が王族を務めている例もある」
かつてってことは今は召喚されないのか。
「そして黒魔竜と暮らした冒険者もまた転生者だった」
かつての黒魔竜ってシギのことだよな。シギと暮らした冒険者。どうしてだろう。何だかとても気になる存在なのだ。
そして転生者であることは特に不思議なことでもない世界なのか……?
「その……俺は、転生者で……味噌の知識もそこからで」
ポツリポツリと口を開けばレベッカが顔を輝かせてくれる。
「そうだったのね……!じゃぁ他にもお味噌みたいな美味しい調理法を知りたいわ!そうだ……文字や数字は私が教えてあげる!だからロジーも違う世界の美味しい調理法、教えてくれない?」
「う……っ、うん!それは、もちろん……!」
レベッカの明るさに何だか励まされてしまったかも。
「ふぅん?何だか楽しそうだねぇ」
とそこにアルさんが戻ってきてくれる。
「ロジーも転生者だったとは。昔からまれにいるよねぇ」
稀ではあれど他にもいるのか。この世界で他にも同郷に出会うこともあるだろうか……?
「あと黒魔竜の件はギルマスから了承得たから冒険者登録は問題ないよ。ランクは一番下のGランク。後見は俺たちで新人冒険者指導も俺たちが担うよ」
新人冒険者指導……か。この世界にはそう言う制度もあるんだ。いきなり冒険者としてひとりでとはならないのなら安心かな。
「書類も問題なさそうです。私がカウンターに申請してきますね」
そうしてルシルさんが申請してくれればほどなくして冒険者カードが発行された。
「ステータスとも紐付くがなくさないようにな」
「はい、ルオさん」
試しにステータス画面を開けば確かに冒険者カードの登録がある。
「あれ、でもどうしてステータス画面が読めるんだろ……?」
俺、文字の読み書きができないはずなのに。
「ステータス画面ってのは自分の分だけは自分の脳が認識して読めるようにしてあるんだ。他人のは文字が読めなきゃ読めないがな」
そうルオさんが補足してくれる。当たり前の異世界の【普通】はそう言うことだったのか。
「それから初心者向けのクエストも取ってきたので早速行きましょうか」
早速……!?緊張してきた……!
「大丈夫よ!ロジー!そのための先輩冒険者なんだから!」
「お嬢の護衛も兼ねてるけど……まぁ後輩を守るのも役目のひとつか」
そう告げればアルさんたちに導かれて狩り場までやって来た。
今回の依頼は簡単な魔物討伐と素材の回収らしいのだが。
「最初から戦うなんてのは難しい。俺たちの戦い方を見て立ち回りを学ぶこと。あと素材や獲物の解体を学ぶのが初めにやることだ」
アルさんがそう教えてくれて、討伐にはアルさんとルシルさんが息の合った動きで魔物を仕留める。
「依頼の素材を切り取り残りの肉は食用とするよ」
狩った獲物を持ってアルさんとルシルさんが戻ってくる。
「やるかい?」
「はい……!」
そう頷けば、アルさんが俺に短剣を握らせてくれた。
「これ……」
「うん、問題なく合うようだ。調整済みだよ」
「あ、ありがとうございます!」
俺のために、いつの間に……!これは頑張らねば。
アルさんが指示をくれて、その通りに捌いていく。
「素材部分は傷付けないように、慎重に」
「はい」
肉も風味を損ねないように素早く捌く。内臓などは大地の口にお裾分けだ。
「これで終わり。お疲れ」
アルさんが頭を撫でてくれる。
「はい!」
そうしてギルドに戻って達成報告を済ませれば残ったお肉は夕飯の食材に使う。
夜はギルド運営のキャンプ場でテントを張り、星空の下でバーベキューだ。
「今日は美味しいお肉がたくさんとれましたからね」
「ロジーもなかなか慣れてきたかもねぇ」
「はい……!」
アルさんが手取り足取り教えてくれたお陰だろうか。最後には上手だと及第点をもらえたのだ。
「それにしても……」
「香ばしいいい匂いね」
ルオさんとレベッカが焼き鳥を興味深そうに観察する。
「うん。ルシルさんから調味料をもらって作ってみたんだ」
夜はこの香ばしいたれをぬった焼き鳥を楽しんだ。
シギには串から外して食べさせてあげれば、きゃっきゃと喜んでくれる。少しだけ懐かしいような……気のせいかな?
しかし魔物の捌き方を学んで実践して。俺もこの世界で少しだけ成長できただろうか。




