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【33】冬の休息日



――――魔帝国の冬。すっかり真冬になり今は冬休みの真っ最中である。


時折雪かきクエストをこなしつつ、アルさんやルシルさんに剣や魔法を習う日々だ。


「あとレポートも完成させなきゃなあ」

途中地中仕上げていたとはいえ、まとめ作業もある。


「でもロジー!明日は休息日よ」

「そうよ!レベッカから聞いたわ!」

顔を見せる2人にハッとする。


「そうだった」

地球で言えばクリスマスに近いかな。仕事を早めに切り上げ恋人同士や友人、家族と一緒にごちそうを楽しむ催しである。


「今日はルシルにお願いして一緒に休息日のクッキーを作るの」

「ロジーも一緒に作りましょ」

「うん……!ちょっと行ってくるね、ルオさん」

「ああ。俺はテレビ見てるから」

ルオさんは俺の記憶から取り出したテレビ鑑賞に夢中なようだ。もちろん念願のこたつで。


キッチンに向かえばルシルさんが待っていた。


「早速作りましょうか」

『おー!』

みんなでおなじみのオーソドックスクッキーを作りつつも、アイシングクッキーにもチャレンジする。

その隣で教えながらタルトやパイまで焼き上げるルシルさんはさすがだったけどね。俺もルシルさんのお菓子を幾つか手伝う。


そして夕方になるとアルさんが帰ってくる。


「休息日用の肉狩ってきた」

こっちでは普通に狩りに行く選択肢があるのがすごいよな。もちろん肉屋でも買えるけど。


「冷蔵庫に入れておいてください。あとの食材は」

「そっちは市場で。一通り入れておくよ、ルシル」

明日は明日でご馳走も作るから俺もルシルさんのお手伝いを頑張らなきゃな。


「こう言うのって楽しいよね」

「ええ、もちろんよ」

レベッカが笑う。


「ねえ2人とも」

「どうした?フリージア」

「食いしん坊たちに味見させてあげようと思って」

フリージアの視線の先にはこちらを覗くシルフィとシギの姿がある。


「ふふっ、そうだね」

美味しそうな匂いにつられてやってきた2人にクッキーをあーんしてあげる。


「ん……!」

「きゃ……んーっ!」

どうやら無事に及第点をもらえたようで、明日が楽しみだ。


※※※


明日が楽しみで寝られなさそうだったシギのお腹を優しくぽふぽふすれば、今はぐっすりと夢の中だ。


「なかなかいい寝顔だ」

そしてベッド脇にごく普通に降り立った魔神に微笑む。

「でしょ?」

「ああ。だがロジー、お前も」

「その……っ」

「寝ないと明日、起きれないぞ」

「それは困る……っ」

朝からの仕込みが。


「ほら」

ルオさんの手が優しく頭を撫でる。

こんな風に優しく髪を撫でられて寝入ったのはいつのことだったっけ。800年と言う年月にふと迷子になりそうになりつつも、今ここにいるんだと自覚すれば不思議と心が落ち着き夢の中に吸い込まれていく。


気が付けばいつもの時間に目覚ましが鳴り目蓋を擦る。


「きゃー……ん」

俺の真似をしながら目蓋を擦るシギがかわいらしい。

「寝ててもいいんだぞ」

「きゃーん、ろ、じー」

それでも一緒にいたいところはいつまでも変わらないかわいいところだ。

シギを抱っこしつつキッチンを覗けば既にルシルさんが起きてきていた。


「ほら、シギ」

ルオさんお手製と言うか神の御業のテレビを見せてやれば眠気はどこへやら。夢中で見ているようだ。


「ちゃんとテレビから離れて見るんだぞー」

「きゃっ!」

了解とばかりに挙手をしてきてかわいらしい。


朝の仕込みをしつつ朝食が出来れば眠たげなルオさんと朝練を終えてきたアルさんがやって来る。


「今日の朝は俺特製の煮物と味噌汁です」

「お、いいじゃないの」

ルオさんがニカッと笑う。

「美味しそうな匂いが伝わってくるよ」

クスッと笑みながらアルさんも配膳を手伝ってくれる。


「あとはお米も」

因みに炊飯器なんてものはないため、ルシルさんと炊き方を研究しつつ前世のように炊けるようになった。


「きゃっ、きゃーん」

ちょっとだけお箸を持てるようになったシギをみんなで微笑ましく見守りつつ、穏やかな朝食の時間を過ごす。


朝食が済めば飾り付けに来たと言うレベッカとフリージアを出迎えたのだが。


「お兄さまも見に来てくださったのよ」

「えっ!?」

魔帝さまの元に伺う時に何度か顔は見ているがいざ目の前にすると緊張する。


「……ふん。妹とクッキー作りをしたと聞いてな。少しだけだが視察に来た」

視察って……。


「レベッカのクッキーが欲しいだけよ。あの顔……私もお兄さまがいるから分かるわ」

フリージアのお兄さんとは完全に表情も雰囲気も違うのだが……すごいな。妹の分析って。


その後視察と言いつつもレベッカにクッキーの包みを受け取った皇太子殿下は悠々と帰っていった。


「……マジだったのか」

「ほら、当たったわ!」

フリージアはルンルンと飾り付けに向かう。レベッカとシルフィも加わり楽しそう。


「これを飾るの?フリージア」

「そうよ、ゾンネ」

何だかいつの間にかゾンネまで来ていたんだが。主のアルさんがいるわけだし別におかしなことではないのだが。


……俺のお菓子目当てな気がする。


「きゃ?きゃーん」

「……うん」

「きゃ?きゃきゃきゃ」

気が付けば今のシギと同じくらいの大きさのソラが来ていた。


「遊びに来たのか~~」

なでなでと2匹の竜の頭を撫でる。


「ろじー、きゃ!」

「……ろじー?」

「……っ」

シギだけではなく、ソラにもそう呼ばれたことになんとも言えない感情が込み上げてくる。

次の瞬間には愛しい2匹の竜を優しく抱き締めていた。


800年越しの、叶えたくても叶えられなかったロジー・シエルナイトから続く悠久の願いがここにある。


「きゃんっ」

シギが満足げに鳴く。

「きゃ……きゃうん」

「ソラ……?」

まるで幼竜のようにソラが漏らす。


「きゃぁん」

それは俺があげられなかったもの。ソラが欲しくて欲しくてたまらなかったもの。


「遅くなってしまったな」

本当はずっとこうして愛されたかったのだ。愛を知らなかった。教えてもらえなかった。注いでもらえなかった我が子。


「きゃん、きゃきゃ」

ロジーがすりすりと俺に頭を擦り付ければ。

「きゃん……きゃぁん」

まるで真似をするようにソラが頭を擦り付けてくる。


「ふふっ、かわいいなぁ」

「そうだな。それがトゥルーエンドだ」

いつの間にかルオさんがそこにはいた。


「ほら、パーティーの準備だろう?」

「そうでした。2人もお手伝いする?」

「きゃ!」

お手手を挙げるシギを見て。

「きゃ!」

ソラも手を挙げる。


「それじゃぁお菓子を並べるのを手伝ってね」

『きゃん!』

料理を運びつつ、お菓子を並べている小さな竜たちを見れば。


「きゃ、きゃ、きゃん!」

「……きゃ」

しれっと味見するシギに続くソラ。こらこら、お兄ちゃんが悪戯教えてるぞー。でもこんなかわいい悪戯ならいくらだって許してしまう。


「あ、いいなぁ。私も」

飾り付けを終えたフリージアまで!?


「ご飯入らなくなるぞー」

「ちょっとだけ!だけだから!」

「そうそう」

そう言いつつ味見をするゾンネに苦笑しつつも準備が出来たところでみんなで乾杯だ。学生組はソーダ。ちびっ子たちはジュースである。


「んんっ、お肉が絶品ね!」

「肉詰めも美味しいわ」

「サラダもあるからどうぞ」

『はーい!』

みんなで盛り上がり、語らいながら食事。終わればお菓子をつまみながら。たまにはこう言う穏やかな日々もいいよなぁ。


途中、魔帝さまと魔帝妃さままで覗きに来たのは驚いたが。レベッカお手製のクッキーをもらって悠々と帰っていった。


ほんと……レベッカのクッキー目当てで来たらしい。後片付けをしつつも、気が付けばこたつで寝落ちている2人の少女に風邪を引かないようブランケットをかけてあげる。


「きゃ?」

「きゃーん」

「ん」

子どもたちはまだまだ元気でルオさんとテレビに夢中である。ゾンネはどこに……と思えばブランケットをかけてあげたフリージアたちに混ざって添い寝し始めた。


「後片付け?俺も手伝うよ」

アルさんも手伝ってくれて、最後はルシルさんお手製のノンアルエッグノッグを作ってもらったらとっても美味しかった。


「来年もこうしてみんなで過ごしたいなぁ」

「もちろん。主もそのつもり」

アルさんの言葉にルオさんが微笑みを返してくれる。


「ま、その前に学園の授業もありますがね」

ルシルさんが告げた通り、また冒険が始まると言うこと。それも楽しみではある。

今度はどんな景色に出会えるのだろう。人に出会えるのだろう。繋がりが生まれるのだろう。


「ふぁ~~、何だか俺も眠くなってきた」

ブランケットを羽織ながら横になればかわいらしい子竜たちがやって来る。シルフィもフリージアのところに混ざりに行っている。


「きゃーん」

「ろ……じー」

「うん、いいこ」

子竜たちを順番に撫でながら思う。

小さな竜たちの成長を見守りながら、健やかな寝顔を見られる世界。親代わりや兄代わり、友人たちと過ごす大切な世界。

それこそが800年かけてロジー・シエルナイトが守りたかった、願っていた世界なのだと思うよ。




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