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【32】冒険者単位



旅をしていると空気や天候に敏感になる。


「雪か」

「うん、すっかり寒くなってきたわね」

フリージアが嬉しそうに空を見上げる。雪自体クォーティアでも降るのだが、魔帝国に近いこの土地ではクォーティアよりもだいぶ降り始めるのが早いらしい。


「この調子じゃぁそろそろ野宿が厳しいね」

とアルさん。


「雪が本格的に積もる前までは大きめの街に宿を取って周辺の町のクエストを受けるべきですね」

ルシルさんの言葉に俺たちも頷く。


冒険者ギルドに行く前に宿を取りつつ、ギルドに向かえば周辺の町のクエストも並んでいる。これはルシルさんの言うようにしている冒険者が多いからだろう。


「きゃ……きゃきゃっ」

シギが寒そうにしている。


「こんなに寒がりだったか?」

俺たちも冬装備、シギやシルフィにも冬装備を着せている。

「竜は本来寒冷地に暮らすんじゃぁ……。熱いマグマの土地に暮らす竜もいるけど」

これはロジー・シエルナイトの知識。

「そうだねぇ。考えられるとしたら……冷たい空気を吸い込んで遊んでる……?」

アルさんの言葉にハッとする。


「きゃ……っ!ろじー、たのし!きゃ!」

本当に遊んでいたのか。


「もう、びっくりしたじゃん」

「ほんとよ」

フリージアがクスクスと笑うとシルフィも真似してクスクスと笑う。


「さて、今日はどんなクエストを受けようか?」

アルさんが初級クエストを幾つかピックアップしてくれる。他にも学生がいるようで、あれこれ見て回っている。その中で俺たちは。


「まずは土地のフィールドを知りたいから……」

「街の周辺になるかなぁ」

「そうね。いきなり町に行くよりはまずはこの街を知りたいわ」

学んだことを活かしつつクエストを選ぶ。


「それじゃぁ今日はポーション用の材料集め。これはポーション作成も含まれているから集めた素材を宿で生成しようか」

「うん、アルさん」

早速クエストを請け負い森林フィールドに繰り出す。

ここは薄氷の森。雪が積もれば森全体が雪に包まれ圧巻なのだと地元の冒険者たちが教えてくれる。


「他の冒険者も多いんだ」

「そうだね。冬になると薬草が貴重になるからその前に蓄えるために同じようなクエストも多数出るんだよ」

とアルさんが教えてくれる。


「採りすぎにはならないの?」

フリージアの素朴な疑問だ。


「そこはギルドが調整して乱獲にならないように周辺の町にクエストを分散させるんだ」

「ギルドのクエスト采配も奥が深いのね」


「そうそう。他にも魔法使いや治癒魔法使い、商業ギルドと連携して足りなければ輸入の手続きや他地域からの輸送クエストも出す」

「俺たちの知らないところでも色んな人が動いているんだ」

「そうだね、ロジー」


暫く探索していると、他の先輩冒険者たちが呼んでいる。彼らは地元の冒険者のようだ。


「おーい、学生冒険者たち!こっちに群生地があるから採取していきな!」

「いいんですか?」


「ああ。俺たちは土地勘があるから、ちょっと奥の穴場に採りに行くよ」

一部の冒険者が独占するのではなくこうして学生にも優しくしてくれるのはありがたい。

冒険者ごとのクエストと言えども基本は助け合いなのだろうな。


「でも採りすぎは厳禁。ギルドに怒られちまう」

「任せておいて。ちゃんと監督するから~~」

アルさんの言葉に先輩冒険者たちも『任せた』と手を振り奥の穴場に向かう。


そうして必要な分だけ採集をこなし、後は宿でルシルさん監修のもとポーション作りだ。


「ポーションにも上級中級下級とありますが、基本は材料さえちゃんとしていれば中級のポーションになります」


「じゃぁ下級は?」

「材料が足りないか鮮度が低いか。なので鮮度が落ちないように栓をしっかりと閉めることが大切ですよ」

『はーい!』

せっせとポーションを作り終えたのは夕方で、納品は明日にして本日は宿に備え付けの食事処で夕飯を済ませることになった。


「ん……パンとスープが美味しい!」

フリージアが感嘆の声を上げる。


「そうね。魔帝国が近いからか味付けが似ていて懐かしいわ」

思えば冒険者や宿の客の中にもちらほら魔族が混ざっているもんなぁ。


懐かしい魔帝国を思い浮かべながら美味しい食事を食べて眠りにつく。


その翌日早速ポーションをギルドに納品したのだが、何だか騒がしい。


「あれ、他の学生冒険者だよな」

「そうよね、何かあったのかしら?」

レベッカが首をかしげる。どうやら彼らもポーションの素材採集と作成クエストを受けたらしいが。


「このポーションは既製品ですね」

ギルドの職員たちに取り囲まれながら学生冒険者たちが狼狽える。それは講師役も同じようだ。


「そんな……ちゃんと採集して……」

「ギルドの情報網をナメないことです。鑑定をすればどこの産地の素材を使ったかも分かります。これは明らかに南方の素材を使っています」

さらに職員たちが詰め寄る。


「それにあなた」

「ひ……っ」

目を向けられたのは講師の冒険者たちだ。


「そこの学生たちの親御さんから多額の金を受け取ったそうですね」

「どうしてそれを……!」

「その上、このような不正を働くとは言語道断です。ブラックリスト行きは覚悟してくださいね」

「そんなぁっ!」


「それから学生諸君、あなたたちも本来なら違約金や罰金ぎ課され、冒険者ギルドのブラックリストにも載るのですよ」

その言葉に学生たちも青い顔になる。


「でも学生だから載らないと」

「うん。罰を受けるのは講師たちだけ。だけど不正をした学生たちは代替授業は禁止。学園に帰還して強制的に学園での授業になるからね」

さすがにそれをやると冒険者単位はもらえなくなるらしい。


「卒業して同じことを繰り返せば今度こそブラックリスト行き。そうならないためにどう努力するかも彼ら次第だね」

少なくともここで場数を積めなかった時点で卒業後一から冒険者活動となり、学生だからと優遇してもらえることもない。


「まぁレッドの俺が言うことでもないけど」

「あなたとは根本的なところが違いますよ」

その時声をかけてきたのは職員の中でも立場が高そうな女性だ。


「あなたは確かにレッドランクですが、我々はあなたへの償いも果たさなければならないのですから」

「……ま、そこは任せるよ。ギルマス」

え……ここのギルマス!?アルさんと冒険していると各地のギルマスと知り合う機会が多く、だいたい知り合いなのもすごいけど。


「さて……俺たちも今日のクエストに行こうか」

「う……うん!」

日々クエストをこなしつつ、周辺の町へのクエストも徐々に請け負う。


そんな日々が過ぎて、いよいよ明日は魔帝国に入ることになる。

アルさんに今後の経路を相談しようと探せば、テラスにいるようだ。外套を着てシギを抱っこしつつテラスに出れば。


「すごい……夕陽」

「圧巻だろう?しかも街並みだけじゃない。フィールドまで見渡せるよ」

「うん、アルさん」

まだまだ本格的ではないがフィールドには雪が積もり、夕陽に照らされることで圧巻の景色を映し出している。


「すごいや」

「冒険者をしていればこんなすごい景色を何千何万と見ることになる」


「アルさんは800年も……?」

「そうだね。変わらないものも移ろい行くものもたくさんある。けれど……」


「……?」

「またロジーとこの景色が見られることが何よりだ」

「うん、アルさん」

暫くすればカラカラとテラスの扉が開く音がする。


「さむーい!」

「ロジーたちったら外に出てたの?冷えるわよ」

フリージアとレベッカだ。


「ルシルさんが露店で夕飯を買ってきてくれたのよ。ほら入りなさいよ」

「ルオなんて冬着にくるまってるほどなのに」

魔神、わりと寒がりなのか?


【俺はこたつが恋しいんだ】

ドテッ。

脳裏にそんな念話が届き苦笑してしまう。


「もうすぐ冬休みだな」

「ええ、ロジー」


「明日からは魔帝国に入るし、冬休みに入れば自ずと一時帰国になるからルオさんもコタツにありつける」

「そう言えばそうね」

ルオさんの冬着にくるまっていた様子を思い出したのかレベッカが苦笑する。


「そっか、みんなは冬休み、魔帝国で過ごすのよね」

フリージアが寂しそうに告げる。


「なら今度はフリージアが魔帝国で過ごすのはどう?」

「そうだわ!夏に滞在させてもらったお礼よ!」


「……うん!早速お母さまとお父さまに話してみるわ!」

「反対されたら教えてね。お兄さんが一筆書こう」

え、クォーティアの初代勇者が!?


「それは頼もしいわね!任せたわ!」

和気藹々と露店飯で賑やかな夕食が始まる。冬休みは目前。フリージアの魔帝国滞在の許可が下りたのはそれから暫くのことであった。


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