【30】学生クエスト
――――後期の授業を冒険者活動に代替する場合、まずは学園にある冒険者ギルド出向クエストカウンターで請け負う。
「それにしても改めて冒険者って感じがするわね」
夏休みに念願の冒険者登録を済ませたレベッカもフリージアもしみじみと冒険者カードを眺める。
しかしながら最初の手続きはお決まりである。
「え……あなた……」
「許可なら得てる」
アルさんがルシルさんとカウンターで幾つもの証明書を見せる。やっぱりアルさんのレッドランクはここでもかと言うほどに一瞬止められるわけである。
「学園長から魔帝国ギルド、クォーティア公王家と。アルも賑やかだなぁ」
そこまでの許可証を見せるに見せまくってようやっと手続きが済んだようだ。
「クエストを請け負いながら探索ルートも提出しないといけないのは骨が折れる」
アルさんがふぅと息を吐く。
「まあまぁ、単位のためですから」
ルシルさんは涼しい顔だが。
「学生側もレポート出さないといけないものね」
とフリージア。
やることは山積みだ。
「まずは最初のクエスト。学生だからね。大規模な狩りとかはない。最初は採集クエストが多いかな」
アルさんが見せてくれたのは簡単な採集クエストである。
「クエストを受けながら街を移動していくんだ」
「へぇ、楽しみだなぁ」
「きゃぁっ!」
改めて地図を確認しつつ、シギが印の付けられた箇所をぺちぺちしている。遊んでいるのか、ルートを確認しているのかどちらだろうか?
早速学園の外のフィールドに繰り出す。
「ここが木漏れ日の森かぁ」
その名の通り森全体が明るくて周りが良く見える。
「獣側にも俺たちが見えてしまうのが難点だが、それほど危険な獣も魔物もいないからね」
とアルさん。
「まさに初心者向けのフィールドね」
レベッカが頷く。
「中級でもいいのに!」
とフリージア。
確かに初級クエストは夏休みにもやったからなぁ。
「初級と言っても土地や時間帯、季節が違えば何もかも違う」
俺たちが探索したクォーティアのフィールドも朝夜でだいぶ違ったもんな。
「新しい土地に来たらまずは初級の土地に足を踏み入れる。そうするとこの土地のことが何となく分かるんだよ」
それは……800年前のロジー・シエルナイトの言葉が今も生きているんだな。さすがはアルさんだ。
「そっか……クォーティアとは生態系も違うものね」
「そうそう。それにランクが上がるごとにこう言う初級の場所に入りづらくなる」
初級のフィールドに高ランク冒険者がいたらびっくりしちゃうもんな。
「こうやって新人の手解きなんかで同行すれば自然だけど、色んな土地を行き来してないと初めてのフィールドで手解きするのも難しい」
「……じゃぁ、今も?」
「学園長からの雑用で以前調査には来てるよ。学生が良く来るフィールドだからね」
「そっか。講師枠で初級フィールド探索ってのもあるのね」
「そうそう、初級冒険者が安全に探索出来るようにするのも高ランカーの役目だからね」
そのお陰で俺たちも安全に探索できるわけだ。
「さて、早速素材を集めようか。狩りやすそうな獣がいたら昼食にしよう。ロジー、手伝って」
「狩りはしないんじゃ……?」
「クエストとしてはね。でもロジーにはしっかり手解きしたからね」
「そう言えばそうだった」
「……昔と逆だ」
「うん、何となく覚えてる。けど何となくだし全てが昔と同じわけじゃない」
分布はもちろん、生き物も植物も進化や絶滅を繰り返している。
「アルさんが教えてくれるから記憶がしっかりと定まると言うか。だから、今はアルさんが俺の師匠だよ」
「……分かった。しっかりとついておいで」
「うん……!」
「きゃーん、ろじー、きゃ!」
「……ん。ここ!」
竜の鼻や妖精の勘も冴え渡り、俺たちの採集は順調に進む。
「ロジー、今日の昼食」
アルさんが示した方向には鶏肉が……いや、鶏の魔物だ。大きな音を出さなければ仕留められる。
魔法の弓を放てば見事に命中する。
「見事なものね」
フリージアが感心する。
「本物の武器だと重たいから手間取るけど、魔法なら」
「そのうち大剣も振り回すかも」
「いや、銅像のようにはいかないって!」
そう言うとアルさんが大剣を持ってみるように示す。試しに持ってみたら……想像以上の重さだった。
「ロジー・シエルナイトは普通に振り回してたから重さとか感じたことなかったんだよ」
でも前世の感触があるから分かる。ロジー・シエルナイトの怪力がすごすぎる。
「ふふっ、それでも魔人補正が効いてるはずなんだが」
ルオさんが朗らかに笑う横でルシルさんとレベッカが炊事の準備を始めている。
「このハーブ使えるかしら」
「いい香りだね」
フリージアが採集してくれたハーブをルシルさんに見せれば合格点をもらえたようだ。
「本物の冒険者はクエストの他にも飯の調達もしないとならないから大変だよなぁ」
「ロジー、俺たちもだよ」
アルさんに言われハッとする。学生でもあり、冒険者。
「ごめん、つい」
「ふふっ。ロジーさんを思い出すね。当事者なのに第三者視点で言ってくるから」
アルさんが懐かしそうに告げる。
「そうだったっけ?」
「きゃん」
あれ?シギにも肯定されてしまう。
鶏の照り焼きとスープができれば、パンをお伴に昼食が始まる。
「ねぇ、もっとロジー・シエルナイトの伝説が聞きたいわ!」
フリージアが目を輝かせる。
「ええ~~?じゃぁロジーさんが作ったトンデモクォーティア飯の話する?」
え、何その話!
「きゃー……きゃきゃー……」
ちょっ、シギまでびくついてるんだけど、何作ったんだ。俺。いや、ロジー・シエルナイト!?しかしアルさんの話を聞いた後は素直に反省した。
しかし終始大爆笑の昼食になったことだけは救いである。
そうして無事に採集を終えてギルドに報告する。こうしていると途端に冒険者の自覚を身に染みて憶えるのだから、何だか不思議なものだ。




