【28】太陽竜ゾンネ
突如現れた赤い竜。
クォーティア軍勢からは驚愕しつつもどこか歓迎するムードが流れる。竜は自らを世界の異物と呼ぶと言うのに。
『我は異物。世界の異物。皇天竜並みの災禍である太陽竜ゾンネ』
ゾンネ……?太陽竜であることは変わらないが。800年前と同じ個体だよな?
『あぁ、皇天竜よ。お前は美しい。やはり我がコレクションにちょうどいい』
やっぱり同一個体だな。確実に。
『お前が悪いことをすればするほど我のものとして占有できるのだ』
いや、どこからそんな話が?
『機が熟すのを楽しみに待っていた甲斐はある』
「な……何なんだ、貴様はぁっ!」
皇天竜が慌てふためく。
『逃がさぬ、逃げられぬぞ。父を己の槍で手にかけ、生まれ直した父の手をも振りほどいた』
お前も見ていたのか。800年ずっと忘れてなかったのか。
『もうこの世界にはお前を守るものも救うものも、愛するものもいない……我以外は……』
いや、何を言うゾンネ。さらにゾンネは美しい少女の姿を象るが、皇天竜を掴む竜の腕はそのままだ。
「ま、彼女もクォーティアの竜だしお前が交遊を深めるのは何も言って来なかったが、最強の異物を使うとは参ったな」
ルオさんが笑う。クォーティアの竜。そういやフリージアがそんなことを言ってた気が……。
「どうせ見ていたくせに」
アルさんが吐き捨てる。
「魔神よ。我は月をも喰らう世界の異物。お前たちが忌み嫌う世界を壊すものだ」
「別に俺は嫌ってはいないがな」
ルオさんがカラカラと笑う。
「だが……」
「うん?」
「お前がロジーの父となり、兄となるのならば我は世界を壊すことはしない」
「それは何より。女神もきっとホッとしてるわ」
しかし……何故俺が……?
「ちょっとロジー。アンタ太陽竜とも関わりあったの?」
フリージアが呆れたように問うてくる。
「確かに800年前にクォーティアにいた頃太陽竜に会ったことはあるけど」
その時は……ええっと。
「バトルしてお互いを認め合い、たまに食べに来る菓子を分けたやっただけだ」
その頃は……ゾンネと言う名はついていなかった気がするが。
「しれっとものすごいことしてたわね」
まぁ今考えれば800年前の俺、ブイブイ言わせすぎ。
「きゃきゃー、きゃ?」
あれ、いつの間にかシギが元の大きさに戻っておりゾンネの足元に駆け寄る。
そういやゾンネは災厄の竜ではあるがシギはよく懐いていた。まるで姉弟のように。
「うむ、今生でもお前は我が弟よ」
それは今でもか。
「この暴れ竜は任せておけ。顔は気に入っているが……ロジーに手を出したことはまだ許してはいない。我が巣にてしっかりと調教してやるぞ」
調教って……ゾンネって俗に言うヤンデレ体質では?前前世では分からなかったが、今ならば分かる。
「調教が済んだら遊びに来るとよい。我は焼き菓子を所望する」
「分かった。皇天竜を任せる礼だ」
「ふむ、良い。それではな」
ゾンネは翼を広げ、皇天竜を連れ去る。
皇天竜を失ったグローリアラント軍は元々喪失していたやる気が地に落ちたようだ。
魔帝国軍が駆け付けたことでクォーティア軍が沸き立つ。
「よし……みんな!我らが祖国を守るぞ!」
『おおおおおぉっ!!』
あちらさんとは士気が大違い。
こうして、クォーティアと魔帝国の連合軍によって瞬く間に壊滅した。
エリオットと王女メリッサも捕らえられた。さすがのグローリアラントも引き取りを拒否。保釈金が払えなかったのか、そもそもその価値すらないとされたのか。処刑されることとなった。
そしてクォーティア王室の計らいでエリオットとの最期の邂逅の時間を取ってもらえることになった。
「何でお前なんだ!ぼくは勇者だったはずなのに!ぼくの勇者も剣も皇天竜も奪った!」
エリオットは相変わらず好き勝手吠える。
「勇者の資格剥奪は女神の沙汰だし、剣は元々ねえだろ。ただ、皇天竜は……よくも奪ってくれたな」
「……ひっ」
エリオットがびくつく。
顔は同じ、名前も同じ。これは偶然じゃない。魔神の眷属だから分かる。魂は……同じだ。
性質もまた変わらない。
「たとえアイツがどうしようもない悪ガキでもな……親から無理矢理奪い取ったケジメはつけてもらうぞ」
「親……?お前の母親の話か?拷問されて醜く死んだぁっ!ふぐっ」
令和に暴力は良くないと言ったのは俺だが、親の仇のひとつやふたつ殴らんでどうする。
「この世界ではこのくらいじゃ暴行罪にはならない」
「この世界?な、なにを……」
「知らないだろうな。知ることもなかったろうな」
ロジー・シエルナイトの凄絶な人生も、魂の休息のために異世界で過ごしたことも。大切な子らを待たせることになってしまったことも。
シギ、アルさん。そして……皇天竜。
「これから処刑される大罪人には関係のないことだ」
「た、助けてくれよ!俺たち、異母兄弟だろ!?」
「どの口がそう言う!犬として扱い、俺の母さんまで殺したお前たちが!」
「それはその、母上や兄上たちが……だから仕方がなく!」
「黙れ!お前も笑っていたよなぁ?全部覚えてんだ。無理矢理やらされましたなんて言い訳通じるわけねえだろうが!」
「それは……っ」
「それにお前は皇天竜の親が誰かすら認識していなかった。俺から奪い取っておきながら」
「皇天竜は俺のものだ!」
「違う!」
奪われ、利用された。そして子は親を手にかけた。
「還してもらうぞ。今度こそ!」
「な……何を言っている!」
「思い出さないのならそれもお前の業だ!」
何故、こんなやつが勇者であったのか。分かっている。コイツもまた勇者の魂を持っていた。アルさんやレインさんとは比べ物にもならないカス勇者のな。
「これはやり直し。大罪を犯した勇者のやり直し。勇者として正しい行いをできたかどうか。もう一度だけチャンスが与えられたんだよ」
それは女神の慈悲か。
「知らない……そんなの……っ」
「お前が正しくあれたのなら、皇天竜に愛情を注げるまともなやつなら思い出せたのかもな」
だがダメだった。コイツには資格はなかった。
「この世界の勇者としての正しい軌跡は、クォーティアの初代勇者が塗り替えたものだ。だからこそコイツは……」
【冥界にて冥界神の気の済むまで罰が与えられよう】
またいつの間にか見てたの?ルオさん。でも気の済むまでっていつまで?
【さあて、分からんな】
魔神はクスクスと微笑むだけ。
【ロジー、お前は我が子なのだから。我が子への慈悲はお前もよく知っているだろう?】
ああ、知ってるよ。今生の俺の親である、魔神よ。
そしてエリオットの魂は冥界神の元へと送られたのだった。




