【27】我が子へのケジメ
大穴から帰還時、ルオさんがついにエレベーターを造っていた。
「まあいいじゃん。ここは始まりの場所。また来ることもあるだろう?」
「そっか……始まりの場所か」
ロジーが眠り、そこからまた世界が始まった場所。
「うん、また来るよ」
「きゃっ!」
シギもそのつもりのようだ。
それに……外の花畑もまた見に来たい。クォーティアが守り続けてくれたあの場所を。
そうして外に出れば騎士が急いで駆け寄ってきた。
「姫さま!大変です!」
「どうしたの!?」
ただ事じゃない様子にフリージアの顔がこわばる。
「侵略です!グローリアラントが攻めてきたのです!勇者レインも王太子殿下も緊急で出陣しております!」
「レインとお兄さまも……っ」
「姫さまは急ぎ城へ」
「そんなこと出来ないわ!私だけ城で大人しくしてろってこと!?」
「しかし今は……グローリアラント軍に対して我が国の軍勢が少数。魔帝国の増援を待っている状況です!」
大国グローリアラントと小国クォーティアには圧倒的な戦力の差がある。今までグローリアラントが攻めるのを抑止していたのは魔帝国と同盟関係にあったから。それなのに何故攻めてきた?
「もしもの時は姫さまだけでも国外へ脱出を。その時間を公王夫妻も稼ぐために城に待機しておられます」
「そんなっ」
だが到着まではまだかかる。だから公王家の血筋をひとりだけでも……と言うことか。
「こちらには皇女殿下もいらっしゃるのですよ」
「……っ」
同盟国の皇女を死なせるわけには行かないと言うことか。
「レベッカもそこまでやわじゃないだろう?それに、何のための保護者か」
「アルさん……?」
「響いてるのは人間と馬の音だけじゃない」
「まさか」
「皇天竜がいるのだろう」
「なら行かなきゃ!」
エリオットたちもいるかもしれない。むしろ……だからか?学園を追い出されて窮地に立たされたエリオットと王女が自分たちの権威を取り戻すために攻めてきた?
「クォーティアもレベッカも連れていくべきだ」
アルさんの言葉に騎士たちがぎょっとする。
「アルヴィン・ソルナイトの名に於いて、子守りはしっかりと果たそう」
「子守りなんですか」
「俺に比べればね」
何せ800年である。
「行こう。猶予はない」
伝説の騎士の前に、反対意見を言う声はない。
それほどまでに伝説の騎士は圧倒的なオーラを放っている。
「きゃ?」
「そうだな、シギ。俺もできるよ」
戦っていたから。
「まだ筋力は追い付いてないけど」
だから俺がかつて使っていた大剣はアルさんに預ける。
「今度は負けない」
アルさんもシギもいる。みんなもいる。
――――戦場では向かい合う両軍。しかしグローリアラント軍は数は勝っているものの想像していたよりもずっと疲弊している……?
「フリージア!皇女殿下も……何故ここへ!」
王太子殿下が驚愕する。
「私もクォーティアの騎士よ。そしてみんなに生かされてきた王女なのにひとりだけ逃げてたまるものですか!」
「私もよ。魔族の皇女はこう言う時に同盟国を見捨てて逃げるだなんてことはしないものよ」
フリージアとレベッカの意思は固い。
「大丈夫。死なせないから」
そう告げたクォーティアの伝説の騎士の迫力に王太子殿下とレインも息を飲む。
そしてグローリアラント陣営の陣頭に立つのはやはり王女とエリオットだ。
「今こそ裏切り者クォーティアへ報復を!」
王女が叫ぶ。
クォーティアは裏切ってなどいないのに。
「さぁ、クォーティアを攻めろ!グローリアラントのものにするのだ!」
もはや勇者でもない貴族の三男坊の言葉に士気を高めるものはいない。それが今の彼らの立場を示していた。
「ほら!攻めなさい!お父さまに言い付けるわよ!」
半ば強引に出陣させられるグローリアラント軍は混乱と戸惑いの中だ。
「グローリアラントは疲弊している。国民の誰もが」
いつの間にか隣にルオさんがいる。
「魔帝国を始めとする同盟国に喧嘩を売ったから?」
「それ以外にも、まるで神罰のように災害や疫病が相次いだ。アイツらの疲弊はそのせい。だが国の命令ならば行くしかない」
「災害や疫病って……女神が関わってる?」
「さてな。だがアイツらが女神の加護に相応しくないことを仕出かしたのは事実だよ」
それなのにその2人がグローリアラントでの威信を取り戻すためだけのために疲弊した軍を率いてきた。
「だがグローリアラントも必死なんだろうさ」
「戦需景気ってやつ?」
「そ。狙いはそこなんだよ」
「そんなことさせない。あの2人の仕出かした後始末のためにクォーティアが利用されるだなんて!」
「その通りよ」
フリージアも頷く。
「私の故国は絶対に守る」
「俺にとってもここはずっと故国だ」
出身こそ違えどクォーティアで暮らし、戦い抜き、そして眠りについた場所に再び還ってきた。賜った騎士の名に於いて、この国を守らなければ。
「きゃ……シャアァァッ」
その時シギが威嚇音を上げる。
空にシギのものではない咆哮がけたたましく響き、クォーティア軍が戦慄する。
――――竜だ。
白き竜。その姿に敵陣営から歓声が上がる。あれだけがグローリアラントが縋れるもの。
「皇天竜」
お前も来ていたのか。エリオットと共に。
両陣営の中間に降り立った白き竜は竜の角、翼、
尾を携えたひとの姿を取る。年齢は12歳くらいだろうか。
臨戦態勢となるクォーティア軍。
「会いたかった、ロジー」
何を、言い出す。
「シャアァァッ!!」
さすがにシギも嫉妬を燃やしているようだ。
「どう言うことだ」
皇天竜に歩み寄るのを、アルさんも敢えて止めない。
「どう言うって……ぼくだってエリオットにいいように使われているだけなんだ!ロジー、ねぇ最初にぼくの卵を見付けたのはロジーでしょ?」
「……そうだが」
奪われて、最期は……。
「ぼくだって助けてほしいんだ!本当の主に……っ」
お前にもその自覚があったのか?
「それは……その」
今までの800年が頭の中を駆け巡り、言いよどんだ時。
皇天竜の姿が突如青年の姿に変わり、銀の槍を突き刺してくる。
「油断したな!バカめ!」
「……っ」
しかしその時、その槍が大剣で叩き折られる。
「アルさん!」
「お前はそうやってロジーさんを殺したのか!」
「……っ」
皇天竜がビクンと震える。
「アァァァァッ!!」
その時、駆け抜けた黒い影がいつか見た竜の特徴を得る青年の姿に変化しハッとする。
「ぐはぁっ!」
シギが皇天竜をぶっ飛ばした。皇天竜が地面に打ち落とされる。
「知っていたよ。お前が……そう言うやつだって。だって俺は……お前の親でもあるんだよ」
「え……っ」
皇天竜がハッとする。
「ロジーは……800年前のロジーはやっと再会できたお前に和解をしようと申し出だ」
だって……皇天竜もまたロジーの我が子の1匹なのだから。
「けど、そんなロジーの心を踏みにじり皇天竜はロジーを貫いた」
略奪者の主人の命令か、コイツの性分か。いや……どちらもか?
「けどな……オイタをしたら反省させんのは当たり前だろうがっ!!」
転生者として、冒険者として。人間として。天に落とされた竜にかなわなくとも。今、800年の時を越えて得たこの感情の答えがそれだ。
「悪いけど俺は前とは違う。魔神の子だ。魔人なんだよ。バカ息子を叱り飛ばすこの拳はお前とて難なくぶっ飛ばせんだよ」
「ひ……っ」
「だが……今はやらねぇよ。令和だからな」
ロジー・シエルナイトが昭和を知っている人間であっても、俺は平成っ子なんだ。令和のご治世に鉄拳制裁はNGだ。
「れ……れい、わ?何を言って……」
「その代わり、悪い子はうちに入れない。俺は褒めない。悪いことをしても謝らん子は愛してやることもない」
「愛……?何、それ……知らない」
この子はそれすらも知らずに800年も生きてきた。
「愛されたかったがゆえに、構って欲しいと悪事や悪戯を繰り返した。違うか?」
あの時卵を奪われなければまともに成長できただろうか。シギはロジーに懐き、優しくて友だち思いな子に成長した。取り戻せていれば……。
「知らない……そんなの知らない……ウザいんだよ!」
反抗期かよ!コイツは!
「お前はムカつく。ぼくに知らない感情を向けてくる。不愉快だ。ムカつくんだ。殺してやる殺してやる殺してやる!」
再び皇天竜が俺に迫ろうとするが、その頭を竜の手が掴む。
「え……?」
シギの竜の手じゃない。
「俺たちもただ手をこまねいて待っていたわけじゃない」
アルさん……?
「ロジーさんのために。いや……ロジーのために」
いつの間にかアルさんの隣に赤い巨大な竜がいる。
『我は世界の異物』
赤い巨大な竜がほくそ笑んだ。




