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【26】大地の大穴



本日はフリージアの案内で大穴に案内してもらえることになった。

大穴とは通称で、正式には大地の大穴。


「大地の大穴はその昔、大戦の時代に黒魔竜の大地の口に呑み込まれたと言われているの」

シギが悲しみのあまり世界を呑み込もうとした大穴か。


「きゃーん……」

シギがどこか寂しそうに鳴く。


「んもう、そんなに悲しまなくても大丈夫よ、シギ。本物の大地の大穴自体は封鎖されていて入れないけど、その周辺は観光地なのよ」

フリージアはシギの悲しげな表情を見て励まそうとしてくれたのか、にこりと微笑む。


「きゃ?」

シギはぽかんとしている。

「そうだよな……大戦の傷跡が観光地って……?」


フリージアに続いて歩けば、ちらほら観光客を見かける。さらに俺たちを出迎えたのは一面の花畑だった。


「すごい……」

「きゃきゃーん」


「圧巻でしょ?今の時期は特に花畑が美しいのよ」

「うん。でもどうして……?」


「大戦のあと、時の女公王がここに慰霊碑を建てた。それ以来ここには花が咲き誇ったと言われているの。それ以来多少植え替えはしてるけど、この花畑は公王家がずっとずっと守り続けているの」

それはまさに800年ずっとってことか……?


「花には時に魔除けや厄除けの効果がある。神聖なこの地を守るため、何かの意思が働いたのかなぁ」

とルオさん。


「ずっと思ってたけど、何か絡んでないよね。大穴はあんたが結界張ってるわけだし」

アルさんがルオさんを訝しげに見る。


「俺はあっちの結界だけ。こちらはこちらで別」

では別の力……まさか女神?


「もう800年も誰も中を見てないのに、それを閉じただなんて……」

フリージアが苦笑する。それを言うなら花畑もなのだが。


「ま、ともかく!ここに来たら必ず慰霊碑に寄ることにしているの」

さっき言っていた慰霊碑か。見れば花畑の真ん中に大きな建造物がある。それはまるで七色に輝くクリスタルである。


近くの花売り場で花束を買えば、早速慰霊碑に向かう。

慰霊碑の場所まではひとが通れるように道が敷かれている。そこには2人の騎士の名と共にこう刻まれていた。


『クォーティア公国初代勇者アルヴィン・ソルナイトに捧ぐ』

「初代勇者に……?」

そう言えば俺とシギは大戦と共にその生涯を閉じ、俺は地球に転生しシギは再び俺がこちらに戻ってくるまで卵の状態で待ち続けた。


「初代勇者だけは……大戦で死なず生き延びたんだよな?」

「きゅあぁ……」

そして今もどこかでクォーティア公国を守っている。もしそうとなれば初代勇者は完全な人間ではないことになるが、彼は一体何者なのだろうか?


不意にルオさんを見れば意味深に微笑まれた。まるでその答えが分かっているかのように……。


※※※


慰霊碑に献花を終えればフリージアは普段観光客の立ち入れない区画に案内してくれる。


「お父さまとお母さまがすんなり許可してくれるとは思わなかったけど」

「だよな。いくら封じた張本人がいるとはいえ、管理しているのはクォーティア公国なんだもんな」

それに彼らはどこかアルさんを見て快諾してくれた気がするのだ。


やはりアルさんはクォーティア公王夫妻すら知るすごい冒険者ってことなのか……?慈善活動無料奉仕中だけども。


「普段は入ることができないから貴重よ」

その言葉の通り、大地の大穴に通じる道の入り口には近衛騎士が立っている。

そして高い塀に囲われ、ここから中を見ることは不可能だ。


「お待ちしておりました、姫さま」

フリージアの姿に気が付いた近衛騎士たちが早速声をかけてくる。


「ええ。いつも警備をありがとうね」

「はい、お任せください。姫さま」

気さくに笑むフリージアに騎士たちも和やかに応じる。これもクォーティア公国の気質なのだろう。


「結界は張ってあるが、これから解くものだから走らないようにな」

ルオさんが言う通り、目指す方向には外界から隔絶するような膜が張ってある。


「多分お姫さまたちには見えないな」

と、ルオさん。そうなのか?レベッカたちに聞いてみれば……。


「うーん……何か霧のようにもやもやしていてよく分からないかも」

「そうね。私も大穴を遠目で見たけど、中は霧が深くて見えないのよ」

とフリージアまで。


「じきに晴れる」

ルオさんがそう言った瞬間、膜が解き放たれ巨大な穴が出現する。


「直径どのくらいあるんだろう?」

対岸は見えるが具体的に例えられるほどの知識は俺にはない。さらにその下には幻想的な光景が広がっていた。


「まるで時の止まったような……」

あれは魔法石の結晶洞窟だろうか。

「きゅ……きゃぁ」

シギは何だか悲しそう。

「大丈夫だよ。ずっと一緒だからな、シギ」

「ろ、じー、ろじー、いっしょ……きゃっ」

「うん」


「付いてきな」

ルオさんに続けば、そこには階段が伸びている。手すりもあるから落ちる危険は少ないが。


「そう言えば主、えすかれーたーとやらをつけたいと言ってましたね」

とルシルさん。

確かに昇りはあった方が便利かも。


「結界で閉じている上にそんなに来ないところなんだから必要ないよ」

アルさんが苦笑する。


「そのえすかれーたーってのもロジーの前世の……?」

「そうだよ、フリージア」

そうして会話をしながらも、俺たちは下まで辿り着く。空を見上げれば地上と変わりない青い空だが、どうしてこんなにも恋しいのか。


「さて……ここだ。ここにお前の大切なものを取りに来たんだ、ロジー」

ルオさんが触れたのは周囲のよりもひときわ大きなクリスタルだ。


「……これは」

何となく分かる。これが何であるかを。


「お前にはもう家族や信頼できる仲間がいるだろう?そしてシギもアルもいる。だからこれを受け取っても大丈夫だ」

まるで導かれるようにクリスタルに触れる。


「きゃ?」

シギも不思議そうに俺の腕の中できうっと抱き付いている。


「大丈夫だ、シギ。これは……太古の記憶」

前前世の俺が生き、守るべきもののために命を懸け散った凄絶な最期。そしてそれゆえにシギは世界を呑み込もうとした。そしてもうひとり。


「アルさん」

アルさんに向かい合う。公王夫妻はアルさんを知っていた。


「ロジー・シエルナイトはアルさんを知っている」

人間だった頃は勇者。そしてクォーティアで愛されている騎士の名。


「クォーティアで初代勇者と呼ばれるくだりまでは俺は見守れなかったけど……アルさんだよね」

「……」

その問いにアルさんはばつがわるそうに目を背け、フリージアが驚愕しているのが見てとれる。


「ずっとずっと待っていてくれたんだね……アルさん」

その記憶は確かに俺の中にある。このクォーティアの地を影から見守りながら、ロジー・シエルナイトとの思い出の地を絶やさぬように。


するとアルさんが視線を戻し、俺を優しく抱き締める。


「……ただいま、アル」

かける言葉は分かってる。これはロジー・シエルナイトが言えずに旅立ってしまった心残りだ。

「遅いよ、ロジーさん……いや、ロジー。お帰り……」

「うん、アルさん」

俺にとってはまだまだ頼りにしたい師でもあり、兄でもあるけれど。




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