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【14】入学式



――――今日は入学式だ。

入学式用の礼服は着なれないのだけど、何とかひとりで着ることができた。


「きゃ?」

「うん、変なところないかな?後ろとか」

「きゃっ!」

シギが任せろと胸を張る。そうだった。背中にはシギを背負って行くからなぁ。椅子に座ったら抱っこするが。


「ほら、これに入って」

「きゃ」

礼服でも変に思われないようにと用意してもらったのは礼服と一緒に用意してもらった皮のリュックである。


「入学祝いだってルオさんたちからもらったものだからね。ちゃんと礼服一式に見合うように頑張らなくちゃな」

「きゃん」

俺はまだまだ彼らにもらってばかりだもの。シギも応援するように頷いてくれる。


「きゃ?きゃーきゃきゃ」

「そうだね、そろそろレベッカとの待ち合わせの時間だ」

シギを入れたリュックを背負えば、シギが俺の肩から前を覗いているのが分かる。


「寝てても大丈夫だぞ?」

騒ぐような子ではないから入学式の会場でも安心だが。


「入学式の会場にはこうして抱っこできれば、テイムした魔物や使い魔を連れて入ることもできるし寝てるなら静かだし問題ないよ」

「きゅぁ」

むろん事前の許可制だがシギの場合はアルさんのお墨付きで許可を取ってある。シギも悠々とリュックに揺られるつもりのようだ。


「レベッカ、お待たせ。遅れてごめん」

「いいのよ。私も今来たところだから。早速行きましょ。校舎は徒歩で行ける場所にあるから」

「うん」

さすが寮生活だと楽だなぁ。前世では実家から近い学校に通っていたから。


「きゃっ、きゃっ、きゃ~~っ」

「シギちゃん楽しそうね」

「うん、魔帝都や城とはまた違って楽しいみたい」

リュックから顔を出して外の世界に興味津々のシギ。最近は最初の頃のひと見知りよりも好奇心がまさってきたようだ。


入学式会場に付けば、入学許可時に見せた学生証を職員に見せて入場する。


「あれ、アルさん?」

その中にアルさんがいたのだ。


「ちょっと腐れ縁でねぇ。手伝いを頼まれた」

うーん、ルオさんではないもんな。長生きだし学園に知り合いがいたのだろうか。


「あと、クォーティアの王女は先に入場していたよ」

「フリージアが……!ありがとう」

一応ルール通りにアルさんが学生証を確認し名簿にタッチしてくれる。

魔法でオート読み取りになっているようだ。便利だな。


「よし、いいよ。席はここ。行ってらっしゃい」

アルさんに座席図を渡される。俺たちの席は魔法によって自動で赤でまるが付けられている。


「うん、行ってきます」

「行って来るわね、アル」

「きゃ……っ!」


アルさんにひらひらと手を振り、入学式会場で席を探す。


「広いね」

「各国から学生が来るもの。でも一応寮ごとにだいたい纏まってるわよ」

つまりは魔族の学生たちがたくさん座っているところか。


「あっちかな」

「行ってみましょ」

そうレベッカと行こうとしていた時だった。


「あの、レベッカさま。ご案内は我々が」

「私たちは魔帝国の貴族!そのような庶民では従者として相応しくない!」

えと……何だ?

レベッカの周りに学生たちが集まってくる。まぁ確かに俺は庶民ではないのだが……。


「大丈夫よ。ロジーがいるもの」

「しかし……っ、そのものは……」


「ロジーを悪く言わないで。それにロジーと通うはお父さまが認めてくれたのよ。それともあなた、魔帝であるお父さまに直接それを許可取ったの?」

「それは……父上から……」

「なら、あなたのお父さまがロジーを差し置いて私のお付きの許可を取ったかどうか魔帝陛下に確認してもいいかしら?」

「それは……そのっ」

学生たちの顔が青くなる。


「レベッカ姫が望んでるんならいいだろう?」

「そうだ。ロジーは黒魔竜までテイムしている」

「貴族だからって横からしゃしゃり出てくんのは違うだろ」

そう後ろから援護してくれたのは昨日の男子学生たちだった。


「しょ、庶民だろ!?」

「そうよ……!」

俺がレベッカの隣に相応しくないと言ってきたのはどうやら貴族の子女らしい。


――――しかし。


「それが何なのかしら?城の高官には庶民の出身だっているし、爵位を与えられてあなたたちの家よりも家格を上げたものだっているわ」

魔族は寿命が長い。だから庶民であっても研鑽を重ねてステータスを上げることもできるのだ。


「逆に言えばそう言う横暴な態度を取って自国民をバカにして爵位を下げられたり没収させられたりする貴族もいるのよ?知らないのかしら」

『う……っ』

学生たちの顔がさらに悪くなる。そしてレベッカは彼らの家格も記憶しているのか……。さすがは皇女である。俺もそこら辺は学ばないとだな。レベッカの隣にいて恥ずかしくないように。


それからは貴族の子らは大人しく席に戻ったみたいだ。昨日の男子学生たちにお礼を言って俺たちも席へと……その時だった。


「きゃ?」

「シギ?」


「……っ」

シギが下を見るように腕を振るので見てみれば、俺の足元にちょこんと立つ妖精がいた。


「シルフィ?どうしたんだ?フリージアは……迷子か?」

「う……うぅん」

シルフィが必死に首を振る。それに少し涙ぐんでいる?

「……じあ」

そう言ってある方向を指差す。

ジアとはフリージアのことだろう。


「レベッカ」

「えぇ、行きましょう!」

レベッカがシルフィを抱っこしてくれて、シルフィが指差してくれた方向に向かう。

急いで向かえば、何やら言い争いが聞こえてくる。


その先にピンクの髪が見える。フリージアだ!


「裏切り者どもの席などあるはずがないだろう!?」

裏切り者って、またクォーティア公国を悪く言うやつらが……?

しかしどこか聞き覚えのある声のようである。


「そうだわ。そのくせにのこのこと学園にまで現れるだなんて!」

次に聞こえた女子の声は聞き覚えがないが。


「フリージア!」

「大丈夫!?」

急いでフリージアに寄り添えば、フリージアを囲む学生たちの中心にいる男女の姿を捉える。女子の方は知らないが男子の方は……。


――――あれは三男のエリオットだ。勇者に選ばれたが、勇者にはまるで相応しくない。


「何だ貴様!クォーティア人を庇うつもりならこのグローリアラントの勇者エリオットが……っ」

やはり……か。いや長年虐げてきた三兄弟のひとりを俺がみまごうはずがない。

そしてエリオットも俺の顔を見るなり固まる。


「いや……お前……まさか……いやお前は魔族!アイツのはずがない……!」

そっか……今は魔人だから。まさか俺ではないと思ったのか。まぁあの家にいた頃は痩せていたし顔立ちも違うだろうか?

そもそも魔人になっているだなんて想像はつかないよな。俺のこと魔族だって思ってるみたいだし。


「ロジーの知り合い?」

「……そのねぇ」

うーん。何と言うべきか。


「ろ……ロジーだと……?ふん……なら別人だ!アイツに名などないからな!」

いやそれはお前らが思っているだけで……俺はルオさんにロジーだと名付けられた。正確には俺の魂の名だと。


「だが貴様ら!そこのクォーティア人を庇うのならグローリアラントが……っ」

「庇うのなら何なのかしら」

レベッカが凛とした声で告げる。

「学園で国家権力を振りかざすことは禁じられているはずよ。それにフリージアは私の大切な友人だもの。国籍なんて関係ないわ!」

「その通りだ」


「レベッカ……ロジー……」


「何……っ、これだから魔族が……っ!ぼくは勇者だぞ!?」

加護を得ているかも分からないのに。


「いいぞ……ナメているのなら見せつけてやる!グローリアラントの勇者の力を!!行け、皇天竜!」

え……っ、今ここで出してくるのか!?次の瞬間エリオットの足元からまばゆい竜が躍り出る。そしてその瞬間。


「……きゃ……っシャアァァァァッ!!!」

シギが聞いたこともない声を上げる。


「シギ!?」


「行け!アイツらに目にモノを……っ」

エリオットが皇天竜にそう命じた時だった。


「シャアァァァァッ!!!」

威嚇の声を響かすシギ。そして皇天竜のすぐ真横に大地の口が開く。


「ギュアァァァァッ」

そしてそれを見た皇天竜は怯え、エリオットの元に戻ろうとする。


「何をしているんだ!ほら、戦え!!」

それに対しエリオットが怒鳴るが、皇天竜は怯えるばかりだ。


「そこまでになさい」

その時その場に凛とした女性の声が響く。見ればそこには赤髪に黒い角を持つ魔族の女性が立っていた。


そしてその後ろからは……。


「ほら、シギ。もう大丈夫だ。ロジーにもシギにも手は出させない。口閉じな」

アルさんがシギの隣に膝をつき、頭にぽふんと掌を乗せる。


「きゃぁ……」

「シギ」

「……きゃん」

納得したのかシギが大地の口を閉じる。そしてとたとたと俺のところへ駆けてきて脚にきゅうっと抱き付いた。

そんなシギを抱き上げれば、まるで甘えるようにすりすりと身を擦り付けてくる。


「おまじないみたいなもんかねぇ」

アルさんが立ち上がり、クツクツと苦笑する。

「シギもロジーを守りたいんだよ」

「……シギ」

シギが守りたいと願うのは、俺。俺がシギを守ってあげたかったのに……シギもか。そしてシルフィはフリージアに寄り添う。


「シルフィ……ロジーたちを呼んでくれたのね。ありがとう」

フリージアがシルフィを抱き締める。


「さて……グローリアラントからの留学生のエリオット・モルゲンラントだな」

あぁ、そう言う家名だったっけ。興味がないから暫く忘れていた。


「な……何だ貴様は!ぼくは勇者だぞ!」

「貴様だと……?私はこのエスとレジャ魔法学園の学園長シャルロッテ。学園長に向かってずいぶんな態度だ」

学園長……!このひとが……!


「勇者だろうが何だろうが関係ない。騒ぐのなら学園長権限で追い出す」

「何だと!?ぼくを誰だと……グローリアラント王国のモルゲンラント公爵家の跡取りだぞ!?」

跡取り……?上に兄が2人いるはずなのに……やはり勇者ジョブを持ったからこそその地位を得たのだろうか。


「関係ないな。この学園の自治は魔法学園側にあり、学園長は魔法都市の長を兼任する。どこの国の生徒でも受け入れる代わり、どこの国の権力にも屈しない。それが魔法学園都市だ」

つまりはここで一番偉いのは学園長であり、あの威張り散らしていたエリオットたちでさえ学園都市に脚を踏み入れれば従わざるをえないのだ。


「それに君はそもそも校則違反を犯したんだ。ゆえに今すぐここを出ていくがいい」

「ぼ……ぼくが何をしたと!?」


「決まっている。無許可で使役竜を放っただろう?」

アイツ無許可かよ……。いや、許可が出ても困るが。


「だったらそいつらだって……!」

エリオットが俺たちを指差す。


「彼らは許可済だ。フリージアの妖精には害がないし、あるはずもない。ロジーの黒魔竜はアルのお墨付きだからねぇ。問題ない」

ひょっとしてアルさんが受付をやっていたのもそのため……?


「な、なら!その黒魔竜とやらをぼくに渡せ!」

は……?


「そ、そうよ。私も妖精なら欲しいわ!」

とエリオットの隣の少女が叫ぶ。何を言っているんだ……?


「ぼくたちは勇者と聖女だ。だからお前たちの妖精と黒魔竜を寄越せ!」

あの少女が聖女でありグローリアラント王国の王女ってことか。


だからってひとの使役竜や妖精を渡せって何なんだ?シギは俺の……シルフィもフリージアの大切な家族だ。それをモノのようにしか見ないコイツらに!?


「やれやれ……ひとの使役する竜や妖精を奪おうとするものがどうなるかも知らぬとは」

どうなるんだ……?

「ま、十中八九レッドランクに認定されて牢に入れられるねぇ。俺が慈善活動してるのは例外だから」

そうアルさんが教えてくれる。

うん、さすがに私利私欲でそんなことをするやからが慈善活動で許されるはずもない。


「シギは渡さない。俺の大切な家族だから」

「きゃぁ」

シギが俺にぎぅっと抱き付いてすりすりしてくれる。

「シルフィもよ。シルフィは私の家族なんだから!アンタたちみたいなやつらには渡さないし……シルフィだってクォーティア公国民だもの」

「……っ!」

フリージアの言葉にシルフィがこくんと頷く。クォーティア公国を裏切り者呼ばわりするやつらの元になんて行くわけもないのだ。

むしろ絶対に渡さない。


「出ていくがいい。それとも無理矢理引きずり出そうか?」

「わ……私は王女で……」

お前たちが貶めようとしたフリージアだって王女だぞ。


「関係ない。ここでは私がルールだ」

が、学園長がカッコいいっ!そして集まる屈強な大人たちは武術の講師だろうか?


「く……っ、くそっ!覚えてろ!」

「すぐに後悔させてやりますわ!」

そう捨て台詞を投げながらエリオットと聖女が逃げていく。……てか、あれも本当に聖女なのか……?もしかしたら聖女も女神さまの加護があるか分からないのかも。


「では……入学式を再開しようか。君たちクォーティア公国の生徒たちには別の席を用意しよう」

学園長が告げる。


「こちらは人間が多い席だが……学園生活の中では国籍や種族の垣根を超えて学園生活を送ってもらいたいと願っている。魔帝国の諸君が多い席だがどうかな」

「レベッカとロジーがいるのならありがたいです。みんなも2人がいるなら大丈夫よ」

フリージアが振り返ったのはクォーティア公国からの生徒とみられるものたちだ。こうしてみると……あれ、エルフと言うか……よう異世界ファンタジーに出てくるいわゆるハーフエルフもいるのかも。この世界での言い回しはよく知らないが。

学園長とアルさんと別れ、早速席に向かう。


「あのね、ロジー、レベッカ。そしてシギもありがとうね」

「いいんだよ、フリージアのためだもの」

「……っ。うん、本当に嬉しいわ。でも……」

「……フリージア?」


「あの……ね、入学式が終わったら私たちの寮まで一緒に来て欲しいのよ」

「それって魔法学園寮……?」


「そうね。そこでも……ちょっといろいろあって……」

「……分かった。一緒に行くよ。レベッカは……」

「もちろん一緒よ!」


こうしてフリージアたちの席も新たに用意してもらい、無事に入学式を終えることができた。しかし……この後はフリージアたちが暮らす学園寮に向かうことになる。フリージアが不安そうに来て欲しいと言ってきたのなら……一体そこで何が待っているのだろうか?



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