【13】学園寮
――――エストレジャ魔法学園都市。ファンタジーな趣を崩さないその都市は、西洋風の建物が並び、賑やかなマーケットが開かれている。
「学園に入ればみんな寮に入ることになる。そこでも暮らせるように、それから学園のために働く職員や教師たちのために。学園都市は文字通りひとつの都市になっているのよ」
レベッカがそう教えてくれる。
「へぇ……すごいね」
「屋台もあるから、探索が楽しそうね!あ……もちろん第一は学業よ?」
そう言いつつも屋台を興味深そうに見るフリージアが可愛らしいと言うか。
「きゃ?」
「……っ!」
おや、シギとシルフィも興味津々そうだ。
「街に来た時は屋台で食べ歩きに決定ね」
「うん、そうみたい」
美味しいものをたくさん食べられるのは多分シギにとってもいいはずだ。
「さて、今は学園ですよ。先に入寮手続きを済まさなければ」
「分かったわ、ルシル。私たちはシュヴァルツィアの学園寮だけど……フリージアは?」
「私は一般寮よ。クォーティア公国は小さな国だから専用寮がないのよ」
国から推薦された生徒には国が魔法学園都市に寄付する形で建てた寮も提供されるという。国が建てた寮に入れなければ学園の一般寮に入ることになる。
「そうなのね……でも、シュヴァルツィア寮にはいつでも遊びに来てね」
「ありがとう。嬉しいわ」
フリージアが笑顔で頷く。
学園の敷地内に入れば、フリージアとは暫しのお別れ。シギも仲良くなったシルフィとの別れが惜しそうだ。
「きゃー……」
「ほら、シギ、バイバイって」
「きゃいきゃい」
「……!ばいばい」
あれ……?
「シルフィってしゃべれる?」
「まぁね。でも恥ずかしがり屋さんだから……シギちゃんとしゃべるってことはそれだけ信用してるってことね」
「そっか……よかったね、シギ」
「きゃんっ!」
「……っ!」
シルフィもこくんと頷き、シギとバイバイをしあった。
シュヴァルツィア寮に向かえば、まるでそこは宮殿みたいな……でも寮なんだよな?
「シュヴァルツィア魔帝国は魔法学園にも結構な寄付をしているから……立派なのよ」
レベッカは少し照れたように言う。
そして周りはもちろん魔族が多めでレベッカの姿に歓迎するムードが沸き起こる。
「本当はいち生徒として……って思うのだけど、なかなかそうはいかないのよね」
やはり……皇女だから。
「だからロジーは……友だちでいてね」
「うん……もちろんだよ……!」
「それでは早速部屋へ。まぁ立場的なこともありますのでレベッカ嬢は皇族用の部屋になりますが、ロジーは隣の部屋なので」
「分かったわ。それならすぐに遊びに行けるわね」
「隣の部屋っていいの?」
子どもではあるが一応男女。レベッカはお姫さまである。
「高貴な家柄の生徒にはお付き用の部屋があるのですよ」
「そっか、そう言うことか」
確かにお付きと離れた部屋なら不便だろうしなぁ。
「じゃぁルシルさんたちも……」
「えぇ。私とアルも部屋を借りましたよ。あと主もすぐ近くなので、寂しくなったら添い寝に来てもいいですよ。男同士ですし!」
「いやいや添い寝って……」
そんな幼くはないのだが。それとも長生きなルシルさんたちからみたらまだまだひよっこなんだろうか?
「きゃーっ!きゃんきゃん」
「シギ?」
急に何かを主張し始めた。何だか……妬いてる?
「おや……そうでした!ロジーにはシギがおりますからね」
「きゃっ!」
まぁまだまだ幼いからなぁ。シギならば、添い寝が必要だろう。むしろ別々のベッドと言われても離れないと思うけど。
「夕飯は私もお手伝いしますので、楽しみにしていてくださいね」
「……俺も手伝おうか?」
「ついたばかりなのですから、学生は休んでいていいですよ。衣装タンスなども整理が必要でしょう?」
「……確かに」
マジックボックスで運んで来たとはいえ、すぐに出せるようにタンスに収納せねば。
ルシルさんにまたねと手を振り、シギをベッドに下ろせば早速タンスに服を収納していく。お下がりやらなんやらでもらった服も増えたし……学園の制服も掛けていく。
あとこっちは土足だからルームシューズを持ち込んでいるが、外用の靴も用意してっと……。
「きゃー?」
「シギの靴も用意しておくよ」
「きゃっ!」
まぁ俺が抱っこする機会の方がまだまだ多いと思うけどなぁ。
その日の夜は学園での初の食事だ。レベッカと共にビュッフェのおかずを選んでいく。
因みにシギは背中にしょったリュックの中から顔を出している。
「学園寮の決まりごとは寮それぞれだけど、シュヴァルツィア寮の場合は新入生は半年くらいは新入生だけよ。その後は上級生と一緒になるのですって」
それも新入生への配慮なのだろうな。
「魔族は長命種であるがゆえに人間に比べたら子どもは少ないの。だからそれほど寮に学生が多いわけではないわ」
「そうなんだ」
「ええ。その分貴族や皇族だけではなく平民へも学ぶ門戸は開かれているの」
「それはすごいね」
よくあるファンタジー異世界では王族貴族のみ、平民は特待生だけとかあるもの。
「だから新入生の中でも皇族貴族平民が入り乱れている。けれどそうして新入生同士で交流しつう学園に慣れてきたら上級生とも……と言う風になるのよ」
「そう言うことだったんだね」
「ええ。それから4年生から6年生が高等部になるのよ」
つまり前世風に言えば俺たちが中学生で4年生からが高校生。ただ飛び級があるのは違うところ。
「魔族は寿命が長いからその分子ども時代や学生時代は今しか経験できない貴重な経験と捉えるから、飛び級せずに6年間きっちり通うことが多いのよ」
そっか、同世代との人脈作りにもなるようだし。この半年は特に同級生同士で交流できるな。
「だからロジーも一緒に6年、通いましょうね」
「うん、もちろんだよ」
レベッカのために飛び級したんだもの。話していればぐぅとお腹が鳴り、2人で微笑み合う。
「ほら、ロジー!美味しそう!たくさんあるわよ」
「うん、どれにしようか」
まずは考えるよりも腹ごしらえだな。
主に洋食のおかずを取る中で、和食のような煮物などを用意してあったのはルシルさんのお陰かな?
「きゃ!きゃきゃーんっ」
お……?シギが指差したのは美味しそうなチーズ料理だ。
「これも食べようか」
「きゃっ!」
ここはここでシギの食指をそそるものが多そうで安心である。
そうしてレベッカと共に席に向かえば。
「姫さまだ」
「本当におきれい」
「でも一緒にいるのは?」
「姫さまのお付きで飛び級したって言う……」
俺の噂まで広まってる!?
「あのね、女子生徒が話していたの」
「うん?何を?」
「ロジー、あなた結構人気なのよ?」
「いや……俺は平凡だし……」
そんなはずはない、そんなはずは。
「数学の試験成績も良かったんでしょう?それが評価点になってるみたい」
「いや……魔法は」
「魔族は魔法が得意だもの。魔法の出来は二の次よ。ほかに特出したものがあれば目立つのよ」
それはそれは……魔族ならではの観点だなぁ。
「でも……」
「レベッカ?」
「一番は私だから」
一番の友だちってこと?
「もちろん、レベッカが一番だよ」
「うん、ならよし」
何とか及第点をもらえたようだ。
「きゃきゃーん?」
何だろう?シギが何だかにやにやしている?
「ほら、チーズ料理」
あーんしてやればいつもの笑みに戻ったが。
「シギちゃんってわりと鋭い……?」
鋭いとは一体……?
「ううん、何でもない」
ちょっと気になるのだが……?しかし……。
「ねぇロジー、プリンのおかわりがしたいのだけど」
「取ってこようか?」
「それは嬉しいのだけど……その、ひとりじゃ食べきれないでしょ?」
レベッカったら何かかわいい……?
「3にんで分けようか」
「ええっ!」
「きゃっ!」
「それなら……いちごプリンとゴマプリンと牛乳プリンをお願いしてもいいかしら!」
「……えっ」
3つも!?いや……3にんで分けるのだし……こちらには食いしん坊もいるので。
「きゃ~~」
早速楽しみそうなシギに苦笑が漏れる。そうしてシギを再び背負い、いざプリンを……!えぇと……いちごプリンにゴマプリンに……っと。
「おい」
「……え?」
突然の呼び掛けに驚いて振り向けば、ガタイのいい数にんの魔族の男子学生たちに呼び止められた。上級生……いや違う、年下なのは俺の方だ。この食堂は今は新入生だけのはずだ。
「お前、飛び級で入って来たやつだろ?」
「レベッカ姫のお付きの」
「……は、はい」
その……それはそうだが、何か気にさわることでもしてしまっただろうか。俺は年下だし、魔人とは言えレベッカ以外のほかの魔族たちとの交流は少ない。
「お前……」
ご……ごくり。何だか強面だし年上だし……迫力が。
「きゃ?しゃ……っ」
「こら、シギ」
ここで威嚇はさすがに……っ。しゃーしようとしたシギを止める。
「お前がテイムしたドラゴンか?」
「黒魔竜って聞いたけどマジなのか!?」
「え……はい」
えぇと……その、何だか目を輝かせてないか?
「すげぇなぁ」
「年下なのに」
うんと……褒められてる?
「きゃっきゃっきゃっ」
ふふーんと胸を張るシギに男子学生たちが微笑ましそうに笑う。思ったよりも……恐くなかった。
「なぁ、レベッカ姫のことだけど」
「は、はい」
「レベッカ姫はみんなの憧れだからさ、好きなもんとかあったら教えてくれよ」
「何が好きなんだ?」
やっぱりレベッカはかわいいから皇女と言う以上にみんなの憧れ……なんだな?
「えっと……甘いものは好きです」
プリンもいろんな味を試したいようだし。
「あと東国の調味料も好きだと……思います」
「東国か……ここら辺だと手に入るのってクォーティア公国かな」
「公国からの新入生もいるんだろ?」
「確か王女が入学したとか。彼女も飛び級なんだろ?」
フリージアのことか……!
それにフリージアも飛び級……俺と同い年だったんだ。フリージアも飛び級だなんてすごいんだなぁ。
「そう言えば、人間の国からは勇者も来たんだって?聞いた?」
ゆ……勇者。脳裏を掠めるのは思い出したくもない辛い記憶だ。
「でも勇者と言えばクォーティア公国の……」
「そうそう、レイン・ヴァルツナイトだろ?」
レイン・ヴァルツナイト……?
「そのひとも新入生ですか?」
「いや……上級生だよ」
「でも留年してるって話があるよな」
うぅん……留年?あまり真面目な勇者でもないのだろうか。
「ま、会えたらラッキーかも」
「勇者だもんなぁ」
魔族でも勇者に会いたい……のか。前世の感覚で言うと不思議なもんだが、魔族と人間は対立しているわけではない世界だ。
留年はしていても、せめてましな勇者がこの世界にいることを願わずにはいられない。
「それじゃ、またな」
「姫さまを待たせるわけにも行かないから」
「あ……はい、また」
いい……ひとたちだったな。新入生同士仲良くなれるかな?
「きゃーん!」
「うん、ありがとうシギ」
シギも応援してくれているようだ。さて、俺も早くレベッカの元に戻らなくちゃ。
「あとは牛乳プリンと……チョコレートプリンもあるから、もらって行こうか」
「きゃんっ!」
おまけにチョコレートプリンも持ち帰れば、レベッカがとても喜んでくれた。
「ありがとう、ロジー!とっても美味しいわ!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
シギにもあーんしてあげれば。
「きゃ~んっ!」
頬が蕩けんばかりに笑ってくれた。
レベッカとシギとの一緒の夕飯はなかなかに楽しいひとときであった。こう言うのって青春って言うのかな?懐かしい気もしつつ、異世界での学園寮生活は新鮮なものでもある。
しかし次は入学式か……。前世の入学式とそう変わらないのだろうか?ともかく、明日寝坊しないよう早めに布団に入らないとなぁ。




