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【12】クォーティア公国の王女



――――駅弁を買いに来てみれば、ブースの方から女の子の声が響いてきた。どうやら揉めているようだが、一体何が……。


「ちょっと……駅弁を買うのに国籍なんて関係ないはずよ?」

そう告げたのはピンク髪のツインテールにヘーゼルブラウンの瞳を持つ同年代の少女だ。


「何を言うか!人間のくせに裏切り者め!」

人間のくせに……か。彼女と、それからモメている男子学生たちは全員人間である。

魔法学園都市まで向かうまでの国々の出身だろうか?


「私たちは……裏切り者じゃ……っ」

彼女が肩を震わせる。


「彼女はクォーティアの……」

「クォーティア?」


「クォーティア公国ですか」

「えぇ。クォーティア公国の王女フリージアさまよ。ルシル」

公国の王女!?そんな子がお供もつけずにひとりで……?それに彼女を囲う男子たちは彼女に比べてガタイがいい。


「ルシル、幻惑のスキルはかけないでおいて」

「……分かりました。クォーティアの姫君ならば何かあってはアルに怒られます」

アルさんに……?アルさんはクォーティア公国の関係者なのだろうか。


「女の子相手に男で寄ってたかってだなんて、恥ずかしいと思わないの?」

レベッカがそう告げると男子学生たちがこちらを振り向く。


「何だ?」

「魔族?」

「やっぱりクォーティアなんてのは人間の裏切り者だ!」

いや、何でそうなるんだよ。


「結構ないいようね。あなたたち、人間と魔族が敵同士だとでも?魔帝国と同盟を結ぶ人間の国なんてたくさんあるわよ」


「主にグローリアラントにくみしたくない小国は魔帝国と同盟を組んでいます。それでもグローリアラントは目を光らせていますがね」

そっか……大国グローリアラントに対抗するには同じく大国の魔帝国につくと言うことか。魔族と人間が争っていない世界では小国は大国の脅威から逃れるべくもうひとつの大国につく。


「それにクォーティア公国は魔帝国の同盟国。学園都市では国家権力の行使はできないけれど、けど助けるのは自由よ」

それもそうだ。人間も魔族も関係ない。寄ってたかって女の子を責める男の方が悪いよな。


「レベッカの言う通りだ」

「そうよ、ロジー!」


「……ろじー……?」

その時フリージアさまがこちらを見る。どう……したんだ?彼女が俺のことを知っているはずもないのに。


「そうですねぇ。大人としても看過はできません。しかし車内で問題を起こすのなら、我々大人は満場一致で次の駅で下車を求めるでしょうね」

大人……つまりは学生たちのお付きや車掌やスタッフたち。レベッカもフリージアさまも姫だし、身分の高い令嬢令息の危害に繋がるかも知れないのなら、そりゃぁ満場一致するだろう。


「そんな……」

「入学式に間に合わなくなるっ」

「そうしたら国からの推薦状が」

心配するのはそんなことなのか。どこまでも自分たちの保身しかしない。


「さて……分かったのでしたらとっとと去りなさい」


「でも駅弁が……」

「あなたがたのようなマナーも礼節もなっていないものたちに振る舞われる駅弁などありませんよ。それに……」

何だろう?


「あなた方……クォーティアの三騎士をご存知ないので?」

クォーティアの三騎士?


「大人しく列車の端で静かにしていないと……クォーティア公国の姫君に寄ってたかって迫ったあなたたちに……三騎士が追い掛けて来ますよ」

「そんなもの伝説じゃ……」

「もういないはず……」

彼らも知っていると言うことは相当有名な存在なのか。しかしもういない、伝説と言うことは歴史上の人物か……?


「さぁてどうでしょうか?」

ルシルさんがニヤリとほくそ笑めば、次の瞬間男子学生たちが青い顔になり悲鳴を上げて逃げていく。ルシルさん……幻惑スキルで何か見せたのだろうか?


「やれ……静かにと言いましたのに」

そう言うとルシルさんがフリージアさまを見る。レベッカはとたとたと歩いていき、フリージアさまに手を差し伸べる。


「大丈夫?フリージアさま」

「……あなた……レベッカ皇女殿下?」

「そうよ。でもせっかく学友になるんだもの。レベッカでいいわ」

「そう……レベッカ。ありがとう。私もフリージアでいいわ。それからあなたたちも……ロジー、と言うのね」

うん……?

「それが何か……」


「あぁ……それはきっと、クォーティア公国の三騎士の影響かと」

「三騎士……」


「そうよ。クォーティア公国の三騎士。あなたも知っているのね。えぇと……」

「ルシルでいいですよ」

「ルシルね。クォーティア公国の三騎士を知っていてくれて嬉しいわ。そうね……クォーティア公国の三騎士がひとり、ロジー・シエルナイト。我が公国の英雄よ」

俺が英雄と同じ名前……。


「何だか俺も光栄だよ」

「こちらこそ。ところで……」

「きゃ?」

フリージアが不思議そうに俺の肩からひょこっと顔を出すシギを見る。


「あ、この子は俺がテイムしている黒魔竜のシギで……」

「黒魔竜――――っ!?」

フリージアが絶叫する。


「そう言えば黒魔竜もクォーティア公国の……」

「ドラゴンでありながらナイトの爵位を与えられたのよ」


「大戦の後どこかへ姿を消してしまったと聞いたけど……子竜よね?」

大戦の……?歴史の授業で習った大戦のひとつだろうか?魔帝国の歴史ならここ500年ほどを習ったが黒魔竜は出てきたっけ?


「そうだよ、最近生まれたんだ」

「ふぅん?じゃぁ別竜?」


「黒魔竜は特別な竜なので生まれ直しですよ。つまりはその黒魔竜です」

「きゃっす!」

ふふんと告げるシギ。


「……うぅ……英雄だけど……かわいいし子竜だし……ほんと色々とありすぎて……。でもいいわ。私の恩人には代わりないもの。ありがとう、騎士さま」

「俺は騎士じゃ……」

「いいのよ。これは紳士への讚美の一種よ」

「それなら……」

いいのか?それにしても。


「シギ、お前ナイトの称号もらってたのか?」

しかもクォーティア公国の英雄とは。


「きゃーん?」

ほんにんは分かっていないようだが。


「きゃっ!きゃーん」

その時シギが何か気づいたかのようにフリージアの足元を示す。そこにちょこんと現れたのは。


「……妖精?」

――――とは言え大きさは3才児ほどでプラチナシルバーの髪に真ん丸い金色の瞳がかわいらしい。それから背中に妖精の羽を持っている。


「私がテイムしているシルフィよ。私はテイマーだから」

「わぁ……そうだったんだ!ひょっとしてシギ、友だちになりたいのかな」

シギを背中から下ろしてシルフィの前に下ろしてやれば。

「きゃ!」

「……!」

手を差し出したシギに、シルフィが手を差し出し仲良く握手しているようだ。


「おや……黒魔竜を恐がるかもと思いましたが」

あ……確かに伝説の黒魔竜だもんな?


「あら。シルフィはクォーティア公国に暮らす妖精よ?クォーティア公国の英雄を恐がるはずがないじゃないの」

思えばシギは、ほんにんは記憶にないようだが彼女たちが称えるナイトである。それはひとだけではなく妖精もなのだろうな。


「言われてみればそうですねぇ。アルもだから……ですね」

ルシルさんがそっと微笑む。うん……?やっぱりアルさんってクォーティア公国に関係が……?人間だった頃の話だろうか。それとも冒険者関係かな。


「そうです……せっかくですからお昼をご一緒しませんか?」

「いいの?」

フリージアがパァッと顔を輝かせる。


「もちろんよ。シギちゃんもシルフィちゃんともっと遊びたいでしょうし……それに、その、私もフリージアと仲良くなりたいわ」

「……私と……その、嬉しい」

同盟国同士の王女と皇女。グローリアラントの目があったとは言え、儀礼的なものもあれば国同士の力関係もある。でもそれも取っ払って仲良くなれる機会は……学園が与えてくれたひとつの奇跡かもしれない。


「では早速駅弁を」

「あの、私の分はお小遣いが……」

「いいのですよ。それくらいは……後でアルが立て替えます」

だから何でアルさん!?まぁその……魔帝都でも色々とおごってもらいはしたけどなぁ。


「その……アルさんって方は……」

「ふふっ。私の口から色々と言うと苦情が来るので……そうですねぇ。彼は私の同僚で何かとクォーティア公国に縁があるのですよ」

「そうなの……?私はクォーティア公国からシルフィとふたりで来たから……クォーティア公国と縁のある方と出会えるのは嬉しいわ」

やはりフリージアは祖国からひとりで……。


「私……クォーティア公国は人間の国から裏切り者って呼ばれることが多いから。だからね、供のものたちにもあまり心労をかけたくなくて……」


「でも魔帝国の同盟国だし、裏切り者だの何だの言い出したのはグローリアラントでしょ?魔帝国にら関係ないわよ」

とレベッカ。うん……多分、だからこそ、魔帝国はクォーティア公国と同盟を結んだのだろう。


「大丈夫よ。魔法学園都市までは私たちと行きましょ」

「……レベッカ。……ありがとね」

フリージアは幸せそうに頷き、そんなフリージアをシルフィが嬉しそうに見守っている。


「きゃ?」

「そうだね、シギ」

シギも俺が幸せそうだと喜んでくれる。テイムしているからこそかなぁ。お互いに分かるのだ。


「それでは」

ルシルさんが人数分の駅弁を購入してくれて俺もお手伝い。


フリージアを連れて帰れば。それを知っていたのかルオさんは普通に出迎えてくれたが、アルさんはひどく驚いているようだった。やはり縁のあるクォーティア公国のお姫さまのことは知っているからか。


「フリージア。私たちの連れのルオとアルよ!」

「むしろ保護者かな」

とルオさん。確かにそれは……当たってる。


「よろしくお願いするわ。私はフリージア。その……あなたがアル……さん?」

フリージアがアルさんを見る。


「それがどうかしたか?」

何かアルさん……ドライな感じがする。今まではどことなく優しくて兄貴肌だったのに。


「気にするな。アルは相当ひねくれているから」

そう何もかも見透かしているようにルオさんが笑う。

そう……なのかな?そんな風には感じなかったけど。


「あなたがクォーティア公国に縁があると聞いたのよ」

「……」

フリージアの言葉に、アルさんがルシルさんを睨む。


「私は縁がある、と言っただけですよ?」

しかしルシルさんはそう言ってクスクスと笑うだけだ。


「お前……」

「ま、まぁまぁ、いいじゃん。その……フリージアは俺たちの友だちだし……」

「……友だち」

フリージアが呟く。うぅ……さすがに王女さま相手に不敬だったかな。しかしフリージアはどこか嬉しそうに見える。そこは多分良かったようだ。


「はぁ……ロジーが言うならいいよ。ルシル、今回は許す」

「ふふふっ。それは何より」

ルシルさんったら相変わらず飄々としてるんだから。しかしアルさんが諦めたようにため息をつき、ルシルさんから駅弁をもらいルオさんにも渡していた。


「俺たちも食べよっか」

「きゃーんっ!」

おや……うちの食いしん坊も待ってましたとばかりの歓声である。


「そうね。フリージアも隣に座って」

「それじゃぁ……」

フリージアもシルフィを抱っこしてレベッカの隣に腰掛け、俺たちは仲良く駅弁を頬張った。こちらの世界の駅弁はサンドイッチやフィッシュ&チップスなどであったが、それも逆に新鮮であった。


そうして談笑をしつつも、アルさんがまたお菓子を分けてくれた。何だかんだでやっぱり気が利くんだよなぁ。面倒見もいいし。


――――列車に乗り込んでから……数時間後。


魔法学園都市エストレジャに到着したと言うアナウンスが響いた。


ついに……魔法学園都市についたのだ……!


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