【11】列車旅
――――この世界の列車駅のイメージは中世の趣を感じさせるのだが、列車自体はヨーロッパにありそうなしっかりとした車体である。
まさに……歴史あるヨーロッパの駅。
「この列車が魔法学園都市に行くの?」
「そうよ。エストレジャ魔法学園。その学園都市に向かうの。始発は魔帝国だけどその途中の駅でほかの国の学生も乗せるのよ」
「それならまさかグローリアラント王国にも停まるのか……?」
「いや……それは魔法都市を挟んで向こう側だから途中停車はしないよ」
そうだったのか。ルオさんの言葉にそっと息を吐く。
「しかし学区は同じなんだ」
「まぁな。同じ大陸にあるし、ほかの魔法学園都市と言えば遠くの東国やら南方の諸島とかにあるかなぁ」
東国……か。話を聞く限りはとても遠いらしい。
「そうそ。俺たちは転移でも行けるけど大量の魔力を使うからこちらに戻るのにもまたしかり」
ルオさんが困ったように苦笑する。
「魔力を回復するために多少時間がかかるよね。一晩二晩泊まらないといけない」
アルさんもうーんと頭を悩ませている。
「魔人や強い魔族でなければそもそもそれでは足りないんですけど。だからアルも普段東国の商人から食材などを仕入れていますよ」
「だねぇ、ルシル」
「あと学園都市の規模としては結構でかいから各国に人気なんだ」
ルオさんが追加で教えてくれる。つまりグローリアラント王国にも人気ってことか。
「そうそ。でも大丈夫。俺たちも行くんだからな」
「うん、そうだね。ルオさん」
大丈夫、もうアイツらなんて恐くない。もう虐げられることなんてないんだから。
「ほら、乗るわよ」
「うん、レベッカ」
俺はみんなと列車へと乗り込んだ。
――――が。
「な……何ここっ!」
広いと言うか豪華と言うか……まるで前世のテレビでみたかのような御用列車のようではないか?
「そりゃぁお嬢はシュヴァルツィア魔帝国の皇女だもん」
「でも学園にはいち生徒として行くのよ?」
アルさんの言うことは分かるがレベッカは少しだけ不満そうである。
列車の車掌やスタッフたちがレベッカに挨拶に来たのですぐに皇族の笑みに戻ってはいたが。
「けれど護衛の側面もありますから。それでもお友だちと乗れるのは良いことかと」
「ルシルの言うこともそうね」
ルシルの【お友だちと】と言う言葉にレベッカは嬉しそうだ。それにスタッフや車掌が挨拶には来たが車両の中では基本俺たちだけで過ごせるらしい。
「私、列車に乗りながら友だちとお菓子を食べながら景色を眺めたかったの」
「確かに楽しそうだね」
豪華な車両の中にも一般車両のような向かい合わせの座席がある。
「そこは従者用なんだけど……」
「まぁいいじゃねぇの、アル。レベッカもロジーも楽しそうだ」
「……ま、そうかも」
アルさんが頷けば早速とばかりにレベッカが座椅子に腰かける。俺はシギを抱っこしてその正面に座る。ルオさんたちは反対側の向かい合わせの席に腰掛ける。
「ふふっ、これ美味しいわ。お母さまがね、学生なんだからってたくさん持たせてくれたの!お父さまには内緒なのよ?」
「わぁ、駄菓子?」
「そうよ!」
レベッカはいち学生として学園に行くのだ。そのために内緒でレベッカの喜ぶものを持たせてくれるとは。やはり母は偉大と言うか、セレーナさまはすごいなぁ。
もう決して会えぬこの世界の産みの母の顔は……思い出せない。思い出せないほどに辱しめられた。
「きゃん?」
昔のことを思い出してしまったからか……シギが心配そうに俺の顔を見上げてくる。
そうだ今はレベッカと一緒なのだから。せっかくレベッカがお菓子を持ってきてくれたのだから。
「ロジー、どうしたの?苦手なものでもあった?それなら私が食べるから大丈夫よ?」
「そ……そう言うんじゃないよ、レベッカ!その……俺も食べるの楽しみだよ」
「じゃぁ最初は一緒に食べましょ?」
レベッカが3つ同じ菓子をつまみ、俺にシギと俺の分を手渡してくれる。
中身はチョコレートかな?因みにシギは大丈夫かな?
「暴食の竜だから何でも食べられるぞ」
そうルオさんに教えられて思い出した。そうだ、何でも食べられるんだったな。
チョコレートをシギに持たせてやって。
「それじゃ」
「うん」
「きゃ!」
はむっと3にんで同時にチョコレートを口に運べば……中にはイチゴのチョコが入っていたようで甘酸っぱい味が広がる。
「んん、おいしいっ」
「うん、レベッカ」
「きゃーんっ!」
セレーナさまのセレクトも完璧であったようだ。
レベッカとシギとお菓子を楽しんでいれば、シギが不意にルオさんたちの席を指差す。
「うん?ロジーたちも食べるかい?」
アルさんがこちらの席にくれたのは。
「花林糖だ」
「わぁ、こんなにカラフルね!」
「きゃーんっ!」
アルさんがくれた花林糖もいろんな味があってとても美味であった。
楽しく談笑しながら、時折休みつつ列車は途中の駅にも停まる。
「途中の駅で物資も積んでますから、列車内で駅弁を買いに行くこともできますよ」
とルシルさん。
列車内で買うことができるのか。前世の車内サービスみたいなものかな。
「せっかくだから行きたいわ!」
「まぁいいでしょう。せっかくの経験ですしね」
レベッカの言葉にルシルさんが頷く。
「列車内に危ない気配はないし、お前が一緒なら大丈夫」
そうルオさんも教えてくれる。
「それでは行きましょうか」
「えぇ!」
「うん」
「きゃんっ!」
俺たちはルシルさんについて列車内を移動することになった。
時折見かける学生やお付きと見られるひとびと。いいところの令息令嬢、王族もいるって話だからなぁ。そりゃぁお付きのものも充実しているだろう。
物珍しげに見ていれば、魔族の学生たちも目に入る。
「あの方、まさか……」
「いや、でも……」
「けど今年から学園に入学だったはず……」
学生たちの声にレベッカが不安そうな表情をする。
「変装してくるべきだったかしら」
まぁ魔族のお姫さまだもんなぁ。旅では旅装だったし、周りもまさか姫さまが城下で串を頬張っているはずがないと思われたのだろうか。
「問題ありませんよ」
ルシルさんがそう言いパチンと指を鳴らした瞬間。
「あれ、別じん?」
「気のせいかしら」
「……ルシルさん何をしたの?」
魔族の学生たちは首を傾げながらも再び談笑に戻る。
「私のスキルは幻惑や催眠なのです。ですからレベッカ嬢が別人に見えるように惑わしたのですよ」
「そんなことができるんだ」
「えぇ。とは言え相手は魔族。修練を積んでいたりセレーナさまや魔帝さまならば惑わすのに苦労しますね」
「惑わしちゃダメよ?」
「まさか。バレた時のセレーナさまは恐いので遠慮しておきます」
「んもぅ、ルシルったら」
確かにセレーナさまには魔帝さままで大人しくなるんだものなぁ。
そうして駅弁の販売ブースまで来た時だった。
そちらから何か揉めているような女の子の声が響いてきたのだ。




