魔王の企み、勇者の誓い。
『この村には、かつて魔王を倒した勇者がいた』
その伝説が語り継がれて、数百年。
やがて魔王の存在を信じる者はいなくなり、誰もがそれを作り話だと思うようになっていた。
——だが、それは間違いだったと、人々は理解し始める。
森林破壊、民家への襲撃。
このところ、人為的とは思えない事件が多発していた。
目撃者の話によれば、事件の直前に「暗い靄」が立ち込め、その直後に被害が起こるという。
そこで、ある村人が声を上げた。
「魔王の仕業じゃないのか?」
当然、その声はすぐに否定された。
しかし、それに同調する者も現れる。
「何百年もの年月をかけて復活したんじゃないか?」
「その可能性、ありそうだな。現に人間じゃない“ナニカ”の目撃情報もあるし」
人々が魔王の存在を意識し始めると、話題は次第に別の方向へ移っていった。
——では、誰が勇者になるのか。
「この村にいたなら、勇者の子孫とか残ってるんじゃないか?」
「どうだろうな。子孫でも弱かったら意味ないだろ」
「それなら、ルトがいいんじゃない?」
「確かに。ルトなら丁度いい。村で一番強いし、勇者の伝説を信じてたのも、あいつだけだったしな」
そうして村人たちは、ルトを勇者として魔王討伐へ向かわせることを決めた。
「ってわけで、ルト。おまえが勇者だ」
自宅を訪ねてきた親友のウィンはそう言って肩を掴んだ。
オレが伝説を信じてる奴というのが村では常識だったらしいことが衝撃だった。隠していたつもりだったのに。まあ、伝説は本当だったらしいから良かったけど。
そんなことより……
「オレが勇者なんて無理だろ。まともに戦ったこともないのに、魔王を倒すなんてできるわけない」
ウィンの手を払いのける。
話の流れからして、強くて伝説を信じてるやつが良かったんだろうけど。そもそも俺が強いのは喧嘩のことだ。拳と拳のぶつかり合いは魔王戦では使えない。
「でも、剣の練習してたよな?」
「なっ……」
なぜこいつはそんなことを知っている。深夜に部屋にこもってこっそりやってたのに。
「お前の手を見てりゃわかるよ。あと後ろにボロボロの木の剣がある」
咄嗟に後ろを振り向くと確かにあった。昨夜しまい忘れていたんだ。言い逃れできない。
「お前の言うとおり、剣の練習をしていた。だけど、本物の剣なんて持ってないし使ったこともないから、当てにしないほうがいい」
「本物の剣があればやってくれるのか?」
「そうは言ってないけど……わぁっ!」
ウィンに腕を掴まれ引っ張られる。
「さっさと村長のとこ行ってこようぜ。ルトがこの村の勇者になるってな」
オレを掴んだまま走り出す。こうなるともう止められない。
「ああもう、わかったから離せよ。引っ張んなくても自分で走るから!」
なんてやっているうちに楽しくなった。勇者になる実感はないけど、伝説が本当で、今それに関わろうとしている。
簡単なことじゃないのはわかってる。だけど、村のために戦ってみたい。本物の勇者みたいに。
はやる気持ちを抑えてウィンの後についていく。
「じいちゃん! ルト連れてきた!」
はっ、こいつ村長の孫だった。だからすぐに俺の名前が出たんだ。
「よく来てくれたね、ルト」
村長がにこやかに迎え入れる。会釈して家の中へ入ると、そこには魔王関連の研究書がどさりと置かれていた。
「ルト、本物の剣持ってないから戦えないってさ」
「それならここにある。少し待っていてくれ」
そう言って村長が取り出して見せたのは、立派な銀の剣だった。
使った痕跡の無いくらい綺麗で、大事に保管していたらしい。
「これは?」
「勇者が実際に使っていた剣だと言われているものだ。これを君に授けよう」
「こんな凄いのがあったんだ……」
「伝説が本当だとわかった今、これも本物であると証明されたようなもんだ。是非、この剣で倒してくれ」
渡された剣は手にずっしりと重さを感じさせる。木の剣とは比べ物にならないくらい立派で、かっこいい。
「似合ってるぞ、ルト。魔王退治も頑張れよ」
「ああ。ってオレ一人でやらせる気? こういうのは普通、五人くらいでパーティー組むもんだろ」
一人で魔王を倒せるわけがない。伝説の話だってそうなっていた。魔王と勇者だけが有名になりすぎたんだ。
「だから、少なくともあと三人は必要だ」
「ん? 一人足りなくね?」
「その一人は、お前だ」
「はあ? なんでだよ」
「オレをからかいすぎたから」
そんなやりとりのうち、村長も話に加わって、ウィンがメンバーに加わることが正式に決まった。
外へ出て、残りのメンバーを探しに行く。渋々やることになったウィンも同行して。
「そもそも、ウィンがオレの名前出さなきゃこうなってなかっただろ」
「なんの話?」
「ウィンが勇者候補の話し合いの時、俺の名前出したんじゃないの?」
「俺はその場に居ただけ。お前の名前を出したのは別のやつ」
そういえば村中にオレのことが知れ渡ってるんだった。
「おっ! ちょうどそこにいるぜ、ソイツ」
ウィンが示す方を見ると、黒マントを羽織った男がいた。
「なあ、あんたがオレを指名したのか?」
「ひっ……」
驚かせてしまったらしいが、質問にうなづいてくれた。
顔は隠れて見えないけど、背は高いし戦いにも有利かもしれない。ちょっとビビリの可能性もあるけど。
「魔王討伐に興味ない?」
「え?」
「あんたがオレを指名したから、オレもお前を指名する。魔王討伐メンバーに入ってほしい」
「…………わかった」
思ったよりスムーズに決まった。
「やった! これからよろしく、えっと……」
「レックスだよ」
「よろしく、レックス。あと、あそこにいるのはウィンだ」
レックスを連れてウィンのところまで行く。
「なんか楽しんでない?」
「そうかも。絶対オレたちで村の平和を守ろうな!」
かくして、魔王討伐作戦が始まったのだった。




