第7話 怪鳥サンドルーク
「わたくし、困っておりましてな。怪鳥サンドルークに商隊が襲われ、わたくしも依頼を受けて退治に向かったのですが――」
「倒せなかったと」
「いえ、姿を見て逃げ帰ってきましたぞ!」
ミリュアが思わず吹いた。
「お主、襲われてすらおらぬじゃないか」
「いえいえ! サンドルークのあの威圧感に気圧されましてな。転んで膝を痛め、そのまま倒れておったというわけですぞ!」
「……で、俺たちにどうして欲しい?」
「討伐をお願いしたいのですぞ。もちろん、報酬は弾みますぞ!」
ダリスは腰の袋をがさがさしながら、なぜか一度も中を確認せずに重みだけを強調するように揺らした。
「本当に入ってるのか、それ」
「もちろんですぞ! 男に二言はありませんぞ!」
ヴァルドは肩をすくめた。
「まあ、金になるならいい。受ける」
「ほう! 助かりますぞ! では、案内いたしましょう!」
赤砂谷へ向かう道は、灼けるような陽光の下で揺らめき、砂混じりの風が頬を刺した。
「ダリス。ここから先は危険だ。依頼は俺たちだけで十分こなせる。お前は街に戻れ」
「なんとお優しい……しかし! わたくしは武闘家! 守られるばかりではございませんぞ!」
胸を張るダリスの体つきは、どう見ても武闘家より旅芸人に近い。ひょろひょろの腕に、砂漠の日差しだけが痛々しく降り注いでいる。
「……勝手にしろ」
ヴァルドは小さくため息をつき、ミリュアはくすりと笑った。
「まあまあ、賑やかなのは嫌いではないぞ。わらわは」
谷へ足を踏み入れると、空気が変わった。ひんやりと冷たく、かすかに金属の匂いが混じる。岩壁の陰から、鋭い影が走る。
「来るぞ」
ヴァルドが低く呟いた瞬間、空を裂くような甲高い声が響いた。
――ギャアアアッ!!
砂煙を巻き上げて降り立つ巨大な怪鳥。赤黒い羽、槍のように尖った嘴。その名はサンドルーク。
「ひいっ!? やっぱりでかいですぞ!!」
ダリスが背後に跳ね、ヴァルドは前へ出る。
「ミリュア、下がってろ」
サンドルークが翼を広げ、砂を巻き上げながら突進してきた。その瞬間、ヴァルドの瞳が赤く光る。
彼の身体が風を裂くように前へ跳び、怪鳥の攻撃を紙一重で避けて拳を叩き込む。硬い外殻にひびが入り、サンドルークが鳴き声を上げて後退した。
「さすが、ヴァルドさんですぞ! ではわたくしも応援を……!」
ダリスは突然、両腕をくねらせ、腰を落とし、奇妙なステップで踊り始めた。
「な、なんだその動きは……?」
「応援の舞ですぞ!!」
ミリュアは岩の上で腹を抱えて笑った。
「ぷっ……あの者、面白すぎるのう」
だが――次の瞬間。
サンドルークの視線がダリスに向き、狙いが変わった。
「お、おや……?」
「避けろッ!!」
怪鳥が跳躍し、鋭い爪をダリスの背へ伸ばす。
ダリスは信じられない速度で地面に伏せ、両腕で砂を掻きながら高速ほふく前進で横にスライドした。
「ひいいっ!! 危ないですぞーー!!」
「なんだその回避は……!?」
「仕方ないのう。そら、動くなよ」
ミリュアの指先から放たれた魔力の矢がサンドルークの片翼を貫き、バランスを崩す。
「トドメは俺だ!」
ヴァルドが跳び上がり、拳を翼の付け根へ叩き込む。轟音とともにサンドルークが岩に激突し、そのまま動かなくなった。
「ふぅ……終わったか」
「さすがですぞ! いやあ、生きててよかった……!」
ダリスは涙目で胸を押さえると、急に胸を張ってうそぶいた。
「もちろん、わたくしの応援の舞の力もありましたぞ?」
「いや、あれは……」
「よかったのう、ダリス」
ミリュアがくすくす笑うと、ダリスは誇らしげに鼻を鳴らした。
討伐完了後、ダリスはしっかり報酬を支払い深々と頭を下げた。
「では、このあたりで失礼――」
「わたくしも旅に同行させてもらいたいですぞ!」
「ダメだ。お前は怪しすぎる」
「いけず……ですぞ。でも! ダメと言われて引き下がるわたくしではありません! こっそり後をつけ――」
ヴァルドとミリュアは最後まで聞かず、砂漠の街へと歩き出した。
「ちょ、待ってほしいですぞーーっ!!」




