第5話 拳を合わせて、旅の第一歩
夜が近づき、街の広場は徐々に静けさを取り戻していた。屋台の灯りが淡く揺れ、遠くで子供の声が消えていく。ヴァルドとミリュアは、討伐の時間まで街角の小さな居酒屋のテラスに腰を下ろしていた。
「それにしても肝が据わっておるのう。不老不死……正確には聖銀の刃でつけた傷は修復不可じゃから不老のみではあるが、怖くないのか? 突然異種族になって」
ミリュアは森の実ジュースの少しとろりとした舌触りをたのしみながら、興味深そうに肉塊の炙り焼きを頬張るヴァルドを見上げる。
「宿敵を倒すという目的があるが故、だ。一度は潰えかけた命、救ってもらえてむしろ感謝をしている」
ヴァルドの声には淡い覚悟が混ざっていた。夜の帳が下りる前に、二人の間に静かな緊張が漂う。ミリュアは小さく笑みを浮かべ、肩を軽く揺らした。
「それなら良いんじゃがの」
日が沈み、街灯の明かりだけが二人を照らす頃、広場に掲示されていた討伐依頼の現場へ向かう時間が迫った。
夜の森を抜けた先、人気のない通りに差し掛かる。木々の影が揺れ、遠くで獣の咆哮が聞こえた。ヴァルドは剣の柄に手を置き、周囲を警戒する。
「……奴らはこの辺に出現するらしい。気を抜くな」
「わかっておる」
ミリュアは太もものベルトに装備された聖銀のナイフ取り出し、構える。
木々の間に、不自然な気配が広がる。月明かりに反射して赤い瞳が二つ、じっとこちらを見据えた瞬間、森の静けさが破られた。
「来たな!」
ヴァルドは剣を抜き、姿勢を低くして前方に踏み出す。ミリュアも瞬時に体を構え、ナイフを握る手に力を込めた。
魔物は不死系の小型の獣。身体の表面が薄く光を帯び、切られてもすぐに回復する。だが、聖銀の刃が触れるたびに、その再生力は少しずつ抑えられていった。
二人の動きは自然に噛み合う。ヴァルドが剣で牽制し、ミリュアが素早く側面から切り込む。森で鍛えた連携が、初めての街での戦闘にも生きていた。
数度の交戦の後、魔物は力尽き、ゆっくりと地面に倒れた。ヴァルドは息を整え、ミリュアの方を見て微かに笑った。
「……やるな。小規模とはいえ、なかなかの動きだった」
ミリュアも軽く肩をすくめ、無邪気に笑みを浮かべる。
「ふふ……これくらいは朝飯前じゃ。わらわもまだまだ衰えておらんのう」
二人は自然に拳を合わせ、静かなグータッチで互いの勝利を確認した。
夜の街に、二人の小さな達成感が静かに残る。今日の戦いは序章に過ぎないが、この瞬間こそ二人の絆を確かめる最初の一歩となったのだった。
読んでくださり、ありがとうございました!
★評価、ブックマーク、リアクションなどしていただけますと大変励みになります。




