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吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


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第46話 奪われた鉱山、築かれた要塞

 ヴィオレッタを討ち取ったあとも、三人は立ち止まらなかった。

 息を整える暇もなく、彼らは鉱山へと続く道を選び、黙々と歩を進める。

 やがて下山もほぼ終わり、冷たい風が幾分和らいだころ、先頭を行くグレンがふと足を止め、口を開いた。


「先程の薬品だが、私の娘が行商で取り扱っているものと同じものだった」


 その一言に、ミリュアが思わず目を丸くする。


「え、ま、まさかとは思うが」


 グレンは小さく頷き、雪の向こうを見据えたまま続けた。


「桃色の髪に、おさげ髪。丸い眼鏡をかけた獣人の商人に覚えはないか?」


 一瞬の沈黙。次の瞬間、ヴァルドとミリュアの脳裏に、はっきりと同じ姿が浮かんだ。あの屈託のない笑顔、軽やかな口調――間違いない。


「……まさに、メルティそのものじゃな」


 ミリュアがそう呟くと、グレンは苦笑しながら肩をすくめた。雪山の向こうに広がる運命の糸が、思わぬところで絡み合っていることを、誰もがはっきりと感じていた。


 ◇


 下山を終え、四人は麓にある鉱山村・シンダルへと足を踏み入れた。


 村は雪に埋もれるようにして、静かにそこにあった。屋根には分厚い雪が積もり、煙突から立つ煙も細く弱い。

 道は踏み固められているが、人影は少なく、行き交う者は皆、視線を伏せて早足で通り過ぎていく。

 家々の扉は昼間だというのに固く閉ざされ、窓には厚手の布が掛けられていた。

 活気というより、息を潜めて耐えている――そんな空気が村全体を覆っている。


「……静かすぎるのう」


 ミリュアが周囲を見回し、低く呟く。


 子どもの姿はほとんど見えず、外に出ているのは老人か、働けそうにない大人ばかりだった。

 狩猟用の槍や斧が家の脇に立てかけられているが、どれも使い込まれてはいるものの、戦争に耐えられるような代物ではない。


 やがて、村外れで薪を運んでいた一人の魔族の男に声をかける。灰色がかった角と浅黒い肌を持つ、疲れ切った表情の村人だった。


「この先の鉱山について、話を聞かせてほしい」


 ヴァルドがそう切り出すと、男は一瞬だけ顔を強ばらせ、周囲を確かめるように視線を走らせた。


「……あんたたち、知らないのか」


 男は声を落とし、吐き出すように続ける。


「鉱山はもう、ただの鉱山じゃない。アルグレイドの要塞になっている」


 四人の表情が一斉に引き締まる。


「要塞、じゃと?」


 ミリュアが問い返すと、男は苦々しく頷いた。


「聖銀の出る場所を囲うように城を築いた。中では不死兵がひしめいている。近づこうとした者は……戻ってこない」


 冷たい風が吹き抜け、村の旗布が弱々しくはためいた。

 サンラグ鉱山は、すでにアルグレイドの支配の象徴へと変えられていた。


 村人の言葉が重く胸に残る中、張りつめた空気を和らげるようにダリスが軽く咳払いをした。


「まぁまぁ、慣れない雪道の移動で疲れていますし、一旦落ち着きましょうぞ」


 その提案に、ヴァルドも小さく頷く。


「そうだな。情報を整理するにも、休憩は必要だ」


 四人は村の中央にある小さな集会小屋へと案内された。古い木造の建物で、壁には隙間風を防ぐための布が打ち付けられている。中央には炉があり、かろうじて火が入っていた。暖かいとは言えないが、凍えるほどではない。


 毛皮のマントを外し、炉を囲むように腰を下ろすと、ようやく全員が深く息を吐いた。


「鉱山が城になっておるとはのう……」


 ミリュアが炎を見つめながら言う。


「力押しで突っ込めば、まず包囲されるじゃろうな」


「不死兵の数も問題だ」


 ヴァルドは地図を広げ、鉱山周辺を指でなぞる。


「正面突破は無理がある。だが、放置はできない。村を襲う準備をしている可能性もあるからな」


 ダリスが続ける。


「ここは鉱山に近すぎる。見せしめにされてもおかしくありませんな」


 グレンは腕を組み、静かに口を開いた。


「シンダルには戦える人間はほとんどいない。だが、地形なら多少は知っている者もいるはずだ。裏道や、鉱山へ続く古い通路が残っているかもしれん」


「まずは村の安全確保、情報収集じゃな」


 ミリュアが頷く。


 ヴァルドは炉の火を見据え、ゆっくりと言った。


「今夜はここで休む。村の話を聞き、鉱山の構造を探る。アルグレイドは必ず討つが、その前に――守るべきものを守ろう」


 四人の意志は、静かに一つにまとまっていった。

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