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吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


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第45話 雪に散る赤

「ヴィオレッタはまた聖銀武器を狙って攻撃を仕掛けてくることだろう。そのタイミングで……討ち取ろう」


 ヴァルドの真剣な声が、雪山の空気に響いた。


「そうじゃな……アルグレイドの軍勢を少しでも減らしておきたいしの」


 とミリュアが続ける。


「しかし、雪山では動きにくく、地形も危険が伴うだろう」


 心配そうに呟くヴァルドに対し、グレンは胸を張りながら答えた。


「私は行商で雪道での歩行は慣れている。任せてくれ」


「助かる。それでは、また出発しよう」


 覚悟を決めるヴァルドの声が、雪山の冷たい空気に溶けていく。

 この山岳を越えれば、サンラグ鉱山はもうすぐだった。


 三人とグレンは、雪に足を取られながらも慎重に進む。風が頬を刺し、呼吸は白い息となって空へ消えていく。


 山を半分ほど越えたあたり、視界の先で黒い影が一瞬揺らめいた。


「来たか……」


 ヴァルドが低く呟くと、次の瞬間、不死兵の襲撃が雪原を裂いた。

 ヴァルドは大剣を構え、鋭い一閃を不死兵へと向ける。

 斬撃は一体の不死兵を吹き飛ばし、その硬い骨格を叩き砕く。続けて二体、三体と、雪を蹴散らしながら倒していく。


 しかし、その勢いで立ち上がる不死兵も次々と現れる。四体、五体、六体――。


「いったい、何体いるんだ……!?」


 雪原の先には、黒い影が無数に広がり、まるで大地が暗黒に覆われたかのようだった。


「あの方向……兵はあえて雪が深いところに誘っているように思われる」


 グレンが声を潜めて告げる。


「ヴィオレッタが考えそうなことだな……」


 ヴァルドは眉を寄せ、黒く広がる不死兵の群れを睨む。


「こっちに抜け道がある」


 グレンが指さした方向へ、木々の隙間を縫うようにして、三人とグレンは雪深い林を進んでいく。


「助かる」


 ヴァルドが安堵を漏らす。


「土地勘はある。道案内は任せてくれ」


 そのまま雪深い林をしばらく進むと、視界が開けた先に異様な影が現れる。

 黒い毛並みが雪の白に浮かび上がる大型の狼──いや、ただの狼ではない。腐敗した肉とむき出しの骨が混ざり合った、ゾンビのような狼だった。

 さらに、その二体を従えるかのように、ヴィオレッタがその姿を現した。雪の中で不敵に微笑む彼女の背後には、凍てつく風が巻き起こる。


「うふふ。ひとり増えたところで、なんにも変わらないわ」


 ヴィオレッタの声が冷たい風に乗って響く。雪原に黒い影が揺れるたび、三人とグレンの体に緊張が走った。

 二体のゾンビ狼が低く唸り、雪を蹴散らしながら突進する。


 ヴァルドは大剣を構え、最初の狼を一閃で吹き飛ばす。

 しかし、雪に足を取られた瞬間、後ろから二体目が跳びかかる。剣を傾けて受け止めるが、雪に滑ってバランスを崩す。


「くっ……!」


 ミリュアは氷の魔法で狼の足元の雪を凍結させ、足を絡め取ろうとする。

 しかし、寒さで手の動きが鈍り、魔法の発動が少し遅れる。ヴィオレッタはその隙を逃さず、軽やかに跳び上がり、鋭いレイピアで斬撃を繰り出した。雪煙の中、ヴァルドの大剣がかろうじてその攻撃を受け止める。


 ダリスは側面から飛び込み、蹴りと拳で狼を押し戻す。だが、二体の狼は再び立ち上がり、牙をむき出しにして襲いかかる。


 足場の不安定さと連続攻撃に、三人とも呼吸が荒くなる。


「ヴィオレッタ……さすがだな。簡単には勝たせてくれそうにない」


 ヴァルドの声が雪に反響する。


「また、動きやすくしておくかの!」


 ミリュアは手をかざし、炎の魔法で雪を溶かし、動きやすい地面を作る。

 溶けた雪が水蒸気となって立ち上る間に、ヴァルドが大剣を振り抜き、ヴィオレッタの側面をかすめる。


「こっちだぞ!」


 グレンも加勢し、背後から狼の注意を引きつける。

 ミリュアがその隙に炎の魔法の詠唱を完成させ、魔力を解き放った。


 凍てつく林に炎が走り、狼たちの足元の雪を溶かしていく。狼は驚き、動きが鈍った。

 その隙を逃さず、ヴァルドが大剣を振り下ろす。雪を蹴散らし、狼の一体を吹き飛ばす。残る狼もグレンの鋭い爪での攻撃とミリュアの短剣による斬撃で倒され、雪原に倒れ伏した。


 ヴィオレッタは高所から鋭いレイピアを振るうが、ヴァルドの大剣が力強く受け止める。

 ダリスが飛び道具で援護し、ミリュアの短剣での連撃も加わって、徐々にヴィオレッタを追い詰めていった。


 雪が舞う中、ついにヴィオレッタの足元が崩れ、バランスを崩す。

 ヴァルドは以前メルティからもらった小さなフラスコを懐から取り出すと、正確に投げつけ、ヴィオレッタの体に中身を浴びせた。

 中の麻痺薬が即座に効き、ヴィオレッタの手足は痺れて思うように動かせなくなる。


「なっ……なにっ……! 動け……っ、動かせない……!」


 ヴィオレッタは必死に体を振るうが、痺れのせいで力が入らない。

 その隙に、ミリュアは冷静に短剣を手に取り、ヴィオレッタの心臓へと突き立てた。

 ヴィオレッタの胸から鮮血がほとばしり、雪に赤い染みを作っていく。

 雪原に倒れ伏した彼女の唇から、かすかに最期の言葉が漏れる。


「ア……アルグレイド……さ……ま……」


 ミリュアは小さく息を吐き、短剣を抜きながら低く呟く。


「しまいじゃ……」


 雪と血が混ざった地面に、静かな沈黙が広がった。

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