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吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


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第43話 白嶺の街フロストベルク

 次の瞬間、ヴィオレッタは素早くレイピアを抜き、雪に足を取られることなく踏み込んできた。鋭い突きと回転斬りが雪面を切り裂き、周囲に細かく雪が舞う。


「くっ……やはり動きが速い!」


 ヴァルドも大剣を構え、反撃に踏み込む。重い一振りで雪を蹴散らしつつ、ヴィオレッタの攻撃を受け止める。

 ミリュアは杖を構え、ダリスは素早く跳躍して両者の間に割って入る。


 だが、寒さと雪の深さが体を鈍らせ、普段のように思うように動けない。


「よし……それなら!」


 ミリュアが詠唱を始め、炎の魔法が雪を溶かして周囲に水蒸気を立ち上らせる。地面が徐々に柔らかくなり、足場が安定する。

 三人は息を合わせて攻勢に出た。


「これで動きやすくなったじゃろ!」


 ミリュアの声に応えるように、ヴァルドは大剣を振るいヴィオレッタの側面をかすめる。


 ヴィオレッタは身を翻し、レイピアの刃を雪煙の中で翻す。連続の突きと回避が交錯し、金属音と雪の軋む音が響き渡る。


 ダリスは素早く跳躍して背後から氷の飛沫を散らし、ミリュアは炎で残雪を溶かし続ける。足元は安定していたものの、ヴィオレッタの攻撃に常に警戒を怠れなかった。


 一瞬の隙を突いてヴァルドの大剣が肩口をかすめると、ヴィオレッタは軽く呻き声を上げ、素早く後退を始めた。雪煙の中、蹴散らす雪片が舞い、彼女の濃紫の髪だけが視界に残る。


「……まだ、手加減はしないわよ」


 そのときだった。


「ヴィオレッタ様、準備が整いました」


 突然不死兵が現れ、ヴィオレッタに声をかける。


「わかったわ。いいところだけど、一旦引かせてもらうわね」


 そう呟きながら、ヴィオレッタは霧の彼方へ姿を消した。


 三人は互いに息を整え、静かに戦場を見渡す。戦いは終わったが、緊張感はまだ体から消え去らなかった。


「行く先々に現れるのう」


 ミリュアが吐き出すように言う。


「まるで、俺たちの行動が読まれているようだ」


 ヴァルドも眉を寄せる。雪原に残る足跡を見下ろしながら、警戒だけは緩めなかった。


 雪に覆われた山道を抜け、三人はフロストベルクへと歩を進める。


 ◇


 三人は雪に足を取られながらも、ようやくフロストベルクの街門を潜った。


 バルグからもらった毛皮のマントを羽織っていたが、冷たい風は容赦なく吹き付け、頬や耳を刺す。息を吐けば白い息が漂い、雪の粒が肩やマントの上に小さく積もっていく。


 街は雪に包まれ、石造りの建物の屋根には厚い雪が積もっていた。煙突から立ち上る煙が、白い空気の中でゆらりと揺れる。街灯の橙色の光が雪に反射し、街道は淡い光の帯のように見えた。


 道行く人々も防寒具を厚くまとい、重い足取りで雪道を行き来している。雪を踏むたび、靴底からキュッと音が響き、街全体に静かな緊張感を漂わせていた。


 三人は迷うことなく宿へ向かう。扉を押し開けると、暖かな空気が出迎え、外の凍てつく世界とは別世界のように感じられた。足を踏み入れると、雪で冷えた体が少しずつ温まり、ようやく長い道の疲れを実感する。


 宿の中は木の温もりが漂い、火の灯る暖炉が微かに揺れる。三人は互いに頷き合い、部屋へと進んでいった。


 ◇


 宿の部屋に足を踏み入れると、暖炉の炎が柔らかく揺れ、冷え切った体をじんわりと温めた。三人はその前に腰を下ろし、沈黙のまま火の明かりに照らされながら、しばらく動かずにいた。


 ヴァルドが口を開く。


「そういえば、ヴィオレッタが撤退するとき、“準備”がどうとか言っていなかったか?」


 ミリュアが眉を寄せ、火を見つめながら低く答える。


「……あれは、単なる脅しではないじゃろうの。何か、次の行動の前触れかもしれぬ」


 ダリスも体を温めながら頷き、手にしたマントを軽く握る。


「まさか、雪国に攻め込むつもりなんじゃ……?」


 三人の間に、嫌な予感が静かに、しかし確実に胸をよぎった。

 暖炉の炎が跳ねる音だけが、部屋の静けさを破っていた。


 準備が何を意味するのか。三人は言葉少なに、それぞれの頭の中で予測を巡らせた。

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