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吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


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第42話 白銀の旅立ち

 夜が深くなるにつれ、街の灯りは橙色の光を湛え、宿の窓からも柔らかく漏れていた。外はすっかり静かになり、通りを行き交う人影もまばらだ。


「……ダリスが、まだ戻らんな」


 ミリュアが眉を寄せ、扉の方を何度も気にする。


「ま、あやつなら大丈夫じゃろうけどな。わらわたちは食事にしようかの」


 ヴァルドが軽く肩をすくめ、二人は宿の食事処へ向かう。


 木の温もりを感じる食堂には、夜の客がちらほら。二人は席に着き、熱々のスープや香ばしいパンを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。静かな夜、久しぶりの落ち着きが、身体の疲れをほぐしていく。


 食事を終え、部屋に戻ろうとしたとき、ミリュアが階段で体勢を崩した。咄嗟にヴァルドが腕を差し伸べ、彼女を支える。


「大丈夫か?」


「すまぬ……疲れが出たようじゃの」


 そのまま肩を支え、二人はゆっくりと部屋へ戻った。

 ドアを閉めた瞬間、ミリュアはきつくヴァルドを抱きしめる。


「ミリュア……?」


「少しだけ……こうさせてくれぬか?」


 小さく震えるミリュアを、ヴァルドはそっと抱き返す――彼女が自分に、かつての父の面影を重ねていることを、彼は心の奥で理解していた。


 ベッドにミリュアを横たえる。

 ミリュアはずっとヴァルドの腕から離れなかった。


 困ったように顔を覗き込むと、ミリュアは両頬に手を当て、そっと口付けを交わす。ヴァルドは動かず、そのまま口付けは次第に深く、静かに続いていった。


 その日、結局ダリスは戻ってこなかった。


 ◇


 翌朝――

 ヴァルドとミリュアは同時に目を覚ました。


 目が合い、わずかに気まずさが走る二人。


 隣の寝台には、いつの間にか戻ってきたダリスがまだ大きないびきをかいて眠っていた。


 ミリュアが小さく息をつき、地図を広げる。


「ヴァルド……次は、ここを目指すのじゃな」


 ミリュアが指を滑らせ、雪に覆われた山岳街を指す。


「フロストベルクか……雪深い場所だな」


 少し間を置き、地図を凝視しながら続ける。


「サンラグ鉱山まで最短で行くとなると、この山越えルートを通るしかない。だが、雪崩や吹雪も覚悟せねばならん」


 ミリュアが頷く。


「……気を引き締めねばならぬのう」


 ダリスは布団の中でぐーすか寝返りを打ちながらも、声だけを漏らす。


「……雪……寒いのは、嫌です……ぞ」


 ミリュアがくすりと笑い、二人は改めてルートを確認した。

 銀雪の山道と吹き荒れる風が、行く手を阻むことを予感させる。


 ◇


 三人が街の外れに差し掛かろうとしたそのとき――


「おい、待て」


 背後から呼ぶ声に振り返ると、バルグが工房から駆けてきていた。


「バルグ……?」


 ヴァルドが驚きとともに声を上げる。

 バルグは息を整え、短く頷いた。


「お前たちが次に向かうのは……雪深いフロストベルクだろう」


 ミリュアとダリスが互いに視線を交わす。バルグの察しの良さに、少しだけ感心する。


「それなら、これを持って行け」


 そう言って、三人に厚手の毛皮のマントを差し出す。


「餞別だ。戦争を終わらせる前に凍死でもされたら困るからな」


 そう言い、豪快に笑うバルグ。


 三人は感謝の意を伝え、毛皮を身に纏い、雪国への旅路へと足を踏み出した。

 フロストベルクの白銀の山々が、遠く霧の向こうに静かに見えていた。


 ◇


 雪が降り始める中、三人は慎重に足を運ぶ。フロストベルクへの道は白銀に覆われ、足元の積雪が深く、歩みを鈍らせる。


「……なぜ、こんなところに……」


 ヴァルドが低く呟くと、前方の積雪の陰から不死の魔物が姿を現した。

 灰色の皮膚に覆われ、氷のように冷たい瞳が三人を捉える。剣を抜き、踏み込もうとした瞬間、雪が深く、足元がもつれる。


「くっ……!」


 ヴァルドは踏ん張りながら斬撃を振るうが、積もった雪に脚を取られ、攻撃の軌道が乱れる。魔物はゆらりとかわし、鋭い爪を振りかざしてくる。


 ミリュアも短剣を構え、素早く回避しつつ急所を狙うが、雪に足を取られて距離感が狂う。


 ダリスは壁を蹴って跳躍し、雪を蹴散らしながら投げ物で敵を翻弄するが、同時に二匹、三匹と新たな魔物が現れ、戦場は瞬く間に混戦状態に。


 冷たい風と舞い散る雪、そして絶え間なく襲いかかる魔物たち。足場を奪われ、攻撃を避けるたびに雪が靴の中に入り込み、冷たさがじわじわと体力を削る。三人は呼吸を整えながらも、一歩一歩確実に敵を退けていく。


 ――そのときだった。


「やだぁ、あたしのかわい子ちゃんたちに乱暴したわね」


 聞き覚えのある声に、三人の背筋が凍る。濃紫の髪が吹雪に揺れ、冷たい瞳が戦場を見渡していた――ヴィオレッタだ。


「あなた、いつの間にかすっごく物騒なもの持ってるじゃない。それ、こっちに渡してもらってもいいかしら?」


 ヴィオレッタは軽くかがみ込み、挑発的な仕草を見せた。

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