第40話 手にした希望――聖銀の大剣
朝の光が街の石畳を照らす頃、ヴァルドたちは鍛冶師ギルドの建物前に立っていた。
重厚な扉の向こうでは、昨日までの騒動を思い出させるように、ギルド幹部たちが声を交わしている。
「ここまで来て、何を言うつもりだ?」
入り口で立ちはだかる中堅の幹部が、冷たくヴァルドたちを見つめる。
「昨日の件は説明させてもらう。バルグの工房に起きたこと、そして盗まれた聖銀の行方だ」
ヴァルドは静かに、しかし力強く語り始めた。
言葉に無駄はない。すぐに三人の目的も明確になった。
ギルド幹部たちは互いに顔を見合わせ、ざわつく。
「外から来た連中に、勝手に口出しさせるつもりか」
「責任逃れの言い訳ではないのか」
反発の声は大きいが、ヴァルドは視線を動かさず続ける。
「我々は武器を求めに来たのではない。この街の中で、聖銀が歪んだ力として使われようとしている。それを止めるためだ」
一瞬の沈黙。幹部たちは言葉を失う。
戦争の影響で、誰もが疑心暗鬼になっている。しかし、ヴァルドの声には揺るぎない覚悟があった。
「戦争の火を消す気があるなら、耳を貸せ」
バルグが、低く力のこもった声でそう告げる。
それは、ギルド内の反発を抑える、最後の一押しだった。
重々しい沈黙のあと、幹部たちはようやく頷き、口々に条件を確認する。
バルグの工房での武器製作は一時停止のままだったが、三人の行動を保証として、解除される運びとなった。
◇
三人は、再びバルグの工房へ足を運んだ。
炉の火は変わらず熱く、鉄と煤の匂いが充満している。バルグは黙々と作業台に向かい、聖銀の塊を慎重に炉に置き、ハンマーを握った。
ヴァルドとミリュア、ダリスは静かに見守る。火花が散り、鉄が打たれる音が響くたび、剣の形が徐々に浮かび上がる。時間が経つにつれ、一本の大剣として完成に近づいていった。
ようやく、バルグは息をつき、完成した聖銀の大剣をヴァルドに手渡す。剣の冷たくも重厚な感触に、三人の視線が集まる。
「これ、一本だけだ。増やさねえ。貸さねえ。売らねえ」
バルグの声に、重みがこもる。
「だが……久しぶりに、刃の行き先が“戦場”じゃねえ剣だと思えた」
鍛冶師としての誇りと、平和への願いが混ざった言葉だった。
ヴァルドは剣を握り、固く頷く。バルグは少し踏み込み、さらに言葉を重ねる。
「早く終わらせてこい! この街が、また剣を欲しがる前にな」
火と鉄と覚悟の結晶――聖銀の大剣は、ただ一つの希望として、彼らの手に託された。
◇
三人が工房を出るころには昼過ぎになっていた。重厚な扉を閉め、街の雑踏を抜けて宿へ向かう。日差しはやや傾き始め、石畳を温かく照らす。
宿に着くと、部屋に荷物を置き、少しの間だけ疲れを癒す。ヴァルドは剣を壁際に立てかけ、ミリュアは窓の外を見つめ、ダリスは手に持った布で汗を拭った。
街の昼下がりの喧騒を背に、三人は次の行動へ思いを巡らせていた。
「バルグ様のおかげで、想定していたより早く聖銀武器が手に入りましたな」
ダリスが笑みを浮かべて言うと、ミリュアも短く頷いた。
「これで、サンラグ鉱山に向かう準備が整ったのう」
「聖銀をこの世界からなくす――戦争を終わらせるためにも、アルグレイドを討つためにも」
ヴァルドが剣を握り、目的を再確認するように言葉を紡ぐ。
「疲れてしもうたわ。まずは休むとするかの」
久しぶりの休息に、ミリュアは少し肩の力を抜いた。
「わたくしは、ちょっと外の空気を吸ってきますぞ」
ダリスがそう告げると、軽やかに部屋を出ていった。ドアの向こうで街の雑踏の音がかすかに響く。
残されたヴァルドとミリュアは、静かな室内でしばし向かい合った。
「のう、ヴァルド……」
「どうした?」
ミリュアは言葉を詰まらせ、少し目を伏せた。しばらく沈黙が続く。
やがて、小さな息を吐くと、ゆっくりと語り始めた。
「……昔話をしてもよいかの? 遠い、遠い昔の話じゃ」
ミリュアの声はかすかに震え、千年以上も前の記憶が彼女を支配していた。




