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吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


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第39話 争いを終わらせる道

「そういや……」


 バルグは苦々しく口角を歪める。


「最近、やけに“戦争向き”の注文が増えてる。表向きは人間国家向けだが……火の回り方が不自然だ」


 ダリスが腕を組む。


「つまりですな。表の注文に紛れて、裏の用途が仕込まれている可能性がある、と」


「そういうことだ」


 その日のうちに、三人は動いた。

 鍛冶場を巡り、火脈の管理区画を確認し、夜の搬入路を洗い出す。


 そして――違和感は、街の外れにある一つの工房に行き着いた。


 夜更け。

 稼働しているはずのない時間に、炉の火が赤く揺れている。

 ヴァルドたちは足を止めた。未完成の聖銀剣が机の上に置かれ、淡い光を放っている。


「……ここか」


 ヴァルドが低く呟くと、物陰から顔を覗かせた鍛冶師が振り向いた。中堅の男で、若くはないがベテランと呼ぶにはまだ早い。険しい顔の奥には、どこか鋭い決意が宿っていた。


「よそ者か……何しに来た?」


「おぬしこそ、ここで何をしておる? 聖銀を……その剣に使おうとしておるのか?」


 ミリュアが問いかけると、男は肩を竦め、剣を手に取った。


「……外に渡せば、どうせ戦場で使われる。だったら、この街を守れる奴の手にある方がいい。俺が持てば、少なくとも無駄死にはさせねえ」


 その言葉には、正義の顔がはっきりと刻まれていた。守るための理屈、街を救うための必死さ。しかし、その理屈の先にあるものは――


 この聖銀こそが、不死を討つ力を秘めた代物だ。つまり、街を襲う不死軍を止めることもできるが、同時に人間も魔族も殺せる力。戦争の象徴とも言える存在である。


 男は無言で剣を握り、炎の光に顔を照らされた。そこには、戦争の恐怖と守りたいという衝動が交錯する――“正義”の顔をしているからこそ、危うい存在だった。


 剣を握る男の手は、微かに震えていた。

 それは恐怖ではない。決断を間違えたくない者の、迷いの震えだった。


 ヴァルドは一歩前に出る。剣には手をかけない。ただ、真っ直ぐに男を見た。


「守りたい気持ちは、間違ってない」


 その言葉に、男の眉がわずかに動く。


「……なら、邪魔をしに来たわけじゃねえだろうな」


「違う。俺たちも、戦争を終わらせるためにここにいる」


 ミリュアが静かに続ける。


「その剣は、不死を斬れる。じゃが同時に、人も魔族も殺せる。そなたが恐れている“最悪の未来”を、一番早く呼び込む道具でもあるのじゃ」


 男は歯を食いしばる。


「綺麗事だ。備えなきゃ、街は滅びる」


 ダリスが珍しく、声を低くした。


「備える、というのは分かりますぞ。ですが、その備えが“誰かを疑わせる力”になった瞬間、街はもう戦場です」


 ヴァルドは頷く。


「アルグレイドの狙いはそこだ。人間と魔族が疑い合い、武器を求め、勝手に火を大きくする。不死軍は、そのあとを歩くだけでいい」


 男の目が、揺れた。


「……じゃあ、どうしろって言うんだ」


 ミリュアは短剣を収めたまま、一歩踏み出す。


「聖銀を“殺すため”に使うのではなく、“終わらせるため”に使うのじゃ」


「終わらせる……?」


 ヴァルドは、静かに言った。


「戦争の根は、ここじゃない。人間でも魔族でも、この街でもない」


 一拍置き、視線を上げる。


「――全部、アルグレイドだ」


 炉の火が、低く唸る。


「人が疑い、武器を求め、先に斬らなきゃと思わされる。そいつが一番望んでいる形だ」


 ヴァルドは男の剣ではなく、その奥――恐怖そのものを見るように続けた。


「だから考えなくていい。この街を守るために、誰を斬るかなんて。俺たちがやるのは一つだけだ」


 きっぱりと、迷いなく。


「アルグレイドを討つ。それ以外の戦争は、起こさせない」


 短い沈黙の後、ミリュアが小さく頷く。


「……斬る相手を、間違えぬということじゃな」


 炉の火は、変わらず燃えていた。

 だがその炎は、恐怖ではなく、覚悟を照らしていた。

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