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吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


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第32話 餞別と、祈りの行方

 戦いが去った街道には、霧と焦げた匂いだけが残っていた。

 不死兵の残骸は静かに崩れ、街は――空だった。


 避難は完了している。

 それでも、守ったはずの場所に人の気配がないことが、かえって重くのしかかった。


 ヴァルドは剣を下ろし、深く息を吐く。


「……守れはした。だが、終わってはいないな」


 ミリュアは短剣の血を拭いながら、霧の向こうを睨んでいた。


「うむ。ヴィオレッタは退いたが、負けた顔ではなかった。あやつ、街の力と対応を測っただけじゃ」


「つまり……下見、ですかな」


 ダリスの声から、いつもの軽さが消える。


「次は、もっと厄介なのが来る。しかも――聖銀は、恐らく持ち帰られた」


 その言葉に、空気が張りつめた。


 メルティが一歩前に出る。


「街は今、自警団と傭兵で最低限は守れるわ。でも、相手が本隊を出したら……正直、持たない」


 ヴァルドは、街の方角を振り返る。

 多種族が共に暮らしていた場所。

 今日まで、当たり前のようにそこにあった日常。


「だからこそ、追う」


 その声は低く、迷いがなかった。


「守るために、先に叩く。ヴィオレッタの撤退先――聖銀の行き先を突き止める」


 ミリュアが静かに頷く。


「賛成じゃ。このまま待てば、次は街が戦場になる。それだけは、避けねばならぬ」


 ダリスは肩をすくめ、いつもの調子で笑う。


「決まりですな。留守は任せて、危ないところに首を突っ込む――いつも通りですぞ!」


 ヴァルドは、剣を握り直した。


「戦いはこれからだ」


 霧の奥、ヴィオレッタが消えた方角を見据えながら、三人は静かに歩き出す。


 エルグラードの門を抜けようとした、その時だった。


「待って!」


 背後から駆けてくる足音と、聞き慣れた声。

 振り返ると、息を切らしたメルティが立っていた。


「どうした?」


 ヴァルドが問うと、彼女は一度深呼吸し、抱えていた小さな袋を差し出す。


「これ……持っていって」


 中には薬瓶や投擲用の薬包、簡易の治療具が手早くまとめられていた。


「旅の途中で役に立つはずよ。さっきみたいな場面、またあるでしょ?」


「助かるですぞ。これは心強い」


 ダリスが素直に礼を言うと、メルティは少し照れたように視線を逸らした。


 それから、声を落とす。


「それと……ヴィオレッタのことだけど」


 三人の表情が引き締まる。


「彼女、アルグレイドの中でも“回収役”よ。聖銀や重要物資を見つけて、前線に渡す専門。単独で動くことが多いけど、必ず次の拠点がある」


「やはり、遊撃ではないか」


 ミリュアが短く呟く。


「場所までは掴めてない。でも、撤退する時は南東を選ぶ癖があるって聞いた。……役に立つかは分からないけど」


「十分だ」


 ヴァルドははっきりと答えた。


 メルティは一瞬だけ安堵したように微笑み、それから真剣な眼差しで三人を見る。


「私は……応援することしかできない。でもね、それでも――平和を願ってる」


 その言葉は、静かだが強かった。


「必ず、生きて戻ってきて。エルグラードは……あなたたちが守ってくれた街なんだから」


 ミリュアは小さく頷き、ダリスは親指を立てる。


「任せるですぞ!」


 ヴァルドは最後に一度だけ街を振り返り、そして前を向いた。


「行こう」


 門の外へ踏み出す三人の背を、メルティはしばらくの間、黙って見送り続けていた。

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