第30話 三人の選択
ヴァルドは剣を握りしめたまま、街を見つめる。
「ここを見捨てる選択は、俺にはできない」
守るべき場所がある限り、彼が前に立つのは当然だった。
しかも今回は、人間・魔族・獣人などが共に暮らす街。
互いに違う立場でありながら、同じ日常を守ろうとしている場所だ。
――この街は、失ってはいけない象徴。
アルグレイドに壊させてはならない。
ヴァルドはそう判断していた。
一方、ミリュアは同じ光景を、より冷静な目で見据えていた。
「正面から殲滅するのは無理じゃろうな……相手は斥候で終わるまい」
不死兵は倒せない。
倒せるのは、自分だけだ。
だからこそ、彼女は結論を急がなかった。
「ならば、逃がせる者は逃がす。わらわたちは――時間を稼ぐ」
全てを守るのではない。
守れる未来を残すための選択だった。
“不死”であるミリュアにとって、人間や獣人が犠牲になる光景は、何よりも耐え難い。
彼女の瞳には、静かな覚悟が宿っていた。
その空気を振り払うように、ダリスが豪快に笑う。
「要するにですな! 敵を止める役と、引っ掻き回す役、そして――仕留める役!」
彼は拳を鳴らし、歯を見せる。
「三人いれば、十分ですぞ!」
三人の役割は、自然と定まった。
ヴァルドは前線に立ち、不死兵の進行を食い止める盾となる。
ダリスは囮となり、撹乱と拘束で敵の動きを狂わせる。
そしてミリュアは――唯一、不死を終わらせる刃として動く。
守る。
だが、全員を戦場に残さない。
それが、三人の選んだ戦い方だった。
◇
街道に静寂はなく、朝の霧が石畳を湿らせる中、最初の不死兵が路地から姿を現した。
灰色に濁った瞳が冷たく光り、無言のまま距離を詰めてくる。
「来たか……!」
ヴァルドは剣を構え、一歩前へ出た。
鋼が肉を裂き、肩口を深く斬り裂く――だが。
裂けた肉は蠢き、骨が軋む音とともに塞がっていく。
「……やはり、倒れん!」
ヴァルドは即座に判断を切り替え、刃を横薙ぎに振るう。
狙いは首でも心臓でもない。脚だ。
不死兵の膝が砕け、体勢が崩れる。
「今ですぞ!」
ダリスが屋根から飛び降り、拳を叩き込む。
衝撃で不死兵の身体が吹き飛び、石壁に叩きつけられた。
「効かなくても、動けなきゃ同じですぞ!」
ダリスは瓦礫を蹴り上げ、さらにもう一体の進路を塞ぐ。
敵は動きが鈍り、完全に足を止められていた。
その隙を――影が裂いた。
「――終いじゃ」
ミリュアが路地裏から滑り込み、聖銀の短剣を突き立てる。
刃が深く沈んだ瞬間、不死兵の身体が激しく痙攣した。
再生は、起こらない。
肉が崩れ、骨が砕け、灰となって石畳に散る。
「一体、処理完了じゃ!」
「次を止める!」
ヴァルドが即座に剣を振るい、別の不死兵を押し返す。
斬る。
弾く。
崩す。
倒す必要はない。
「ミリュアさん! 動きを止めましたぞ!」
「よし!」
ダリスの拘束で身動きの取れなくなった不死兵へ、ミリュアが駆ける。
短剣が正確に急所を貫き、二体目も塵となった。
その間にも、ミリュアは振り返り、声を張る。
「こっちじゃ! まだ逃げ遅れがおる!」
子どもを抱え、年寄りを支え、確実に退路へ導く。
戦いながら、人を守る。
ヴァルドは剣を構え直し、通りの先を睨んだ。
「……まだ来るな」
「来ても同じですぞ!」
ダリスが拳を鳴らす。
だが、霧の向こうには、なおも新たな影が蠢いていた。




