表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/58

第27話 行商人メルティとの出会い

 ――翌朝。

 窓から差し込む柔らかな光と、朝食の支度をする音で目を覚ます。


 台所からは、湯気の立つ鍋の音と、香ばしく焼ける魚の匂いが漂ってきた。

 卓には温かいスープと素朴なパン、川魚の塩焼きが並べられ、ラグナの母が手際よく器を配っていく。

 妹は少し照れた様子で水を運び、父は静かに頷きながら三人に席を勧めた。


「朝はしっかり食べていってください」


 その言葉に、ダリスは目を輝かせる。


「これはありがたいですな。戦に向かう者の腹は、常に満たしておかねば」


 ヴァルドは黙って箸を取り、温かいスープを口に運ぶ。

 優しい味が喉を通り、胸の奥に静かな力が満ちていくのを感じた。

 ミリュアもゆっくりと食事を味わい、穏やかな表情で頷く。


「……良い村じゃの」


 短い言葉に、ラグナは小さく笑った。


 食卓には、先日の戦いの重さとは対照的な、静かで確かな温もりがあった。

 三人は言葉少なに食事を終え、それぞれが次の道行きを胸に思い描いた。


 ◇


 食事を終えた後、ラグナは真剣な表情で三人に向き直った。


「俺は、この村に残ります。この村を守りながら、人間と魔族が手を取り合えるってことを、ここから広げていきたい」


 その声には迷いがなかった。


「魔族軍の動きや、不死軍の情報も集めます。何か分かれば、必ず知らせます」


 ヴァルドは頷き、静かに答える。


「ああ。俺たちはサンラグ鉱山を目指す。ただし、一直線には行かない。各地で情報を集めながら進むつもりだ」


 ダリスも腕を組み、力強く言った。


「人間軍も魔族軍も、このままでは共倒れですからな。真実を知る者を増やさねばなりませんぞ」


 ミリュアは穏やかに微笑み、ラグナの肩に手を置く。


「ここは頼んだぞ。小さな灯りでも、闇を裂くには十分じゃ」


「……はい」


 短い別れの後、三人は村を後にした。

 背後で手を振るラグナの姿が、森の緑に溶けていく。


 ◇


 次に向かうのは――交易都市エルグラード。

 山と平原の境に築かれた中規模の街で、人間と魔族、さらには獣人やドワーフまでもが行き交う情報の集積地だ。表向きは中立を保っているが、その裏では各勢力の思惑が複雑に絡み合っているという。


 サンラグ鉱山へ至る道を探るにも、不死軍の動きを知るにも、避けては通れぬ場所。


 三人は新たな目的を胸に刻み、次なる街へと歩みを進めた。

 まだ小さな同盟の火を、消さぬために。


 ◇


 街道を外れ、なだらかな丘と森の境目を進んでいると、前方に不自然に大きな影が揺れているのが見えた。


 近づくにつれ、それが一人の旅人だと分かる。桃色のおさげ髪を揺らし、丸い眼鏡の奥で必死そうに前を見据えながら、大きな荷袋を背負った獣人の少女だった。猫科らしい三角の耳が、緊張したようにぴくりと動く。


「あっ……た、旅の方ですか?」


 少女は三人を見るなり、ほっとしたように肩の力を抜いた。


「私はメルティ。行商をしてる獣人よ。薬品や保存食を各地に運んでるの」


 そう言って、背中の荷物をぽんと叩く。中で瓶がかすかに触れ合う音がした。


「この先、街道の様子はどうなっておる?」


 ミリュアが尋ねると、メルティは少し声を落とす。


「最近、不死軍の動きが活発だって噂よ。それに……この辺り、妙な魔物が出るようになったの。地面の下から、ぬるっと――」


 その瞬間だった。


 足元の土が泡立つように盛り上がり、粘液をまとった異形が姿を現す。胴は長く、鱗とも苔ともつかぬ質感に覆われ、複数の細い触腕が不規則に蠢いている。目らしき器官はなく、代わりに空気を震わせる低い鳴動が響いた。


「初めて見る魔物だな……!」


 ヴァルドが剣を抜き、前に出る。


「後ろに下がっておれ!」


「は、はいっ!」


 メルティが慌てて距離を取るのと同時に、魔物が地を滑るように突進してきた。


 ヴァルドが正面から斬りかかり、硬い感触に舌打ちする。その隙を突き、ミリュアが横から踏み込み、触腕を短剣で断ち切った。切り口からは黒ずんだ液体が噴き出す。


「ぬめりが厄介ですぞ!」


 ダリスが気合と共に拳を叩き込み、衝撃で魔物の胴体が大きく歪む。


「今よ!」


 メルティの声と同時に、小さなフラスコが宙を舞った。割れた瓶から淡い煙が広がり、魔物の動きが鈍る。


「麻痺薬です!」


「助かる!」


 ヴァルドは一気に距離を詰め、鈍った胴を深く斬り裂いた。ミリュアがトドメとばかりに心臓部と思しき箇所を突き、魔物は震えながら地面に崩れ落ちる。


 ぬめる音が止み、森に静けさが戻った。


「ふう……なんとか、ですな」


 ダリスが息を吐くと、メルティは目を丸くして三人を見つめた。


「すごい……! 三人とも、ただの旅人じゃないわね」


 彼女は深く頭を下げ、眼鏡の奥でまっすぐに笑った。


「助けてくれてありがとう。これは……縁ができた、ってことかしら?」


 街道には、再び歩き出すための静かな風が吹いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ