第23話 生者の魂、闇に消え
「さあ、このままじゃつまらないわ。もっと、歯向かってちょうだい!」
ヴィオレッタのレイピアが光を切り裂き、連続で振り下ろされる。三人は必死にかわすのが精一杯で、攻撃の隙を探す間もない。
「くっ……!」
ヴァルドは剣で防ぎながら、刃の先に光る冷たい汗を感じた。
そのとき――
「わたくしも参戦しますぞーーー!!」
ダリスが勢いよく飛び込む。両手を広げ、謎の型を取り、連続攻撃を放つ。
「うおおおおーーーっ!!! そのたわわなものにわたくしは触れたいですぞーーー!!!?」
「ヤダ、なにこの親父……」
ヴィオレッタは目を丸くし、ドン引きの表情で一蹴。
ダリスは吹き飛ばされ、床に転がった。
「ご褒美ですぞーーー!!」
再び立ち上がるダリス。
――しかしその瞬間、ミリュアがスッと影のように接近。短剣を一閃させ、ヴィオレッタの腕に小さな傷を刻む。
「いやーん! 傷が残ったらどうしてくれるのよ!!」
ヴィオレッタはさらに猛攻を仕掛けようとした瞬間、足元の鉱脈が小さく軋む音を立てた。
壁の亀裂が、まるで彼女たちを試すかのように広がっていく。
「……なっ、何だこれは!?」
周囲の不死兵たちも慌てて足元を見下ろし、状況の危うさに気づく。
「やはり地下への道を作るために爆発は……」
「そりゃあこうなるわなぁ……」
「ちょ、ちょっとアナタたち、なんでもっと早く言わないのよ!」
慌てふためく声が飛び交う中、ヴィオレッタは顔をしかめつつも短く息をつき、冷静さを取り戻そうとする。
しかし、薄暗い地下鉱脈の亀裂はさらに広がり、瓦礫が崩れ落ちる音が響く。
「まあいいわ……聖銀はしっかりと手に入れたことだし……撤退よ! 全軍撤退――!!!」
ヴィオレッタの号令とともに、黒装甲の不死軍たちはドタバタと後退していく。
ぎりぎりのタイミングで崩れかけの鉱脈から逃れる姿は、どこか滑稽でもあった。
「俺たちも逃げるぞ!」
ヴァルドはミリュアとダリスを促し、三人は地下鉱脈の危険をかいくぐって素早くその場を離れた。
崩れ落ちる瓦礫の音と遠くに響く怒号を背に、三人は息を整えながら地下鉱脈を後にした。
◇
地上へ抜けた瞬間、背後で鉱脈が大きく軋み、岩盤が音を立てて崩れ落ちた。地下の通路は完全に塞がれ、まるで鉱山そのものが消え去ろうとしているかのようだった。
「くそっ、あいつら聖銀を……!」
「のう、あの者――」
ミリュアの指先が震え、遠くに立つ影を指し示した。そこには、先ほど助けたはずの生存者が二人、しかし――その瞳は空洞に近く、動きもぎこちない。肌には不自然な青白さが漂い、口元には血の痕がついていた。
「まさか、ヴィオレッタに噛まれたのか……!?」
ミリュアの声が震える。ダリスも目を見開き、言葉を失った。
その瞬間、二人の“不死化”した生存者が、無表情のままこちらに向かって歩みを進める――牙を剥き、迫るその姿は、かつての人間の面影をわずかに残すだけだった。
“不死化”した二人の生存者は、無表情のまま牙を剥き、迫る。
かつての面影をわずかに残すその姿に、ヴァルドは一瞬、躊躇の色を見せた。しかし、戦わねば三人とも命が危うい。
ミリュアが短剣を握りしめ、ヴァルドとダリスが連携して敵を足止めする。
鋭い一閃、巧みな身のこなしで、徐々に不死者たちを追い詰めていく。
「こっちですぞーーー!!!」
ダリスが放つ奇妙な技で注意を引き、ヴァルドが突進の軌道を作る。その隙に、ミリュアが冷徹な目で短剣を深く突き立て、二人の“不死者”は静かに倒れた。
息を整え、互いの顔を見合わせる。戦いの最中に流れる緊張感とは違い、今は怒りが込み上げる。
「くそ……アルグレイド……!」
ヴァルドの拳がわずかに震え、血と瘴気の混ざる空気を掴むように握り締める。
「……許せぬ……あの者のせいで、こんな無垢の命が!」
ミリュアも短剣を握りしめ、鋭い瞳で闇を睨む。怒りと悲しみが混じった冷たい光が、彼女の瞳に宿っていた。
やがて夜が明け、薄い橙色の光が瓦礫の広場を照らし始める。
三人は倒れた不死者たちのそばに花を置き、静かに手を合わせた。
ヴァルブリーゼを後にした三人は、再びルーミエールの街へと足を向ける。
次に迫る戦いに備えるために――静かに、しかし確かな決意を胸に抱きながら。




