第22話 闇に舞う剣と地下鉱脈の死線
「あら、まだ生き残りがいたのね」
そこに立つのは、長い深紫の髪を揺らし、漆黒の鎧に身を包んだ女性。
目元には薄く紅を差したような妖艶さがあり、鋭い視線が二人を捉える。
胸元は鎧の隙間から曲線をわずかに覗かせ、威圧と色香を同時に放っていた。
「きさまは……!?」
ヴァルドが剣の柄を握り直す。
「あたしはヴィオレッタ。アルグレイド様直属の騎士団長よ」
その声には冷たい自信と余裕が滲んでいた。
「騎士団長……じゃと!?」
ミリュアも短剣を握り直し、鋭い視線を向ける。
ヴィオレッタはゆったりと足を踏み出し、腰に差した細身のレイピアを軽く揺らす。
その指先は優雅に、だが確実に攻撃の準備を整えていた。
赤い瞳がランタンの光にきらりと光り、氷のように冷たい微笑を浮かべる。
「あら……あなた、物騒なもの持ってるのね」
ヴィオレッタはミリュアの手元をじっと見つめた。
「ここ……実は鉱山なのよね。その短剣と似た感じの、物騒なものがたくさんあるの。秘密にしてたみたいなんだけど、アルグレイド様が気づいてくれたのよ」
彼女の声は艶めかしく、空間にゆったりと響いた。
その佇まいには、戦場でも腐らない優雅さと、致命的な殺意が混ざり合っている。
「聖銀が、こんなところに――!?」
「ふふふ。でも、こんなとこ見られちゃったら生きては返せないわね」
ヴィオレッタはレイピアを一閃、光を反射させるように構える。薄暗い地下の照明に刃先がわずかに光り、冷たい空気が辺りを張り詰めさせた。
闇に浮かぶ彼女の姿は、まるで夜の舞姫――優美さと危険を同時に纏った、一瞬たりとも油断できない相手であった。
ヴィオレッタの一閃に呼応するように、ヴァルドは剣を抜き、地面を蹴る。
地下の湿った土と石壁に反響する足音が、戦場の鼓動のように響く。
「行くぞ、ミリュア!」
「任せるがよい!」
ミリュアは短剣を握り、素早くヴィオレッタの動きを探る。光を反射する刃先が揺れるたび、間合いを測るように一歩ずつ後退する。
ヴィオレッタはその優美な動きから、まるで踊るかのようにレイピアを振るう。鋭い突きや回転の斬撃が、ヴァルドとミリュアの間を縫う。
「くっ……ただの力では押し切れぬ……!」
ヴァルドは吸血鬼化の力を少しずつ解放し、身体能力を限界まで引き上げる。跳躍力、反応速度、筋力――普段では考えられないほどの力が身体を満たした。
ミリュアは瞬時に足場を変え、ヴィオレッタの横をすり抜けて背後から短剣で狙う。
しかし、ヴィオレッタは華麗に身体をひねり、鋭い刃で防ぐ。金属がぶつかる鋭い音が地下にこだまする。
「さすが……アルグレイド直属……!」
「だが、引かぬぞ!」
ヴァルドは強引に距離を詰め、蹴り上げた瓦礫を盾にヴィオレッタの視線を遮る。
その隙にミリュアが再び接近し、弱点を探ろうとする。
ミリュアが短剣を振りかざした瞬間、ヴィオレッタのレイピアが閃き、鋭い突きを放つ。
その攻撃はミリュアをかすめ、腕に浅く傷を刻んだ。血がにじむ。
「ぐっ……!」
ミリュアはすぐに傷を押さえるが、自然には治らない。嫌な予感が胸をよぎる。
ヴァルドも刃を交わした瞬間に、ヴィオレッタの突きが肩をかすめる。力強くも無情な鋭さが残り、身体に痛みが走る。
「……あのレイピア……聖銀が使われているのか!」
ヴァルドは眉をひそめ、鋭い視線で敵を睨む。
「うふふ……バレちゃった。だって、そこの二人も不死の者なんでしょう?」
ヴィオレッタは薄暗い地下で妖しく微笑む。
「なぜ、それを……!?」
ミリュアは短剣を握りしめ、怒りを滲ませながら問いかける。
「見ればわかるわぁ……」
その瞳には、甘く危険な光が宿っていた。
冷たい地下の空気が、ヴィオレッタとの間に緊張を張り巡らせる――戦いは、さらに苛烈さを増していく。




