第1話 吸血の契り、始まりの夜
森の中、ヴァルドはまだ全身に力が戻らず、足取りも不安定だった。
しかし、ミリュアの血を受け入れたことで、体内に新たな力が流れ込み、傷はみるみる癒えていく。
「……す、すごい……力が……!」
ヴァルドは思わず息を荒くする。
その瞳は、通常の人間のものではなく、淡い水色に光を帯びていた。
「わらわの血が効いたのう。これで死ぬ心配はない」
ミリュアは落ち着いた声で言い、手を差し伸べる。
小さな体なのに、不思議な威圧感がある。
「……ありがとう。だが、俺は……戦場を離れられん」
ヴァルドは再び戦場を思い出す。森を抜ければ、まだ戦闘が続いているのだ。
そのとき、遠くから鈍い唸り声と枝を踏む音が聞こえた。
「ほう……魔物がおるのう」
ミリュアは目を細め、森の奥を見据える。
その小さな体が、静かに戦闘態勢に入った。
「……くそ、こいつらか……」
ヴァルドは短く唸ると、剣を握り直す。
まだ不安定な足で立つが、力は十分にある。
魔物が姿を現す。二頭の狼のような獣だが、目は赤く光り、鋭い牙をむき出している。
その瞬間、ヴァルドの体が自然に反応する。
吸血鬼化した血が全身に巡り、動きが人間を超えた速度になる。
「わらわと共に戦うのじゃ!」
ミリュアは杖のように見える小さな指先から光の刃を生み出し、魔物を牽制する。
光と影の中、二人の距離は絶妙に保たれ、攻撃のタイミングが合致する。
ヴァルドは剣を振り、魔物の片方を深く切り裂く。
同時にミリュアは光の刃でもう一匹を縛り、動きを封じた。
まるで呼吸を合わせたかのような連携が、戦場では考えられない速さで展開される。
「お主……強いのう」
ミリュアは小さく感嘆し、笑みを浮かべる。
その声がヴァルドに届くと、不思議な安心感が胸に広がった。
「……まだまだだ。だが……助かる」
ヴァルドは返す。
自分を気にかけ、戦いの中で共に戦う相手がいるという実感が、これまでにない感覚だった。
一撃、二撃――短い戦闘の末、魔物は地に伏せた。
森には再び静けさが戻る。
「ふう……やったか……」
ヴァルドは息を整え、剣を地面に突き刺す。
「うむ……よく戦ったのう、ヴァルド」
ミリュアは微笑み、肩を軽く叩いた。
その仕草に、戦いの緊張がふっと解ける。
二人は互いに見つめ合う。
戦場で生き抜いてきた男と、千年を生きる少女。
力と知識の差を超え、初めて真正面で息を合わせた瞬間だった。
森の夜はまだ深い。
しかし、二人の間には、不思議な絆のようなものが芽生えたのだった。
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