表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼の少女に血を吸われた傭兵は、迫る戦争と不死の脅威に立ち向かう  作者: 白月つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/58

第15話 風裂きの獣と魔族の青年

 食事を終えた三人は、風鈴の音を背に外へ出た。

 ヴァルブリーゼの中央広場には、風よけの布が張られた円形の掲示板があり、旅人や冒険者が集まっている。


「何か手頃な依頼はあるかのう」


 ミリュアが覗き込み、指先で紙をめくる。


 ヴァルドはひときわ大きく貼られた内容に目を留めた。


「……“風裂きの獣ウィンドレイザー”の討伐依頼か。高原に巣食う鳥型魔獣だな」


「最近、被害が増えておるらしいですぞ」


 ダリスが腕を組み、妙に詳しい口調で補足する。


 ミリュアは軽く頬を押さえて微笑む。


「風を裂く魔獣とは……なんだか楽しそうじゃの」


 ヴァルドとダリスは同時にため息をつきつつも、どこか呆れ半分で笑った。


「よし、決まりだ。今のうちに巣の近くへ向かうぞ」


 ◇


 三人は高原西部の“風道の崖”へ向かった。風が強く、渦巻く気流が岩肌にぶつかり独特の音を響かせている。


 そのとき――

 切り立った崖の下で、黒い影が倒れ込んでいるのが見えた。


「誰かおる!」


 ミリュアが身を乗り出す。


「魔族……か?」


 ヴァルドが目を細めた。


 長い耳、赤みがかった褐色の肌。

 黒い角が一本折れたままの青年が、風裂きの獣に追い詰められていた。


「くっ……来るな、バケモノが……!」


 巨大な鳥型魔獣の風刃が地面をえぐる。


「考えてる暇はない。行くぞ!」


 ヴァルドが崖下へ飛び降り、砂塵が舞う。


 風裂きの獣が大きく羽ばたき、周囲に鋭い風刃が飛び散る。

 ヴァルドは吸血鬼らしい瞬発力でそれをすり抜け、獣の翼へ斬り込んだ。

 獣の羽が散り、風圧が弱まる。


「いいですぞ! ヴァルドさん!」


「まだだ……油断するな!」


 ウィンドレイザーが翼をはためかせた。

 空気が歪む。


「来るぞ!」


 瞬間、風刃が横一線に走り、高原の草が帯状に吹き飛ぶ。

 ヴァルドは剣で受け止めたが、衝撃で膝が沈む。


「ぐっ……!」


 ミリュアは素早く横へ跳び、風刃を回避。

 だが、二撃目がすぐ迫る。


「のわっ!? ちょっ、待つのじゃ、速すぎるっ!」


 追撃の風圧でミリュアの身体が転がる。


「ミリュア!」


「わらわは無事……っ、でも強敵じゃの……!」


 ダリスも拳を構えて飛び込むが、獣の風膜が衝撃を吸収し、拳は弾かれた。


「か、硬いですぞ!? 風で守られてますな!」


 ウィンドレイザーは上空へ跳び、旋回しながら急降下してくる。

 風圧がひとつの槍となり、地面がえぐれた。


 これでは接近すらできない。


(誰かが隙を作るしかない……)


「わらわに任せるのじゃ!」


 ミリュアが右手を掲げ、風と逆らうように青い光を放つ。


「風よ、鎮まりて――“氷縛ひょうばくの鎖”!」


 輝く氷鎖が地面から伸び、獣の脚を絡め取った。


「今ですぞ、ヴァルドさん!」


 ダリスが叫ぶ。


 ヴァルドは一気に跳躍し、獣の首筋に剣を突き立て、そのまま地面へ叩きつけた。轟音が響き、魔獣はやがて動かなくなった。


「ふぅ……危なかった……のう……」


 ミリュアはその場に座り込み、乱れた呼吸を整えた。

 ヴァルドは彼女の肩を支える。


「無茶をしたな」


「ふふ……ぬしらなら、信じられるであろ」


 ◇


 ヴァルドが倒れていた青年に駆け寄り、抱き起こす。


「大丈夫か?」


 青年は赤い瞳で三人を見上げ、戸惑いながらも礼を述べた。


「……助けてくれたのか。ありがとう。俺はラグナ。風谷の魔族だ」


「わたくし、ダリスでございますぞ! こちらはヴァルドさんとミリュアさん!」


 ダリスが得意げに紹介する。

 ヴァルドは警戒を解かずに言った。


「なぜこんな場所に?」


「……本当は、人間の街と取引をするつもりだったんだ」


 低くかすれた声で告げる。


「だが……最近は緊張が高まっている。俺たち魔族は、街に近づいただけで追い返されるようになった」


 ラグナは悔しげに唇を噛む。


「それでも諦めきれなくて、物資を求めてヴァルブリーゼの近くまで行ってみたんだ。だが……街の外れで、あの風裂きの獣に襲われて──」


 どこか遠くで、風車の羽根が軋む音が響いた。

 高原を吹き抜ける風は、さっきまでの戦闘熱を嘘のように冷たかった。


 ラグナの視線は、ヴァルドたちの背後に広がるヴァルブリーゼの街へ向けられていた。

 その瞳には怒りではなく、深い疲労と諦めがにじんでいる。


「争うつもりなんてなかった。俺は……ただ、仲間のために薬草を手に入れたかっただけなんだがな」


 ミリュアは小さく息を吸い、ためらいがちに手を差し出した。

 水色の瞳が揺れる。


「……それでも、ぬしは助かった。生きておる。なら、まだ未来は変えられるかもしれん」


 ラグナはその手を見つめ、しばし動かなかった。


 風が二人の間をすり抜ける。

 やがてラグナはそっと手を重ねた。だがすぐ離す。


「……いつか礼を返す。また会うことがあればな」


 ヴァルドが一歩踏み出そうとすると、ラグナはすでに背を向けていた。

 黒い外套が風にたなびく。


「気をつけて行けよ。高原の風は……人間と魔族の心すら裂くことがある」


 それだけ告げると、ラグナの姿は風の谷の白い霧に溶けるように消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ