第10話 星明かりの下、近づく二人
こうして三人は、夕陽に染まる砂漠を抜け、オアシスの街・ミレアンにたどり着いた。
水辺に広がる街路にはヤシの木が揺れ、夕暮れの光が砂色の建物を柔らかく染めている。通りには香辛料の香りや焼き魚の匂いが漂い、どこか穏やかで人の暮らしを感じさせる街だった。
まずは、街に着いたら恒例の食事。三人は賑やかな食堂へと足を運んだ。
「さて、今日は何をいただこうかのう」
ミリュアは水色の瞳を輝かせ、窓際の席に腰掛けた。
「俺は肉だな。しっかり腹に入れとかないと、明日の討伐はきつくなる」
ヴァルドはメニューを見て迷うことなく骨付き肉の煮込みを注文する。
砂漠に生息する赤砂狼の腿肉を使い、乾燥したハーブと香辛料でじっくり煮込んだ一品だという。噛むたびに肉の旨味が口の中に広がり、舌にピリリと香辛料の刺激が残る。
「わらわは……ふふ、パンケーキにしてみるかのう」
ミリュアは笑みを浮かべ、目の前に運ばれてきたパンケーキの甘い香りに鼻をくすぐられる。
砂漠のオアシスで採れた赤い砂漠苺や小さな椰子の実を練り込んだ生地に、ほんのり甘い蜜がかかっている。
香ばしい香りが漂い、柔らかくふわふわとした生地が口の中でとろける。
ダリスは魚料理を指さして
「本日のおすすめでございますぞ!」
と満面の笑み。
皿に盛られたのは、砂漠沿いの淡水湖で獲れた銀鱗魚を香草と共に焼き上げたもの。砂漠の乾燥地で育つ独特のハーブが風味を引き立て、香ばしい匂いが食欲をそそった。
それぞれが、食事に没頭する。
ヴァルドは骨ごと豪快にかじり、肉の弾力と濃厚な旨味を存分に楽しむ。
ミリュアはパンケーキを口に運ぶたびに小さく声をあげ、赤砂苺の甘酸っぱさと食感に目を輝かせた。
ダリスは魚の頭から尾まできれいに平らげ、香草の香りを鼻で楽しむかのように満足そうに顔をほころばせた。
「ふーー、満腹でございますぞ」
「美味しかったのう」
食後、膨れた腹をさすりながら三人は街をぶらぶら歩き、観光を兼ねて掲示板を確認した。
依頼がいくつも貼られている中、ひときわ目を引くものがあった。
「これは……」
その依頼は、砂漠で行方不明になった旅人たちの捜索を求めるものだった。
近年、街の近くに突如として奇妙な光を放つ岩が現れ、周囲を通った旅人たちが忽然と姿を消しているという。
報酬は高額で、依頼主は「命の保証はできぬ」と明言しているものの、挑戦者を募る意図が明らかだった。
加えて依頼文の末尾には偶然にも聖銀の手がかりが隠されている可能性があることがほのめかされており、冒険者の関心を強く引きつける内容となっていた。
ミリュアは目を輝かせ
「なんて楽しそうな依頼じゃ!」
と呟いた。
ヴァルドは眉を寄せ、苦笑混じりに肩をすくめる。
「楽しそう……か。まぁ、危険が伴うのは間違いないがな」
ダリスはひょろりと体を揺らし、片手を胸に当てて胸を張るようにして誇らしげに言った。
「ふふ、さすがはミリュアさん。冒険心にあふれておられますな!」
ミリュアはにんまりと笑い、手を軽く握って小さく跳ねる。
「ふふ、危険はわらわの楽しみでもあるのじゃ!」
ヴァルドはその様子を見て、呆れたようにくすりと笑った。
掲示板を確認した後、三人は街の中心部にある宿に足を運んだ。
砂漠の街らしく宿の建物は日干し煉瓦で作られていて、屋根にはオアシスで採れたヤシの葉が敷き詰められ夜の月明かりに照らされると静かに銀色の光を反射していた。
入り口の木製の扉は分厚く、鉄の装飾が施されている。扉の隙間からは柔らかなランタンの光が漏れ、夜の砂漠の街に温かみを添えていた。
小さな玄関には石で作られたステップがあり、踏みしめるたびに砂の感触が指先に伝わる。扉の横には掲示板が立っており、宿の客や旅人たちが書き残した手書きの依頼や伝言がぎっしり貼られていた。
三人が扉を押し開けると、木の香りと乾いた砂の匂いが混じった、落ち着いた空気が迎えてくれる。宿の内部は二階建てで、低い梁が天井を支え、ところどころにランタンが吊るされている。木製の階段を上ると、それぞれの客室へ続く廊下が伸びていた。
ヴァルドは肩をすくめながら、いつものように豪快に荷物を置く。
ミリュアは水色の瞳を輝かせ、木の香りをかぎながらふふ、と小さく笑う。
ダリスはひょろりとした身体を揺らしつつ、宿の雰囲気を興味深げに見渡していた。
夜の砂漠の街にぽつんと佇む宿は、三人にとっての短い安息の場となった。
ヴァルドはベッドに腰かけ、ミリュアは窓際で夜空を見上げている。
しばらく沈黙が続いた後、ミリュアが小さく笑いながらヴァルドの方へ寄る。
「ヴァルド……ふふ、夜風が気持ちよいのう」
「……ああ、そうだな」
ヴァルドは少し照れくさそうに視線をそらす。
ミリュアは肩を軽くつつき
「わらわ、隣に座ってもよいかの?」
ヴァルドはしばらく考え、少しの間を置いてから頷いた。
「……構わない」
二人が隣り合わせで座ると、夜空に星が瞬き、砂漠の街の穏やかな空気に包まれた。
しばらくすると、思わず肩が触れ合う。
ヴァルドは軽く咳払いをして視線をそらすが、ミリュアはくすりと笑い、その手をそっと握った。
「ふふ……安心するのう、こうして傍におると」
ヴァルドは目を細め、ほんの少し顔を赤らめながら
「……仕方ないな」
と呟いた。
その夜、二人の距離はわずかに縮まった。
ダリスは隣でやや困惑気味に寝転がりながら、二人のやり取りを眺めていた。
(こ、これは……ラブコメの予感ですぞーー!?)
こうして、砂漠のオアシスの街で静かな夜を過ごした三人は、翌朝に向けて体力を回復しつつ、次なる依頼に胸を躍らせていた。




