第9話 砂に沈む巨大影を断て
灼ける砂漠の風を受けながら歩く道すがら、ダリスが両手を大きく広げた。
「いやぁ、それにしても……わざわざ聖銀を探すとは、ヴァルドさんもミリュアさんもなかなかの変わり者ですな!」
「変わり者とは失礼な。理由があるだけだ」
ヴァルドが眉を寄せる。
ミリュアはくすりと笑い、水色の瞳を細めた。
「まぁ、ダリスの言うとおり、誰もが気軽に求める物ではないのう。聖銀は貴重品じゃからな」
ダリスが首をひねる。
「しっかし、聖銀なんて今どき争奪戦の中心ですぞ。人間国家群と魔族連合、それにアルグレイドの不死軍団……どこも喉から手が出るほどほしがっております」
「争っておる理由は単純じゃな。聖銀は武具にも結界にも使える、戦争の決め手になる素材じゃからの」
「どの勢力も、先に確保したやつが勝つ。そういうことだな」
ダリスは大げさに肩をすくめる。
「まったく恐ろしい時代ですなぁ。砂漠にまで影響が出ておりますぞ」
そんな会話を交わしていると、砂の上を大きな影が横切った。低い唸り声が、熱気を震わせる。
「……今のは、魔物か?」
ヴァルドが足を止める。
「うむ。かなり大きい個体じゃな」
「ああ、あっちの岩場はモンスターがよく出るんですぞ。お気をつけくださいまし」
その瞬間、岩陰から巨大な砂獣が飛び出した。甲殻に覆われた背中、鋭い牙、砂を蹴りあげながら一直線に突進してくる。
「ちっ……来るぞ!」
ヴァルドが身構える。
「面倒じゃのう」
砂を巻き上げて突進する砂獣が、巨大な尾を振りかざす。
その一撃は岩を砕くほどの威力だ。
「下がれ!」
ヴァルドがミリュアの腕を引く。
尾が地面を薙ぎ、砂柱が爆ぜた。
ミリュアの髪が風圧で揺れ、水色だった瞳が興奮で赤く染まる。
「のう、ヴァルド。あやつ、ちと手強いぞ」
「だからどうした」
砂獣がもう一度尾を振りかぶる。しかし、その動作は大きく隙だらけだった。
ヴァルドは地を蹴り、迷いなく獣の懐へ飛び込む。
砂獣が尾を叩きつけるよりも早く、ヴァルドの腕が閃いた。
斬撃が十字に走り、甲殻が裂ける。
砂獣の動きが止まり、重く倒れ込んだ。
舞い散る砂の中で、ミリュアの瞳がゆっくりと水色へ戻る。
「ふむ……わらわの出番はなかったのう」
ダリスはぽつんと立ち尽くし、
「ひぇぇ……こっちが化け物ですぞ……」
と呟いた。
ミリュアが肩をすくめる。
「今のヴァルドにとっては、この程度朝飯前じゃよ」
「……さて、日が暮れる。どこかで休むか」
「そうですなぁ。ちょうど近くに街がありますぞ。ミレアンの街といって、宿も多いですし安全ですぞ」
ダリスがすすめる。
ヴァルドとミリュアは短くうなずいた。
「助かる。案内してくれ」
「うむ、今日のような日は早めに休むに限るのう」
こうして三人は、夕陽に染まる砂漠を抜け、ミレアンの街へと向かった。




