プロローグ
森の奥深く、ヴァルドは足を引きずりながら倒れ込んだ。
戦場から逃げてきたとは思えない静けさが辺りを包む。
血で濡れた鎧が体に重く、息は荒く、視界がかすむ。
「……くそ……ここまでか……」
立ち上がろうとしても、力が入らず、そのまま地面に膝をつく。
木々の間から漏れる月光だけが、かすかに鎧を照らす。
「おや、こんなところに人間がおるとはのう」
耳に不思議な声が響いた。
振り向くと、背の低い少女が立っていた。
淡い光に包まれた可憐な姿。長い銀髪が月明かりにきらめく。
瞳は透き通った水色で、見つめられるだけで息を呑む。
「……誰だ……お前は……」
「わらわはミリュア。森に住む者じゃ。お主、怪我をしておるのう」
口調はおばあちゃんのようで、だがその可憐さとのギャップにヴァルドは少し動揺する。
ゆっくりと歩み寄るミリュア。
「こんなところで倒れておっては、死んでしまうぞ」
「……死んでも構わん……」
ヴァルドは吐き捨てるように言う。
戦士として戦い続け、傷つき続けた男の諦観が漂う。
「ほう……面白いのう。捨て身の勇気を持つ若者じゃ」
ミリュアは首をかしげ、興味深げにヴァルドを観察する。
少し話すうちに、彼の孤独や生き様に惹かれた様子だ。
しかし、ヴァルドの呼吸は次第に乱れ、血の気が引いていく。
目がうつろになり、もう立つこともできない。
「……これは……放っておけぬのう」
ミリュアは決意を固めると、ヴァルドの首筋に唇を寄せた。
小さな痛みと共に、体が熱く走る。
その瞬間、ヴァルドの体に未知の力が流れ込み、目を見開く。
「……な……何が……!」
「わらわの血じゃ。吸え……そして生きるのじゃ」
ヴァルドの中で血が巡り、傷が徐々に癒えていく。
同時に、体の奥に眠っていた力が目覚める感覚。
吸血鬼としての本能が、体を震わせる。
「くっ……な、なんだこの力……!」
ヴァルドの瞳も水色に輝き、理性と本能の境界が揺らぐ。
ミリュアは穏やかに微笑みながら、彼を支える。
「大丈夫じゃ……わらわがおるからのう。もう死ぬことはない」
森の中、月明かりに照らされた二人。
傷だらけの戦士と、何千年も生きた不老の少女。
運命の出会いは、こうして静かに、しかし確実に始まったのだった。
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