結論
グランシュタイン侯爵は、王宮に呼ばれた。
国王によるお召しである。
いよいよかと、ハワードは感じた。
礼服に着替え、彼は一人で向かう。
このような時に、妻は役に立たない。むしろ邪魔になることもある。
その後ろ姿を睨むように見ながら、セシリアも侍女を呼びつけた。
「出かけるわ。準備して」
◇◇
貴賓室へと案内されたハワードは、出迎える王太子と側に立つエメリアの姿に気圧された。
久しぶりに見るエメリアは、煌めく金糸のドレスを纏い、静かに微笑んでいた。
「急な呼び出しに応じていただき、感謝する」
「なぜ……」
思わず呟くハワードの声は、国王の入室により消える。
――なぜ、エメリアなのだ……。
臣下の礼を執る三人を、国王は座らせた。
「既に聞き及んでいるかとは思うが、この度、侯爵家令嬢のエメリア・グランシュタインを、王太子アルノルトの妃として、迎えたいと思っている」
ハワードは頭を下げる。
「はっ。王命につき、謹んでお受けいたします」
「いや、違うのだ、侯爵」
アルノルトが身を乗り出す。
「この婚姻は陛下による王命ではない。私が是非にと強く訴えたのだ」
アルノルトの隣で、エメリアは頬を染めている。
乾いて動かない舌を動かし、ハワードは口を開く。
「一点、お伺いしたいことが、ございます」
「何なりと。妃の実父殿になる御方だ」
国王は鷹揚に言う。
「なぜ、王太子殿下は、エメリアを選ばれたのですか」
絞り出すようなハワードの声に、アルノルトは笑みを見せる。
既に王の貫禄が備わっている笑顔である。
「感情に支配されず、理性的でありながらも、孤児や平民らを常に思いやる心を持っている。陛下や私が
驚くような、高い実務能力をもつ女性だ。私の妃となり、共に国を作っていくのは、エメリア嬢を置いて他にない」
エメリアの心に、真っすぐに語るアルノルトの言葉が沁みわたっていく。
エメリアの手を、アルノルトはそっと握った。
「ははは。私とエメリア嬢の御父上の前で、惚気るのはそれくらいにしておけ」
国王はカラカラと笑い、退席した。すぐに宰相が書類を携えてやって来た。
「では、婚約のお手続きを……」
「お待ちください!」
突如、貴賓室のドアが割れる。
上品とは言えない靴音とともに、入ってくる女性の声が響いた。
真紅のドレスが翻る。
見間違えようのない姿。
セシリアだった。
「そのような女が、王妃に相応しいとお思いですか!?」
セシリアの瞳は、憤怒にかられている色に染まっていた。
「セ、セシリア、お前……」
ハワードが宥めるように声をかけても、セシリアの言葉は止まらない。
「エメリアは、我が侯爵家では捨てられた女です! 王妃の器ではありません! 私の、私の方が絶対、美貌も教養も――」
「黙れ、セシリア嬢」
アルノルトの声が室内の空気を切った。
ハワードは固まったまま、動かず声も出せない。
「美貌だけを鼻にかけ、実の妹から婚約者を奪い、それを恥とも思わぬ君が、王妃にふさわしいと?」
「っ……」
「侯爵。まさか貴殿が連れて来たのか?」
氷点下のようなアルノルトの視線に、ハワードは首を何度も横に振る。
「ではすぐに、セシリア嬢を連れ今すぐ帰れ。我が妃となるエメリアに、これ以上、毒を吐きかけることは許さん」
ハワードはセシリアの腕を引く。
赤子のように父の手から逃れようとしたセシリアに、アルノルトは告げた。
「君の振る舞いが貴族社会にどう映っているのか、少しは考えるべきだ」
ハワードは引き摺るように、セシリアを連れて去った。
――お姉さま……。
明るく美しく、皆の憧れだった姉、セシリア。
それが虚飾の存在であったことに、エメリアの胸は痛みを覚えた。
「さてエメリア」
「はい」
「次の王宮での夜会で、堂々と君を紹介させて欲しい。私の妃になる女性だと」
「喜んで」
Q:こんなアホっぽい姉って、いるんですかねぇ
A:えへへ。これも体験談だったりしてね(謎
あと1話(か、2話)で、完結します。
最後までお付き合いしてくださいますよう、お願い申し上げます~~




