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喜劇  作者: 新原氷澄


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17/22

漫才台本(青崎雲雀、中村不撓)

「喜劇2」で登場する漫才師「中村不撓」と青崎の即席コンビによる漫才の台本です。

彼らの個性と意地のぶつかり合いで物語が進んでいく予定の内容を、少し先出ししてみました。

「モテる方法を教えてくれ」(青崎雲雀、中村不撓)



-拍手の音で漫才が始まる-


中村「……な訳でね、この前インスタでDMくれた子と会ってきたんですけど」


(中村、いきなり予定していた漫才のくだりをショートカット)


青崎「いきなり何を言うてんねん」


(本当にちょっとびっくりしてる青崎)


中村「DMでくれてた写真と、現実のギャップに驚いたっていう話を」


青崎「あかんねん、オフで女の子と会った話したら。分かれそれぐらい」


(ものすごく引き付けてから、にやりと笑う中村)


中村「僕別に女の子と会ったとは言ってませんけど?」


青崎「やかましいな。舞台で叙述トリックやめてくれへん? してやったりの顔やめろ!」


中村「モテたいなっていう話をしてるんですよ」


青崎「モテたい?」


中村「モテたいですね。無秩序にモテまくりたい」


青崎「……打ち合わせと全然違うこと言うのんなんなん?」


中村「あ!ごめんごめん。今日のお客さん見たら、勝手に口から出てた。今日のお客さん皆めっちゃ可愛いから~!」


(会場の空気を持っていく中村、ぐっと詰まる青崎)


中村「言っとくけど、僕の言う可愛いは、神羅万象すべてに当てはまるからね。そこでアンパンくわえてるおじにも、僕は可愛さを感じてる。きゃわ~」


(アンパンを食べてた客がきょとん。笑いが起きる会場)


青崎「開口一番なにを言うとんねん。漫才さしてくれよ」


中村「でも、お客さんも青崎くんのモテの話聞きたいよな~?」


(聞きたい!と会場の空気が前のめりになる)


中村「ほらー。皆青崎くんに興味津々なんですよ。ね、聞かせてよ。どう、最近」


青崎「最近もなにも、モテの話なんかないわ」


中村「いやいや、我こそはモテ散らかしみたいな顔してるじゃないですか。ほらもう、面が良いとこうですよ。ずるいなぁ、立てば国宝座ればキングダム、歩く姿はババンババンバンバンパイア」


(会場に笑いが零れる)


青崎「俺別に吉沢亮さんじゃないねん。なんやねんお前。別にモテ散らかしてへんわ」


中村「本当に? 裏口で出待ちしてる女の子食い散らかしてませんか?」


青崎「失礼なことを言うな! 食い散らかしてるわけないやろ。お前と一緒にすんな」


中村「そうなんですか? 芸人として人に好かれる術を知るっていうのは、めっちゃ大事だと思うんですけどね」


青崎「えらい自分に都合のいいように言いよんな。ほなお前はモテるんかい」


中村「当たり前やん!」


(関西弁でちょける中村、イラっとする青崎、大げさなリアクションに笑いが起こる会場)


中村「僕はモテるよ。僕はそもそも、太ってる、美声、顔大きい、実家が太いとモテない属性に比重が寄った人間ですけどね。モテの努力をめちゃくちゃしてるから」


青崎「途中ちょいちょい挟まる自己アピールがうるさいな」


中村「僕は真面目にモテる努力をしてるんです。それを聞いていただきたい」


青崎「聞いて? 打ち合わせで今日は俺がボケるって話やったやんな」


中村「だって僕がボケる方がウケてるもん!」


青崎「お前が全然ボケさしてくれへんからやろ!」


中村「だってボケのほうがモテるじゃないですか! いいじゃない、あなたイケメンなんだから! 譲ってよ!!」


(勢いで半泣きになって訴えてくる中村にちょっと引く青崎)


青崎「そこまでして誰にモテたいねん?」


中村「それはもう無尽蔵にモテたい! けど、そのへんの地下アイドルとかちょっと有名なキャバ嬢と二、三人付き合ってからグラビア経験のある女優さんと結婚したい!」


青崎「清々しいほどゲスいなぁ。芸人より金持ちのIT企業の社長になった方がその夢ははよ叶いそうやけど」


中村「お笑い芸人が高嶺の花の女優さんを口説き落とすのがカタルシスなんじゃい!」


青崎「こいつさっきからちょいちょい関西弁なんが腹立つわ。なんでこんな奴がモテるねん」


中村「思うに僕は可愛いとムカつくの間くらいを上手にすり抜けるタイプなんですよね。可愛さは大事だと思います」


(中村のチャーミングな仕草に会場から「きゃわ~」と声が上がる)


中村「青崎くんはその辺無頓着すぎるよね。もっとモテの世界を学ぼう。モテなんかなんぼあってもええですからね」


青崎「……ほな聞かせてくれや。お前の言うモテる努力っていうのを」


中村「たとえばね、……あ、おばあさん。どうぞ、ここの席、お座りください」


青崎「あー、おばあさんにも優しくしてるってこと? 老若男女に親切と」


中村「ううん、これぞというおばあさんに優しくしてる」


青崎「えり好みすんな! 皆に優しくしてるところ見せるもんやろ、そういうのは」


中村「あなたのシルバーの髪……すごく素敵です。僕もシルバーグレーに染めようかな」


青崎「ただただストライクゾーン広めの男やないか!」


中村「他にも僕はモテを極めるために、日ごろから色んなシチュエーションを考えてるわけ」


青崎「へえ……」


中村「この間は新宿歌舞伎町でモテる方法考えてた」


青崎「あんなとこでモテる方法ある? めちゃくちゃホストとかおるやん。それこそ顔のいい男がぞろぞろおるやろ?」


中村「女連れの男たちをよーーーく見てみて。大概は大したことない」


青崎「お前ホストに刺されるぞ」


中村「お姉さん……床に蹲ってどうしたんですか? え? あそこの店のホストに振られた……それは辛かったね」


青崎「あぁ、振られた直後の人に優しくしてあげるんや」


中村「そんなところ座ってたら、せっかくの綺麗な服が汚れちゃうよ。うん? 僕、芸人やってる中村って言います。ちょっと話聞こうか?」


青崎「こういうのは確かに良いかもな。声かけられた方もほっとするやろし」


中村「こういう時、青崎くんやったらなんて言う?」


青崎「俺?」


中村「(女の子を演じながら座り込む)疲れた~~立てなぁい。お家帰りたくない。ちなみに朝の四時です」


青崎「朝早すぎるやろ」


中村「実話ベースでお送りしておりますので」


青崎「(若干引きながら)ホストに振られたんやんな、この人……でも朝の四時は危ないやろ。警察か救急車呼びましょか?」


(中村、可愛くいやいやをする仕草)


中村「やだー、お兄さん一緒にいてほしい……」


青崎「一番苦手なタイプや……」


中村「お兄さんもエナドリのストハイ割ストローで飲もう?」


青崎「飲まへん……家帰ってはよ寝たら?」


中村「ちょっと青崎くん~! しっかりしてください。非モテが露呈してますよ」


青崎「モテたいって言うてないんよ」


中村「今から僕の言う通りやってみて。そうしたらそこでモテが発生するから」


青崎「ほんまに?」


中村「振られてしもたんや?……辛かったねぇ。ううん、俺は大丈夫。君が笑顔になるまで、もっと話聞かせて。はい!」


(中村、近距離で青崎に顔を近づける)


青崎「振られてしもたんや……辛かったな。ううん、俺は大丈夫。……もっと話聞かして」


中村「きゃ~!」


(釣られて「きゃ~!」とわく会場)


青崎「これほんまに正解か?」


中村「正解ですって。きゃーが発生してるでしょうが。君の面で僕の甘い言葉が出たらもう最強よ!」


青崎「う~ん、モヤつくわ……」


中村「ごめんね、いつもみたいに優しく持ち上げてくれる相方じゃなくて。それでは続き行きますよ」


(ザクっと言葉で刺される青崎。軽く流されるも、一瞬顔に不快感が出てしまう)


青崎「……」


中村「あ! ちょっと気分落ち着くまで僕の店に来ない?」


青崎「僕の店???」


中村「ちょっと~変な店とかじゃないから。普通の飲み屋ですから。ビルの二階で、上の方はちょっとごついお兄さんが出入りしてるけど」


青崎「あかんあかんあかん。今ごついお兄さんのおるお店はあかん」


中村「うちの店は健全です! 昼間はシーシャ専門店だし、店の中ではみんな服着てるから」


青崎「店の中でも外でも服は着といて……っていうかうちの店ってなんなん」


中村「モテたいがためにバーのオーナーやってるんですけど?」


青崎「モテたいがためにバーのオーナーやってんの!? 新宿歌舞伎町で!?」


中村「正しい努力をしてると思うけど? 僕は」


青崎「モテに正しさを振りすぎやろ!」


中村「モテるために芸人になったんです僕は!」


青崎「ついに言い切りよったこの人」


中村「モテ!未来!アビュリフォースター! モテ!未来!アビュリフォースター!」


青崎「お前みたいなやつがデンジに感情移入でけんやろ。マキマさんに制裁されてくれ」


中村「どう、こんな僕のこと好きになってきたでしょ?」


青崎「なるわけないやろ。……ありがとうございました」


(中村が両手を振ってニコニコしながら退場。深くお辞儀をした後、一度も中村を振り返らずに苦い顔で反対方向に去っていく青崎)

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