スキルって、本当に人生を簡単に変えれるんだね
『じゃあ、早速、ユーリアの家に行こう!!』
聖獣様の天の一声で、続きは私の家で話し合う事になった。
ここから先は、教会でしていた話よりも、より具体的な話になるそうだ。神官様が言ってた。なので、両親揃って直接話をする必要があるんだって。当然だよね。子供を一人、親戚もいない王都に出すんだから。
それとは別に、聖獣様が結界を張ってくれるしね。これで、両親の人の良さに付け込む悪い人は近付けなくなるよ。無駄な出費がなくなる分、生活が楽になるといいな。
ややこしくなるから、結界の件は今は横に置いといて、なかなか帰って来ない私たちを、お母さんはとても心配してると思うの。大事な時期のお母さんに、これ以上心労を掛けたくない。早く帰って、顔を見せて安心させてあげないとね。
まず、この話し合いで決める事は、いつ王都に向けて出発するかだよね。学園との兼ね合いもあるし、王都までの移動時間も考えなくちゃいけない。あとは……どんな事を勉強し、どんな場所で生活するのかかな。たぶん、寮だと思うけど。それから、必要な物の書き出しかな。話し合う事も決める事も沢山あるけど、同時に準備もしないといけないから大変になると思う。
(忙しくなるね)
聖獣様を抱っこしながら、そんな事を考えていた。
すると、ふと、視線を感じた。
村人たちが、道を歩く私たちを、少し離れた場所から見ている事に気付いた。ヒソヒソと顔を寄せ話をしている。
視線を向けるとヒソヒソ話は止んだ。ジッと見ると、視線を逸らされた。別に悪い事なんてしていないのに、そんな態度を取られてかなりムカついたけど、文句は言わない。言っても仕方ない事だからね。
ここでは、普通が一番なの。
そして、正しいの。
それが良い事でも、外れるのを嫌う。つまり、今の私は完全に外れた存在なんだよ。おかしな話だと思うよ。でもそうやって、村が護られて来たのも事実だからね。村の発展を犠牲にしてね。
変革は悪。
良く言えばフレンドリー、悪く言えば閉鎖的。でも嫌いじゃないし、嫌いになれない。
(……家族のために、早く村を出て行った方がいいかも)
そんな事を考えていると、下から視線を感じた。聖獣様が心配そうに私を見ている。
(私の心の声聞こえた? 心配してくれてありがとう、聖獣様。私は大丈夫)
声には出さずに礼を言う。この距離だと、皆に聞こえるからね。特に、お父さんには聞かれたくなかったの。
歩きながら、チラッと隣を歩くお父さんに視線を向ける。お父さんの表情はずっと固いまま。それが普通の反応だよね。特に、私の両親は過保護だから。
それにしても、聖女だよ聖女。
(こんなど田舎でね〜ほんと、怒濤の展開ってこういうことなんだね)
正直、ついていけてない。王都に行くって決めた私でも、まだ夢を見ているみたいな感じが抜けないもの。
そんな私の腕の中で、鼻歌が聞こえてきた。聖獣様だ。ちょっと音痴かな。でもそれがいい。
「楽しそうだね、聖獣様」
(何が、そんなに楽しいのかな?)
何もないど田舎なのに。ましてや、村人の視線とか気になるでしょ。
『楽しいよ。ユーリアが生まれ育った村なんだから』
つくづく、聖獣様って不思議な存在だと思う。
いとも簡単に、モヤモヤしていた気持ちを晴らしてくれた。会って間もないのに、すっと昔から一緒にいるような安心感さえある。それが、不思議と嫌じゃないんだよね。自然と受け入れているの、この私がよ。その事に驚きだわ。
だからかな、心から思うの。聖獣様に見付けてもらって、私は幸せなんだってね。
「ありがとう、聖獣様。そう言ってくれると嬉しい」
ギュッと子犬程の小さな身体を抱き締める。聖獣様は嬉しそうに笑った。私も一緒に笑う。
『ユーリアは笑顔が一番可愛いんだから、いつも笑っていてね』
聖獣様の細やかな願い。
「うん、約束するよ。聖獣様も私の隣で笑っていて欲しいな。あのね……私もいつか、聖獣様が生まれた場所を見てみたい」
私にとって、聖獣様はとても大事な存在だから。
『いいよ。いつか、連れて行ってあげる』
「いつかって、いつ?」
『ユーリアが立派な聖女になったらだよ。今は、ユーリアが壊れちゃうから我慢して』
(壊れる? 何が?)
聖獣様がそう言うんだから、そうなんだね。
「分かった。私、学園で頑張るね。そして、立派な聖女になるの。目標は、聖獣様の故郷に行く事」
(そして、お金を沢山稼ぐ!!)
さすがに、これは口には出せないよね。聖女のイメージ完全に潰すから。
お父さんは複雑な表情を隠せないでいる。反対に、神官様はとても嬉しそう。二人とも近くにいるんだから、聖獣様と私の会話まる聞こえだよね。
数時間前までは、なんでもいい、職人になるのが夢だった。手に職を付けて、家族を支えなきゃって考えていた。それが今は、全く違う道に進もうとしている。
【スキル】って、本当に人生を簡単に変えるんだね。
辛い事や嫌な事が、これから先沢山あると思うの。その度に、全てを投げ出してしまいそうになるかもしれない。
でも、後悔だけは絶対にしない。
だって、私が決めた道なのだから――