大切なものを護るために
晩御飯はフルーツ食べ放題かなって思っていたけど、通された部屋のテーブルに、二人分のスープとパンが置かれていた。出来立てほやほやで、湯気が立っている。
すっごい良い匂い。匂いにつられて、私とセシリアのお腹がなった。
「エレーナ王女殿下が用意してくれたんだね」
セシリアが嬉しそうに言った。
私も始めはそう思っていたけど、パンを一口食べて気付いたよ。とっても柔らかくて、ふかふかなの。感動ものだよ。
(これ……マイカさんの。どっちのマイカさんだろ? 分からないけど、美味しい。ありがとう、マイカさん)
内緒にしているから、心の中でマイカさんにお礼を言う。
「そうだね、よかったよ」
(セシリアもパンの柔らかさに感動してるよ。良かったね、マイカさん)
そう心の中で呟いたら、足下の影が僅かに揺れたのは、気のせいじゃないと思う。
翌朝。
王太子殿下と一緒に、照れくさそうな顔をした王女殿下がエントランスに現れた。
あれから、ずっと夜通し家族と話していたんだって。王太子殿下と一緒に並んでいるのを見て、距離がほんの少しでも縮まって良かったと、心から思った。
学園に戻って来て、王太子殿下が寮に戻る後ろ姿を見ながら、王女殿下がぽつりと呟いた。
「…………謝罪は受けとったけど、全てを無しには出来ないの。私、薄情なのかしら……」
それは、王女殿下の嘘偽りのない言葉だと思う。
誤解されていた時間はとても長い。それに、一番家族が必要だった時期。その長さが、家族との間に透明な壁を作っていた。当然だよ。
透明だから、鏡のように錯覚して、相手側からは距離が正確に掴めていない。近付けたと思っている程、実は近付けていないの。おそらく、陛下達はその事に気付いていないのかもしれない。
(失敗しなければいいけど……)
「……無しにする必要はないと思います。謝罪して終わりなんて、虫がよすぎます」
私がそう答えると、王女殿下の顔がくしゃと歪んだ。
「ユーリアって不思議よね。いつも、私が一番欲しい言葉をくれるわ。ほんとに、七歳?」
「七歳です」
いつもの返し。
それを聞いて、王女殿下が声を出して笑う。私とセシリアも笑った。
(先代様、シア様、エレーナ王女殿下は今日も笑ってますよ)
その週の連休初日の早朝。
ジュリアス様とライド様が迎えに来た。
今回はズルをしてこっそりと抜け出したりはしなかったよ。っていうか、出来なかった。
「大神殿までお供します」
ばっちりと目を覚ましたセシリアが、用意万端で待ち構えていたからね。
「……いや、それは大丈夫」
有無を言わさない圧で詰め寄って来たから、セシリアの目を見て答えられなかった。言葉遣いも敬語になってるし。
(連れてはいけない。だって、もし、黒竜王様と赤竜王様を見られたらアウトでしょ)
「お供します」
セシリアは同じ台詞を繰り返す。
「大丈夫だから!!」
押し問答をしていたら、ジュリアス様が助けてくれた。
「セシリア、私達だけでは信用ならないか?」
さすがのセシリアも、ジュリアス様にそう言われたら、返答出来ずに黙り込んだ。そして、超渋々なのを隠そうとせず一歩後ろに下がる。
「では、行きましょうか、ユーリア様」
ジュリアス様に促され、馬車に乗り込もうとしていた足を途中で止める。
「……セシリア、許可が下りたらちゃんと話すから。大丈夫、役目を終えたら、セシリアの所に戻って来るから待ってて」
それしか言えなかった。そんな台詞を、セシリアは望んでいないと知っていたのに。
「……はい、畏まりました」
最後まで、敬語だった。
一応、主である私にそう言われたら、受け入れるしかない。セシリアは軽く頭を垂れる。その姿に寂しさを感じながら、私は馬車に乗り込んだ。
馬車は静かに出発する。
段々、セシリアの姿が小さくなっていった。
ジュリアス様もライド様も、そしてハクアも、黙り込んでしまった私を気遣い、そっとしておいてくれた。
(内緒にするのは、セシリアのため)
その身の安全のために、秘密を知る者を極力少なくした。その判断は正しいと思う。私も納得した。結果として、私はセシリアの心と矜持を傷付けている。どっちも護る方法が見付からなくて、大事な方を選んだ。
(そのうち、セシリアの心は離れて行くかもね。そしたら、解放してあげた方がいいのかも……)
すっごく嫌だけど。本当は離したくないけど、セシリアからそうお願いされたら、その手を離さないといけないよね。出来るかな……私。
そんな事を考えていると、馬車は大神殿に到着した。その足で、教皇様の元に向かう。全員揃った所で、黒竜王様と赤竜王様が姿を現す。
「揃ったな。では、参ろうか、水底庭園に」
黒竜王様がそう告げると同時に、私達の周囲が光出す。光が消えると、私達は見知らぬ浜辺に立っていた。
同行人数は前と一緒だけど、予定外の人が混じっていたの。
(あ〜ジュリアス様の怒る顔が目に浮かぶよ)
沢山ある作品の中から選んで頂きありがとうございます。
第二部開始しました。
引き続き、ユーリアの冒険と成長を、一緒に楽しんで頂けたら嬉しいです。




