私が唯一出来る意趣返し
「……結局、晩御飯食べ損なったままだったね」
白銀の大狼さんからの帰り道、途中まで案内してくれた先代姫聖女様と別れた私は、小さな声でボヤく。
「さすがに、お腹空いたよね。部屋に戻ったら、テーブルに置かれた果物を一緒に食べようか」
「えっ!? あれ、食べてよかったの!?」
(てっきり、高価な絵とか壺のような観賞用だって思ってたよ。綺麗に飾られてるから)
「それ、わかる。私も最初はそう思った」
その時の事を思い出したのか、セシリアは笑いながら言った。
「セシリアも?」
貴族様の屋敷は大なり小なり、飾っていると思っていたよ。セシリアは笑いながら、ないないと右手を左右に振った。
「私の家は男爵家だよ。資産がある男爵家もあるけど、家は違うからね。そもそも、果物を飾ったりはしない」
足が早いのにと、セシリアは笑う。
「そうなんだ。私がいた村にも商人の家があったんだけど、飾ってなかったよ」
「普通、そんな余裕なんてないからね。果物は食べ物だよ」
(貴族っていっても、一概に違うんだね。そりゃあそうか)
でも、セシリアの実家は、他の貴族様から一目置かれている。それってやっぱり、教皇様の縁者だからだよね。
「そうだよね」
私の家では、果物自体が贅沢品だった。月に一回、食べれたら幸せだったよ。木の実は食べ放題だったけどね。ほんと、貧乏だった。今は、少しはマシになってると思う。毎月、仕送りをしているからね。抜かれないよう、対策済みだし。
「……学園にいると、錯覚しそうにならない?」
不意に、セシリアが尋ねて来た。
「なるなる。高位の貴族様が在籍しているから、贅沢品で溢れてるよね。お菓子もそうだし、果物もそう。普通に、グレアの実のジュースが販売されてるのには驚いたよ。……たまに、怖くなる。学園の生活に慣れてしまったら、以前の生活には戻れなさそうで」
(今でも、少し怖い)
日常的にお菓子を食べているけど、村では超贅沢品だった。甘味自体が贅沢だったの。勿論蜂蜜もね。
「……ユーリアは村に戻るつもりなの?」
わざと明るく答えていたら、セシリアが真顔でそんな事を訊いてきた。良い機会だと思ったのね。一瞬、言葉に詰まったよ。ハクアも私の答えを待っている。
「そうだね……村には戻れない」
学園を卒業したら、私は正式に姫聖女として大神殿から告示される。
あくまで学園は、聖女の勉強をするためで、聖女になるために通っているわけじゃない。謂わば、心づもりをするための時間だと、今は思ってる。
「卒業したら、遊びに行くのも難しくなるよ」
「……分かってる」
偶に、セシリアは、私に現実を忘れないように釘を刺す。
それが、セシリアの役目だからね。私をフォローするために学園に来たんだから。ちょっと寂しいけど、それは仕方ない事だと割り切ってる。そもそも、私を思っての助言なんだから、嫌な気持ちを抱いたり、腹が立ったりはしない。
さっきまでは、学園は聖女の勉強のため、心づもりのためだって思っていたけど、それだけじゃないよね。
田舎娘であるユーリアから、姫聖女、そして竜の愛子でもあるユーリアへと変わる期間でもあるの。外見も内面も、全てね。
でもね……どんなに取り繕っても、私は田舎娘。絶対ボロが出るし、陰口も叩かれる。平民が聖女になる事自体、ほぼないのが現実だから。風当たりは絶対強いよね。
だからといって、私は忘れたくないの。
だって、今の私の基礎は、小さな小さな田舎の村で形成されたものだから――
未来を楽に歩みたいからといって、村の事を切り捨てたら、私が私でなくなる気がするの。
だから、出来ない。っていうか、したくない。
『ほんと、ユーリアの魂って綺麗だ。捨て去る必要はないよ。そのままのユーリアが、格好良くて可愛いんだから』
ハクアの言葉が、私の漠然とした不安を取り去ってくれる。さすが、私のハクアだよ。あっでも、魂の話は忘れてないからね。
「私も、今のユーリアが大好きだよ」
「ありがとう、ハクア、セシリア」
ハクアとセシリアの気持ちが嬉しくて、私は笑顔になる。
私は田舎娘だけど、そんな自分を嫌だとも恥とも思わない。
確かに学園内では、まだまだ私の存在を認められない人達が多いよ。実際、ちょっとした意地悪もされてるし、陰口も叩かれている。
でもね、私は自分を否定したくないの。だって否定したら、両親も、まだ見ていない弟か妹も否定する事になるからね。それに、こんな私を大好きと言ってくれる親友もいる。
だから、私は自分を偽らずに生きて行く。
険しい道だと思う。辛い事もいっぱいあると思う。それに腹を立てながらも、この瞬間を精一杯楽しもうと決めたの。
それが、私が唯一出来る意趣返しかな。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
重ねて、数多くある作品から選んで頂きありがとうございます。
ここで、第一部〈完〉となります。
まだまだ、ユーリアの冒険は続きますので、一緒に楽しんで頂けたら嬉しいです。




