先代様達の願い
馬鹿みたいに同じ台詞を繰り返す私に、白銀の大狼さんは困ったような顔をして近付いて来た。ハクアを配慮して、一定の距離を置いて座る。
ハクアは白銀の大狼さんに向かって威嚇していた。いつもは子犬くらいの大きさなのに、この時は白銀の大狼さん程の大きさに姿を変えている。
『近付くな!!』
鋭い声がハクアから発せられた。
ハクアがその気になったら、簡単に白銀の大狼さんは消される――
その考えが頭を過った途端、私の身体は動いていた。白銀の大狼さんを背中に庇い、両腕を広げ、ハクアの前に立ち塞がった。
「駄目!!」
『……ユーリア』
白銀の大狼さんを庇い、ハクアに楯突いた事が信じられないのか、呆然としなから私の名前を呼ぶ。
「消したら駄目!!」
ハクアが消さなくても、いずれ白銀の大狼さんは消えて行く。残留思念なんて霞みたいなもの。気付かないうちに、スーと消える儚いものだよ。
『シアのために泣いてくれるのか……シアが一番欲しかった言葉を、同じ姫聖女がくれるのか…………』
白銀の大狼さんは小さな声でそう呟くと、私の頬をペロリと舐めた。実体を持たない幻なのに、温かく感じたのは不思議だったけど、全然嫌じゃなかった。怖くもなかった。私は白銀の大狼さんの太い首に両腕を回すと抱き締める。
「ありがとう……そして、酷い事をしてごめんなさい」
『……もう、謝らなくていい。俺こそ、怖がらせて済まない』
落ち込んだ声に、私は身体を離すと首を小さく横に振る。
「先代様は怖くはありません。怖かったら、抱き付いてはいません」
『そうだな』
白銀の大狼さんは笑いながら言った。
この時、完全にハクアの事忘れていたの。それは当然、ハクアにも伝わっていて……襟首を咥えられたと思ったら、グイッと後ろに引っ張られ宙に浮いた。そのまま、ハクアの身体にダイブ。
『ユーリアは、いつからこの亡霊のものになったの?』
感情が全く感じられないくらい淡々とした声に、ハクアが静かにキレていると、鈍感な私でも気付いた。セシリアはいつの間にか距離を取っている。
ここは当たり障りのない事を言って、ご機嫌を取るのが正解なのかもしれない。でも、私がそれをしたら、完全にハクアは臍を曲げて、私達の間に距離が出来てしまう。それだけは、どうしても嫌だった。
「変な事を言うわね。私はハクアの姫聖女なのに」
『だったら、浮気はするな』
(不機嫌丸出しだわ)
「私が先代様と仲良くしたら浮気なの? だったら、他のモフモフ触れないじゃない」
『触らなくていい!! 僕だけを触ってればいいんだ!!』
(そんな横暴な!!)
「気が済むまで触らせてくれないのに? 腹吸いもさせてくれないのに?」
これを機に、不満をぶちまけてやる。悩んでる、悩んでる。
『う〜〜分かった。腹吸い、させてあげる』
(究極の二択だった感が出てるよ……)
でも、はっきりと許可してくれた。
「本当に?」
私にとって大事な事だから、再度確認を取るよ。
『僕に二言はない』
(やった〜〜腹吸いゲット!!)
なかなか、させてくれなかったからね。まだ、二回しかさせてもらってないの。ほんの数分の我慢なのにね。
そんなやり取りをハクアとしていると、白銀の大狼さんと女性が寄り添い笑っていた。
『今回の姫聖女は、特に変わっているな。……だが、良い姫聖女だ。聖獣とも気持ちを通わせ合っている。皆が惹かれるのも頷けるな』
軽くディスられた気がするけど、ハクアと仲良しだと言われて素直に嬉しい。
「ハクアの事が大好きだから、当たり前です」
『僕も、ユーリアの事が大好きだよ!!』
お互いを大好きだって言い合う私達を、白銀の大狼さんと女性はにこやかな笑顔で見ていた。でもその笑顔を見て、私は泣いているように見えたの。何も声を掛けれなかった。
白銀の大狼さんは私とハクアの前に座り直すと、改めて私を見詰めた。
その瞬間、空気が変わった気がした。
セシリアもハクアも白銀の大狼さんに、厳しい視線を向けている。そんな中で、白銀の大狼さんは静かに口を開いた。
『……余談が長くなったな。俺がユーリアを呼び出した理由は、エレーナを護って欲しいからだ。シアと同じ道を歩ませたくはない』
白銀の大狼さんの真剣な眼差しと声に、私は口元が緩んだ。
『何がおかしい?』
私の笑みが癇に障ったようだ。訝しげに問う白銀の大狼さんに、私は笑顔のまま答えた。
「あまりにも、真剣な表情で言われるから、思わず構えてしまいました。先代様、私はエレーナ王女殿下を仲間だと思っています。なので、護るのは当然です。先代様に言われなくても、護ります。決して、一人で寂しく最後を迎えるような目には合わせません」
『その言葉に嘘はないな』
白銀の大狼さんの低く威圧を含んだ声に、私は頷く。
「心配ならば、ずっと見ていたらいいのでは。私も暇があれば、ここに来る予定ですし」
王女殿下は彼らの姿を見ることは出来ない。セシリアが見えてるのは、ハクアの影響下だから。
『そうか……』
その声は、とても優しくて温かかった。
(王女殿下が小さい頃から見守り続けたのね。慰める事も出来ない自分達に腹が立ちながら。でも、それはもうおしまい)
「先代様、お約束します。これからは、エレーナ王女殿下の笑う顔が沢山みれますよ」
誰に頼まれなくても、私は王女殿下の味方でいるって決めたの。そう約束したから、エレーナ王女殿下にも白銀の大狼さん達にも。
私はその約束を護り続けるわ。絶対に――




