抜け殻の亡霊
「「……エレーナ王女殿下」」
私とセシリアは友人の名前を口にする。
(似てるって言っても、少し違うかな……知っている人が、そのまま大人になった感じ)
親子や姉妹でも、これほど似ることはないと思えるほどによく似ていた。だから、顔を隠していたのだと理解する。
『違うよ、あれはエレーナじゃない』
ハクアの台詞に、私とセシリアは困惑しながらも頷く。
(そうだよね、そんな事あり得ないよね)
「じゃあ、誰なの?」
私はハクアに尋ねた。
『抜け殻の亡霊』
(なんとも不穏な言葉ね)
「抜け殻の亡霊って何?」
重ねて、私はハクアに尋ねた。
さっきから、不穏な言葉ばかり、ポンポンと出てくるから不安だけど、それよりも、目の前にいる、王女殿下にそっくりな女性の正体が気になって仕方なかった。
『言葉通りだよ』
(いやいや、答えになってないし)
「ハクア、危険じゃないよね? そもそも、何の亡霊の抜け殻なの?」
問題はそこだよね。
それに、そこまで単純で馬鹿じゃないのだから、少しでも危険なら足を踏み入れるつもりはないよ。いくら興味があってもね。
『ユーリアが知らなくてもいい事だよ。特に危険じゃないけど、面倒くさい。とてもね……』
(ハクアがそこまで渋るって……相当、面倒くさいんだね)
これは勘だけど、ハクアに関係している事なのかもしれない。そんな事を考えている間も、女性は私に頭を下げ続けている。
(王女殿下と同じ顔で頼み続けられると、断りづらいよ……)
「……ハクア?」
行ってもいいかな? その言葉は敢えて言わずに尋ねた。危険な場所じゃなさそうだし、いざとなったら、心強い最強の仲間が影の中にいる。
『もう、仕方ないな〜』
「ユーリアって、基本お人好しだから」
ハクアとセシリアは呆れた顔をしながらも、私の我儘を聞いてくれた。
「ありがとう」
私は微笑みながら、ハクアとセシリアにお礼を言った。
「ありがとうございます、ユーリア様」
女性は再度深々と頭を下げてから、ローブを被り直した。
(まぁ、そうだよね。誰かに見られたら大変だよね。変な噂が立ちそうだもの。見えていればだけどね)
今まで、人族じゃない者に会う回数が多かったからなのかな、私達の数歩先を歩くこの女性が、人ではないように思えたの。
(ハクアが亡霊って言ってたし……本当に亡霊かもね)
だとしても、王女殿下に似ているせいか、不思議と怖くはないの。どっちにせよ、答えはこの先にありそうよね。
無言のまま五分程歩く。到着したのは、こじんまりとした建物の前だった。
平屋だけど、小屋にしては頑丈でしっかりとした造りだ。木の扉の上には、細工が施されていて、外に置かれている木製のテーブルも椅子も、明らかに平民が使う物ではなかった。
(そもそも、建ってる場所も場所だし、王族縁の人が住んでいるのかな?)
その人が主かもしれない。そのわりには、人の気配は一切しないけど。
女性は軽くノックをしてから、私に視線を合わせ言った。
「どうぞ、ユーリア様、主がお待ちです」
女性は私しか見ていない。一度、セシリアの言葉に反応はしたけど、それ以外は眼中に入っていないみたいだった。ハクアでさえも同じ反応だった。
だから、私は予防線を張ることにしたの。
だって、切り離される可能性もあるからね。相手が人ならざる者なら特に。
「三人一緒なら入るわ。それでもいい?」
危険はないとハクアは言っていたけど、やっぱり緊張するわ。震えはしなかったけど、声が固くなったもの。
「構いません。ユーリア様さえ主に会って下さるのなら」
女性は気を悪くせずにそう告げると、扉を開けた。
「さぁ、どうぞ、お入り下さい」
女性に促されて、私達はその建物に足を踏み入れた。
入った瞬間、フワッと香ってきたのは、木や植物の匂い。中には、仄かに光っているのもあった。灯りは月明りだけだけど、おかげで問題はなかった。
室内を見渡す。至る所に置かれた植物の鉢。よく見たら、薬草まであるわ。テーブルには無造作に置かれたペンと紙。比較的新しいものだ。
そう、室内はまるで、小さな研究所か温室のようだった。




