聖獣様はとても優しくて強かったです
聖獣様は私の膝から下りると、さっきまで、お父さんが座っていた場所に移動し、ちょこんと座る。ほんと、可愛過ぎるよ。
「取り除くって、どうやって?」
私が尋ねると、悪戯を考え付いたような楽しそうな声で、聖獣様は答えた。
『ユーリアのお家の周りに、結界を張ってあげる。悪い人が入って来れないように』
とんでもない提案に驚いたよ。咄嗟に手を左右に振り断る。
「えっ!? 結界って、この聖王国を覆ってるものだよね、駄目だよ、絶対に駄目。私んちのようなボロい家に使ったら勿体ない」
これでもかって程に、力を込めて強く断ったよ。
『え〜なんで? 良い案だと思ったのに』
両耳が垂れ、しょんぼりする聖獣様。揺れていた尻尾もパタンと垂れている。ショックを受けている聖獣様には悪いけど、その圧倒的な可愛さに、完全によろめいた。今直ぐ抱き締めたくなるのを、グッと我慢する。
「聖獣様のお気持ちは、とっても嬉しいし、正直言えばありがたい話だよ。でもね、こんなど田舎の小娘でも知ってるの。この聖王国に強い魔物や、悪い人が入って来れないように、聖獣様が結界を張ってくれてるのでしょ。そのおかげで、私たちは生きていけるの。そんな凄い力を、私の家のために使ったらいけないと思う。使うべき場所じゃないよ。許されないから、駄目」
(これで、分かってくれたかな)
『僕の聖女の家を護るためだよ。ねぇ、ユーリア知ってる? 聖女って、毎月聖王国からお給料が出るんだよ。親思いのユーリアの事だから、お金を家に送るんだよね。だとしたら、尚更危なくない? 今まで以上に危険だと思うな』
聖獣様も譲らない。
聖王国から毎月給料が出るのは、正直嬉しいし助かる。もうすぐ家族も増えるし、その分出て行くお金も増えるよね。家が、少しでも楽になるのなら、聖女として働くのもいいかなって、今は真剣に考えてる。動機は褒められたものじゃないけど。
それでも、大変だけど頑張ろうって思えるの。
聖獣様が言っている事は理解出来るよ。心配してくれる気持ちもヒシヒシと伝わって来る。間違った事も、おかしな事も言ってない。頭の片隅で、任せてもいいかなって甘い考えが過ったよ。それでも、頷けないの。
だって、聖獣様の力は聖王国を護るための力だもの。貧乏な平民を護るためだけに使ったらいけない。力が弱まってるなら尚更だよ。
だから、心が痛いけど、聖獣様の申し出を再度きっぱりと断ったの。
「それでも駄目だよ。神官様に怒られるよ」
神官様もいい顔はしないと思う。
『分かった。なら、ジュリアスがいいって言ったらいいんだよね』
聖獣様はそう告げると、ソファーを飛び降りドアの前まで行くと、カリカリと扉を前足で引っ掻いた。すると、直ぐにドアが開いた。私が違うって反論する暇もなかったよ。
「話し合いは終わりましたか?」
神官様が尋ねる。
『うん、終わったよ。それで、ジュリアスに訊きたいんだけど、ユーリアの家に結界を張ってもいいかな?』
「ユーリア様の家にですか……」
神官様とお父さんの視線が痛い。容赦なくグサグサと突き刺さる。私は慌てて首を左右に振って否定したよ。
『ユーリアは僕の聖女だから、特に危険だと思うんだ。一応、内緒にはするつもりだよ。でも、何かの拍子にバレるかもしれない。それを抜きにしても、聖女ってだけで、色々厄介事が舞い込むかもしれないよ。田舎だからって安心出来ないよね……ジュリアス、ユーリアは家族想いの優しい子だよ。一人親元を離れて、王都で聖女の勉強をしなくちゃいけないのに、心配事があると集中出来ないと思う。ジュリアスはいいの? 僕が選んだ聖女が病気になったり、落ちこぼれになっても』
(すっごく筋が通ったように聞こえるけど、軽く脅してるよね、神官様を)
前半に予想を述べ終盤は情に訴える。これ、絶対、否って言わせるつもりはないよね、
「…………そうですね。ユーリア様が安心なさるのが一番ですね」
(その間が答えだね、本当にすみません、神官様)
心の中で、何度も何度も頭を下げて謝ったよ。お父さんは、自分が知らない所で、とんでもない事が決まって固まってるし、ほんと、ごめんなさい。
『よかった。ユーリアが全然賛成してくれないから困ってたんだ。ジュリアスが賛成してくれて助かったよ』
その台詞で、完璧に理解したんだと思う。私と聖獣様とのやり取りを。神官様が私に視線を向けたからね。私は必死で頭を下げたよ。
でもね、聖獣様はすっごくご機嫌だったよ。聖獣様って、少し強引だけど、とても強くて優しいんだね。そんな聖獣様に、私はメロメロだよ。