家族と幼馴染
私と王女殿下が盛り上がっていると、小さくか細い声で、「……エレーナ」と呼ぶのが聞こえた。
声がした方に視線を向けると、王族御一家が全員揃って私たちを見ていた。居た堪れなそうな様子を見て、ばっちり聞かれていたって分かったよ。正直、追い掛けて来てくれたらいいのにと、期待はしたけどね。ほんと、期待通りになって良かったよ。
確かに、一度付いたイメージはなかなか消えないけど、ボタンの掛け違いは直す事は出来るでしょ。
私は固まっている王女殿下の背中を押してあげた。物理的にも心理的にも。そうでもしないと、また逃げ出しそうだったから。王女殿下、意外と足速いからね。
ここからは、家族の時間。
私はそっとその場から離れる。いつの間にか、セシリアが隣に立っていた。目が合うと、セシリアが微笑む。私も微笑み返した。
(場を外したのはいいけど、黙って帰るわけにはいかないから、何処かで時間潰さないと)
そんな事を考えていると、建物の角で長い銀色の髪が視界に入った。
私が知っている長い銀色の髪の持ち主は、一人しかいない。ましてや、ここは王宮。なら、彼女で間違いないよね。だったら、追い掛けないと。セシリアは渋々だったけど。
逃げる銀髪の少女の背中に向かって、私は叫んだ。
「待って下さい!! レイティア様!! レイティア様!!」
何度か叫ぶと、漸く、レイティア様は止まってくれた。そして振り返ると、小さな声で話し掛けて来た。
「……まだ、私をレイティアって名前で呼んでくれるのですね」
やっぱり、レイティア様だった。
レイティア様の声は少し震えていた。陽が暮れていて少し薄暗いから、俯いていると表情が全く読めない。レイティア様にとっては、その方がいいのかも。
「私にとっては、レイティア様ですから」
(答えになってないわね)
「……私は貴女に酷い事を、最低な事を言ったわ。現実を放棄して、悪い事全てを貴女のせいにした。勝手にパニックを起こして、貴女を責め立てた。あの状況で、冷静に判断出来る貴女が怖いと思った……だから、最低な方法で拒絶してしまった。皆に軽蔑されて当然ですわ」
(もしかして、泣いてるのかな? これ以上近付いたら、絶対逃げられるよね)
「私は別に軽蔑はしていません。傷付きはしましたけど……それに、私の代わりに、エレーナ王女殿下とセシリアが怒ってくれたので、もういいです」
そう告げると、レイティア様の声が更に震え出す。
「……私は知らなかった。知ろうとは思わなかった。何も見ようとしなかった。私の中でエレーナは、いつも問題児だったから。それに――」
「自分の方が優秀だと思っていた」
レイティア様の台詞を遮り、代わりにセシリアが答えた。
「…………ええ」
消え入りそうな声で、レイティア様は認めた。
「確かに、貴女は冷静な判断をするユーリアが怖いと思ったかもしれない。でも、それだけですか? あの時、気付いたのではありませんか? 本当は自分より、エレーナ王女殿下が全てにおいて優れていると。圧倒的に自分が負けていると。それを認めたくなかったから、卑怯にも、一番弱い立場であるユーリアを攻撃したのではないですか?」
容赦ないセシリアの台詞に、レイティア様は唇を噛み締め黙り込む。
更に、セシリアは追い込もうとしたけど、さすがに可哀想で見てられない。私は彼女の袖口を引っ張り止めた。代わりに、私が口を開く。
「……エレーナ王女殿下が優れているのは当たり前ですよ、レイティア様。並の学者が束になっても越えられません。それほど、エレーナ王女殿下は優秀です。当然ですよ、王女殿下は私たちが現実しか見ていないなかで、常に未来を見続けているのですから。そして立ち止まらず、考え、学び、実践し続けた。ただ一人で……そのような方に、勝てますか?」
「…………」
レイティア様は答えない。私は続けた。
「今は勝てなくても、未来は勝てるかもしれません。少なくとも、近付けるかもしれない。良い機会ではありませんか、未来について考えてみるのも」
(これは、私自身にも言える事だよね)
そんな事を考えていると、レイティア様はさっきまでの弱々しい声ではなく、訝しげな声で訊いてきた。
「……貴女、本当に七歳なの?」
「同じ事を、今まで何度も訊かれましたが、私は正真正銘七歳です」
「大人と話しているみたいだわ」
(一応、褒められてるのかな……なんか、複雑)
「そうですか?」
そう答えると、レイティア様は私たちに背を向けた。
「今ここで話した事、そして、エレーナが中庭で言っていた事、よく考えてみますわ」
固い声でそう告げると、レイティア様は走り出した。
私はレイティア様と、少しでも腹を割って話せて良かったと思ったけど、セシリアは違ったみたい。走り去った先を睨み付けている。
理由は、「最後まで、謝罪の言葉がなかった」かららしい。
確かに、レイティア様は私に対して謝罪の言葉はなかったし、頭を下げる事もなかった。でも、それが普通なんだよね。だけど、自分の非をちゃんと認めてくれた。私はそれだけでよかったんだけど、セシリアは納得していないみたい。
でもまぁ、この件が切っ掛けで、王女殿下とレイティア様が、一度でも向き合って話してくれたらいいかな。心からそう思ったの。レイティア様次第だけどね。




