我儘王女と私の想い
「一番傍にいた家族に、レイティア様に誤解されたままって……辛くはありませんか?」
その問い掛けは、王女殿下から言葉を奪った。
「…………」
「私なら辛いです。一番、自分を見てくれているはずの人たちから誤解されたまま、酷い事を言われ続けるのは……」
私がそう告げると、王女殿下は私を抱き締めた。顔は見えないけど、抱き締めている身体が少し震えていた。
「いいのよ、もう慣れたから。そう言ったら、ユーリアは怒るわね。でもね、そうならないと耐えきれなかったの……期待する事自体、無駄だって分かっているから。確かに昔は、破天荒な所があったわ。それは否定しない。でもそれは、私なりに理由があったのよ。学術書に書いてある事を確かめたかっただけなの。家庭教師は必要ないって言われてしまったけどね。認めてもらえなかったけど、私は必要だと思った」
王女殿下は何一つ間違っていない。学びと疑問はセットだよ。本に書かれた事はあくまで知識に過ぎない。そこから発展させて、身に付くものだと、私は思う。
「……その家庭教師は教師失格ですね。私も同じ行動をします。……家族に相談しなかったのですか?」
そう尋ねると、王女殿下の身体がビクッと強張る。
「相談したわよ。でもね、大人は私ではなく、それなりの地位がある者の言葉を信じるの。そして、一度付いたイメージはなかなか消せないのよ」
王女殿下が言った事は、何となくだけど、私でも理解出来た。結構、似たような事はどこにでもあるから。
学園内の私のイメージもかなり悪い。悪目立ちもいい所だよね。でも私には、素の私を知っているセシリアが近くにいてくれた。ジュリアス様もライド様も素の私を知っている。
(だけど、王女殿下には……いなかった)
「……それでも、エレーナ王女殿下は続けたのですね」
そう尋ねると、王女殿下は抱き締めていた腕を解いた。照れと苦笑が混じった笑みを浮かべる。
「必要だと思ったから。それにしても、よく分かったわね?」
とても強い人だと思った。信念っていうのかな、芯が一本通ってる。誰にも認められないのに、持続するなんて、とても凄い事だよ。
「さっきも話しましたが、話せは分かります。だって、エレーナ王女殿下が発する言葉には重みがありますから」
「重み?」
王女殿下が首を傾げる。
「この前、かつて王国で流行した疫病の話をしましたよね、その時、エレーナ王女殿下は学術書に書かれている事以外の事も教えてくれました。薬草をただ煮出すよりも、すり潰して、撹拌しながら煮出す方が効能が高くなるって。それって、実際に試したからではありませんか?」
「まぁ……そうだけど」
(やっぱり、そうだ。王女殿下は地道に研究してた)
「それと、何度か寮にお邪魔した時、学術書が無造作に積み重なっていました。本棚に並ぶ学術書もです。たぶんそれを見て、レイティア様は勘違いされたのでしょう。でもよく見たら、気付きました。本棚の学術書、タイトル順でも文献の種類でもなくて、過去に起きた疫病や、特定の薬の効能によってまとめられてるって。それって、かなり文献を読み漁らないと出来ませんよね」
私が畳み掛けるようにそう言うと、王女殿下は目をまん丸くする。
「……それが分かるユーリアも、相当なものだと思うわ。今まで、誰一人も気付かなかったのに」
王女殿下の台詞に、私は小さく首を横に振る。
「私は貴族ではありません。なので、皆様が幼い頃からする勉強をしてはいません。それを補うには、人より知識を得なければならない。幸い本が好きだから、苦には感じません。気付いたのも偶々です」
「それでも、気付いたのはユーリア一人だけよ」
王女殿下はとても嬉しそうに笑った。王女殿下には笑顔が一番似合う。その笑顔が見れて、私も嬉しくて笑った。ひとしきり笑った後、王女殿下は教えてくれた。
「私ね……ずっと、考えていたの。治療師ありきの治療に頼ってはいけないと。軽いものは、自分で治すべきとね。ユーリアには当たり前の事だけど、貴族やお金を持っている商人は違うわ」
そもそも、ど田舎の村に聖女、もしくは聖女のスキルを持つ治療師はいない。当然、医者もいない。だから、自分たちでどうにかするしかないの。
この王国に存在する聖女は、穢れを浄化するのが仕事。怪我を治したり、病気を治したりはしない。
代わりに、聖女になれなかった人が、治療師として活躍しているって習った。
「それは、治療師の数が少ないからですか? そうですよね……聖女のスキルを持つ人自体少ないのだから、当然、治療師の数も少ないですよね」
(スキル持ちが少ない上に、聖女になれなかった人が全員、治療師になる訳じゃない。そうなると、更に減るよね)
「そう!! なのに、馬鹿貴族や成金商人が、数少ない治療師を何人も抱え込んでるのよ!! そのせいで、治療を受けるべき人が受けられない!! 奇跡的に受けられたとしても、高額過ぎて払えない。もしくは、多額の借金をして奴隷に身を落とす。それって、とてもおかしな事だと思うの。まぁ……そういう私たち王族も、お抱えの治療師が何人もいるのだから、私が何を言っても、説得力はないのだけど……」
そこまで話して気付いたよ。
「だから、エレーナ王女殿下は研究を続けたのですね。治療が受けられない人のために」
「そんな立派なものではないわ。……王族と言っても、私はただの我儘王女に過ぎないもの。発言に力なんてないわ。その私が、貴族たちにいくら説いても鼻で笑われるだけだわ。それでも、いつかは必要になるかもしれない」
(おかしいよ。理不尽だよ。どうして、この人を我儘王女なんて思ったの? こんなにも、王国に住む民の事を真剣に考えているのに)
「私も手伝います!! 民間療法なら、私も知ってい事もありますし。あっでも、平日だけになりますが、それでもいいですか?」
「本当に、手伝ってくれるの!!」
とっても良い笑顔で、王女殿下は私の両腕を掴む。
休日も手伝いたいけど、他の古竜様たちの所に行く予定があるから手伝えない。
今でさえなかなか忙しいのに、それでも、心から力になりたいと思ったの。そして、こんなにも民を大事にする王女殿下が護りたいものを、私も護りたいと心なら思った。
その想いは、私の中で小さな変化へと繋がった。古竜様たちやハクアの事を考える、良い切っ掛けになったわ。




