ちょっとした悪戯です
あれよあれよという間に、私とセシリアは、物凄く豪華な馬車に乗せられた。
外装も豪華だけど、中が凄過ぎた。ゆったりとしていて、見えない所にも細かい細工が施されてたよ。さすが、王族と思ったね。まぁそんな豪華な馬車だから、汚すのが怖くてなかなか座れない。
「早く座りなさい。出発するわよ」
困っている私を見て、王女殿下はクスッと笑う。セシリアはさっさと座っていた。
いくら道が整備されているとはいえ、石畳だからか、馬車は小刻みに揺れるの。王都に始めて来た時は、マジお尻が死んだよ。途中見兼ねて、ハクアが日に何度も回復魔法を掛けてくれた。良い思い出だよ。でもね、この馬車は全然揺れないの。その上、クッションと座席がフカフカで、ちょっと感動しちゃった。ハクアも気持ち良さそうに丸まってる。
「喉乾かない?」
馬車が動き出して直ぐ、王女殿下が訊いてきた。
(えっ!? 飲み物まで常備してるの!?)
ほんと、豪華だね。そう訊かれても、希望なんて口には出来ない。でも、断れない。なので仕方なく、一番無難なものを頼んだ。
「……お水で」
「私もお水でお願いします」
それ一択しかないよね。セシリアもそう考えていたみたい。水も十分美味しいからね。
「分かったわ。では、二人共、グレアの実のジュースでいいわね。そもそも、水ないし」
王女殿下って、ほんと、こういう所が憎めない。ジュースがあって、水がないことなんてないのにね。私とセシリアは王女殿下の優しさに甘えることにした。
グレアの実そのものが、平民の私にはかなり高価な果物なの。平民で食せるのは大商会ぐらいかな。私のような平民は、グレアの実さえ見る機会がないと思う。ましてや、ジュースなんて。
グレアの実はワインの原料になる果実なの。限られた環境と土壌でしか育たないから、ワインそのものが貴族の嗜好品だし、その実から作るジュースは、それ自体数が少ないの。超贅沢な飲み物なんだよ。学園では普通に売られてるけどね。さすが、生徒の大半が貴族だけあるわ。
「「……ありがとうございます」」
王女殿下からジュースが入ったコップを受け取ると、少しづつ飲んだ。実は、三回目なの。
(はぁ〜〜沁みる)
あまりの美味しさに、頬が緩む。とても濃厚なんだけど、後味は意外とさっぱりしてるの。
「……普段、ユーリアの表情筋は死に掛けているのに、食べ物に関してだけは動くのよね〜」
死に掛けているって表現が、微妙に合ってる。完全には死んでないんだよ。それを、ちゃんと分かってくれてる人がいて嬉しいな。
「さすが、エレーナ王女殿下です。そこに気付かれるとは。まさに、そこが可愛いのです」
(セシリアが、また変な事を言い出したよ)
「それ、分かるわ。だから自分の手で、ユーリアの表情筋を動かしたくなるのよ」
(あ、伝染してる)
それ、ペットと遊ぶ感覚と同じだよね。お菓子が猫じゃらし的なようなものなの。
「エレーナ王女殿下、お茶会のお菓子の種類が増えた理由はそれですね」
妙に納得したセシリアが、一人頷いてるよ。
偶にあるんだよね。セシリアと王女殿下だけで会話してる事。ほぼ、私の事なんだけどね。こういう時、下手に口を出さない方がいい。飛び火しそうだからね。
「ユーリアって、意外と食べるでしょ。お菓子も。食べる姿が可愛くて」
だから、最近、お茶会の回数が増えたのね。お菓子の種類も増えてた。美味しいお菓子が食べれるから嬉しいけど。
「自分の手から受け取る様も、なかなかですよ、エレーナ王女殿下」
天使様とか王子様とか呼ばれてるセシリアだけど、残念な事に、偶におじさんが出てくるんだよね。
「それは試した事ないわ!! ユーリア、はいどうぞ」
(何処からか、お菓子まで出してきたよ。何でもあるんだね)
王女殿下はクッキーを一枚手に取ると、ワクワクしながら私に差し出す。それを見て、ちょっとだけ悪戯心が湧いた。乗ってるのが私たちだけだし、いいかな。
「ありがとうございます」
そう答えると、私は口で受け取った。巷で言う、あ〜んてやつ。よく、キッキンでお母さんの手伝いをしていた時にしてもらってたんだ。
大した意味なかったのだけど……王女殿下が真っ赤な顔をして固まっちゃった。やり過ぎたみたい。セシリアも吃驚してるし。
「すみません!! 気を悪くさ――」
頭を下げ謝ろうとしたら、凄い勢いで王女殿下に遮られた。
「か」
「か?」
小刻みに震えている王女殿下に、私は首を傾げる。
「可愛い!! さぁ、もっと召し上がれ!!」
興奮した王女殿下は、嬉々として、私の口元にクッキーを差し出す。怒ってなくてよかったけど、そんなに、次々と食べれないよ。セシリアも負けじと差し出してくるし。
まぁでも、そのおかげで、私は初登城だけど緊張せずに済んだの。




