私は忘れない
――闇の精霊王。
後から聞かされるのだったら、聞かなかった事にしたい。っていうか、出来るよね。自分の考え方次第で。記憶に蓋をする感じでね。中身がどうであれ、リスさんはリスさんだから。
(いける!!)
「いけるわけなかろう。目や耳を塞いでも、事実は変わらぬぞ」
黒竜王様の呆れた声がした。
「…………やっぱり」
(ですよね〜)
「そのように気を揉む必要はないぞ。特に、不愉快そうではなかったからな。安心するがよい。我に関係なく、気に入っておったぞ」
「……なら、良かったです」
そうとしか、答えられないよ。
「そうそう、やつらもユーリアの影を通して移動出来るようにしておいた。だから、いつでもモフれるし、よい護衛になるぞ」
「…………はい?」
「これで、人攫いを返り討ち出来るぞ」
テリトリー内だったから、私たちの会話は聞かれてたよね。黒竜王様が、私を心配してくれての事だから嬉しいよ。でもね、罪人とはいえ、人相手にSSランクの災害級の魔物をけしかけるなんて、かなり過剰防衛だよね。
「そんな訳ねーじゃん。俺たちの愛し子に手を出そうとするやつらは、ケッチョンケッチョンにやられても文句なんか言えねーよ」
赤竜王様が参戦して来たよ。それは、赤竜王様だけではなかった。
「そうです。もし、ユーリア様の身に何か起きたら、私たちだけでなく、黒竜王様、赤竜王様、聖獣様たちも悲しみと怒りで苦しみます」
ジュリアス様が会話に加わる。さっき、黒竜王様たちに怒られたばかりだから、勇気がいったと思う。でも、必要だと思ったから言った。
古竜様たちとハクアも、怒りもせずに聞いている。
「そうだな、我は悲しくて悲しくて、引き籠もってしまうかもしれぬな」
黒竜王様が追撃して来たよ。
『僕も、そうなたら……』
(ハクアも!? 引き籠もったら、どうなるの?)
「冬が続くに決まってるだろ」
赤竜王様が教えてくれた。
(冬が続く……)
雪が降り積もって綺麗だと思うのは、何にも知らない小さな子供か裕福な家の人だけだよ。
ましてや、私みたいな田舎の子供にとって、冬はあまり好きな季節じゃない。農作物は採れないし、山にも入れない。蓄えていた食べ物を少しづつ食べながら、春が来るのを両親と一緒に待つだけ。
それはそれで、温かくて幸せだけどね。でもそれは、いずれ春が来るって分かってるからだよ。
終わりがあるから、苦痛に耐えられるの。
「……それって、軽く脅してませんか?」
皆は、ただただ、純粋に私を心配してくれてるだけだって分かってる。分かっていても、天邪鬼だから、そんな台詞が口からポロリと出てしまったの。
「「そういう、意味しゃない!!」」
『違うよ!! 僕らはユーリアが心配で!!』
古竜様たちとハクアが必死で否定する。
反対に、ジュリアス様とライド様は思い詰めた様子で否定する。
「そういう意味ではなくて、あの時は、生きた心地がしませんでした。だから、私は」
「あの時、私が無理にでも手を繋いでいたらと、今でも悔やみます」
ほんと、おかしいよね。私みたいな平民の子供を、皆が心から心配し気に掛けてくれている。秀でた所もない、少し魔力が多い平凡な私に……それが、とても悔しい。そして、そんな自分がとても嫌だ。
(馬鹿で最低な事、言っちゃった……)
「……ごめんなさい。最低で、意地悪な事言っちゃったね。そんな風には思ってないから、安心して。学園内は安全だから、護衛は大丈夫です。でも、学園外はお願い出来ますか? 出来れば、姿を見せずに」
「「勿論!!」」
仲良しな黒竜王様と赤竜王様を見て、少し笑顔になる。
『僕を忘れないで〜』
焦った声のハクアに、私は自然と顔が綻ぶ。でもそれは一瞬で、すぐにいつもの表情に戻った。
気付いたの。赤竜王様が言った台詞は、大袈裟な事ではないって事に――
引き籠もれば、祝福は途切れる。
私はこの会話を忘れない。一生、その現実を胸に抱えて生きて行く事になるんだね。
正直、重責だよ。
でもね、今は〈竜の愛し子〉になった事も、〈姫聖女〉になった事も後悔はしていない。流され感はあるけどね。
流されたとしても、私にとって大切な仲間だから、後悔なんてする訳ないでしょ。ただ、天邪鬼な所があるから、素直に嬉しいなんて言えなくて、皆には不快な思いをさせてしまうかもしれないけど。許してくれるかな?
赤竜王様の住処に向かう途中で、色々考えさせられた。でもそれって、私にとっては必要な事だったと思う。
「ユーリア、この先が俺の住処!!」
腕を緩めると、赤竜王様が抜け出して空中で振り返る。とっても良い笑顔だったよ。




