次の行き先は荒野でした
連休初日の早朝。
夜が薄っすらと明け出した頃、ジュリアス様とライド様が、私を迎えに学園まで来てくれた。
素早く馬車に乗り込むと、ジュリアス様とライド様は私を見て微笑む。
「おはようございます、ユーリア様。大丈夫のようですね」
「二人共、おはようございます。ハクアがスリープを掛けてくれたから、大丈夫」
セシリアと王女殿下には悪い事をしたけど、こればかりは仕方ない。王女殿下もセシリアも、マジで付いて来る気満々だったから。食堂ではっきりと断ったのにね……全然諦めてないの。目的は違うけど、コソコソと密談していたからね。夜が明けたら、突撃する計画を立てていたみたい。
なので、強制的に眠らせる事にしたの。言い出したのは、ハクアだけどね。セシリアは同室だし、特殊な訓練を受けたのか、物音にとても敏感なの。ちょっとした音で起きてしまう。だから、少し乱暴だけど、この手しかなかったの。
(ごめんね、セシリア)
一応、手紙を残して出て来たけど、帰って来たら、色々追求されるよね。少し憂鬱な気分になる。
実はそれよりも、気になる事があるの。「好きに時間を過ごして」と言った時、セシリア、一瞬、無表情になったんだよね。その表情が頭から離れない。
「セシリアが気になりますか?」
見透かしたように、ジュリアス様が訊いてきた。
「はい……」
私はセシリアの無表情の件を、二人に相談してみた。
「ユーリア様は仲間を大切にされる方ですから、心が痛むのですね。……あの子は、ユーリア様に心から忠誠を誓っていると同時に、自分が一番の側近だと誇りを持っています。自分が知らない所で、動くユーリア様を心配すると同時に、何も話さないユーリア様に、信頼されてないと感じているかもしれませんね」
ジュリアス様の真を突いた台詞に、私は押し黙る。
「でもこれは、セシリアのためでもあります」
「……そうですね」
ライド様の台詞に、私は小さく頷く。
頭では分かってる。セシリアと私の安全のために、内緒にしていた方がいいって。でも……心はなかなか納得出来ない。たぶんそれは、これから先も続くと思う。段々、秘密が増えていくから。
「私たちがいます、ユーリア様。貴女の秘密を私たちも共有します。心の痛みも一緒に」
ライド様の温かい台詞に、ジュリアス様も同意する。素直に、その台詞が嬉しい。
(ほんと、二人とも格好良くて優しいよね)
王女殿下がファンになるのも分かるよ。私にとっては、大好きなお兄ちゃんなんだけどね。
「そうだね……ありがとうございます、ジュリアス様、ライド様」
感謝しかない。
黒竜王様を受け入れた時、〈竜の愛し子〉になると決めた時、事の重大さも受け入れたはず。
私が今、学園でそれなりの生活がおくれているのは、ハクアや教皇様、ジュリアス様にライド様が、私を護ってくれてるからだ。大神殿から出られなくなってもおかしくない。
「大神殿で朝ご飯を食べたら、出発ですね」
ジュリアス様がにっこりと微笑むと、さり気なく話を変えてくれた。その配慮に、私はとても助かってる。
「はい、楽しみです」
意外と大きな声が出たよ。
出発と言っても、このまま馬車で移動しなくていいらしいの。ほんと、吃驚だよね。
なんでも、黒竜王様の力で、直接、赤竜王様の住処に移動するんだって。考えてみればそうなるよね。そもそも、人族が立ち入る事が出来ない場所を住処にしているもの。
それに、黒竜王様がいるから、魔物や危険な獣はまず襲っては来ない。一応、私たちは赤竜王様にとって正式な客人でもあるし。
なので出発は、教皇様の私室から。
「それでは、行くとするか」
黒竜王様がそう言い空中に短い手を伸ばすと、空間がグニャと歪んだ。思わず目を閉じる。
「着いたぞ」
黒竜王様の声を合図に目を開けると、いつしか歪みは治まっていた。
目の前に広がる光景に、私は声が出ない。
ゴツゴツとした大小の岩が至る所で転がっていて、草一本生えていない荒野だった。黒竜王様とは正反対の光景が広がっていたの。
「こんな所に、赤竜王様が……」
あまりにも寂しい光景に、私だけでなく、ジュリアス様もライド様も複雑な顔をしていた。
(神秘的なものを想像してたんだろうな)
「赤竜王の住処は火山の火口口だからな、草など生えるわけなかろう」
(……はい? 火山の火口口?)
黒竜王様以外、顔が引き攣る。
「いやいや、それは人族が踏み込んだらいけない場所だよね」
(間違いなく、到着する前に天に召されるよ!!)
命が大事だから、私は無理無理と首を左右に振る。
「心配はいらぬ。我々は正式な客人だ、死にはせぬ」
黒竜王様を疑うつもりはないけど……不安だ。
「そうだぜ。俺たちの愛し子を危険な目に晒すわけないじゃん」
黒竜王様との会話中に、突然、やけに陽気な声が降って来たの。




