お菓子以上に満たされました
「撤回ですか? 私は間違った事は言っておりませんが」
(レイティア様のお兄様、ヤル気満々だわ)
「そうですか……あの場で何が起きていたのか知らないで、ユーリアに対し罵詈雑言、決して許す事は出来ませんわ」
王女殿下、顔と口調がガラリと変わってる。完全に王族の顔だよ。絶対的支配者のプレッシャーに、王太子殿下、完全にのみ込まれてるよ。普段とギャップがあるから、気持ちは分かるけど、ここはしっかりして欲しい。
「ふん、どうせ、皆、レイティアに嫌な役目を負わせたのだろう。私の妹は特に優秀で可愛くて、何処の誰よりも淑女だから」
(シスコンだ……)
後半の台詞はそうだよね。妹大好きなお兄様に、王女殿下のプレッシャーは効かないみたい。元から聞く気もないらしい。
膠着状態が続くかもと思っていたら、セシリアが気持ち一歩前に出た。
「……逆ですよ。ローベル侯爵令嬢様は、何も出来ませんでしたよ。自分の意見も述べれず、ただただ震えるばかり。あのオリエンテーションの場で、私たちに気を配り、且つ、安全な活路を示し導いたのは、貴方が自慢する妹君ではなく、たった七歳のユーリアですよ!! 自分も怖かった筈なのに。ユーリアがいなければ、今、この場に私たちはいなかったかもしれない!!」
高位貴族を前にして、はっきりと断言するセシリアに、誰も言葉を発せなかった。セシリアは構わず続ける。
「……確かに、ローベル侯爵令嬢様は優秀でしょう。王太子殿下にも覚えがめでたい。でもそれは、学園内だから言える事です。誰も襲っては来ない、安全な世界だけで発揮されるもの。これから先の未来、もし、魔物討伐に駆り出されたら、私の背中を任せられるのは、ユーリアとエレーナ王女殿下だけです。ローベル侯爵令嬢様には預けられない!!」
一気に、セシリアはそう言い切った。
ゼイゼイと荒く呼吸をするセシリアの肩を、王女殿下は労うようにポンポンと叩くと、セシリアの隣に立った。
私やセシリアに見せる表情はとても柔らかいけど、ローベル侯爵令息様に見せる表情は冷徹なものだった。正直、すっごく怖い。王太子殿下、完全に迫力負けしてるよ。
「よく言ったわ、セシリア。教えてあげましょう、ローベル侯爵子息様、私が何故、ローベル侯爵令嬢に見切りを付けたのかを」
そこまで言ってから、王女殿下は何処からか出して来た扇で自分の掌を軽く叩く。その乾いた音に、ローベル侯爵子息様はビクッと身を竦ませた。それを冷めた目で見てから、王女殿下は続ける。
「……突然、あのような場に連れ込まれ、混乱し、恐怖するのは理解出来ますわ。私たちは甘い世界で生きておりますもの。なので、それを咎めは致しません。だけど、あろうことか、必死で私たちを護ろうと行動したユーリアを、証拠もなく犯人だと決め付けた。平民だから、金銭目的で起こした犯行だと罵り、蔑む発言をした事を、私は許しません!! そのような卑怯者、視界にも入れたくはありませんわ!! 例えそれが、長年一緒にいた幼馴染でも。理解して頂けたかしら、ローベル侯爵子息様」
セシリアも王女殿下もローベル侯爵子息様を睨み付けている。その迫力に彼は何も言えず、一歩後ずさった。
「……セシリア、エレーナ王女殿下、ありがとうございます」
私は胸が熱くなって、涙が溢れ出そうになった。
「礼を言わなければならないのは、私の方ですわ」
「そうだよ。ありがとう、ユーリア」
王女殿下とセシリアが、私の頭を撫でながら言う。
「それで、ローベル侯爵子息様、ユーリアに何か言うことはないのかしら」
私をセシリアに預け、王女殿下はローベル侯爵子息様に向き合い、低く冷たい声で追い詰める。
「…………すまなかった」
「それだけですか。愛する妹を救った御方に対し、頭を下げ、お礼の一つも口に出来ないのですか」
頭を下げず、渋々形ばかりの謝罪を口にしたローベル侯爵子息様に、更に怒気をはらんだ声で王女殿下は言い放つ。
私は王女殿下の制服の袖口を掴み、軽く引っ張った。
「ユーリア?」
私を気遣う優しい声。
「私は大丈夫です」
「だけど!!」
王女殿下の気持ちは嬉しいけど、私は軽く首を横に振り断った。そして、微笑みながら言う。
「私のために怒ってくれたセシリアとエレーナ王女殿下の気持ちだけで、胸が一杯だからいいです」
「……ユーリア」
私は王女殿下の隣に立ち、ローベル侯爵子息様と向き合う。その目をしっかりと見据え、口を開いた。
「高位貴族である貴方様が、一平民である私に対し、エレーナ王女殿下に促されたとはいえ、謝罪の言葉を口にするのは屈辱でしょう。なので、貴方様の謝罪は受け入れます……ローベル侯爵子息様、これから先、御父上と同じように宰相を目指すなら、客観的な目を持つ事が必要だと思います。特に、愛する家族が関係している場合は。平民にも、貴方様と同じ心を持つ人である事を忘れないで下さい」
セシリアと王女殿下の気持ちは嬉しかったけど、腹が立ってたからね。はっきりと言ってやった。さすがに、言葉は選んだつもりだけど。言い終えた私を、セシリアと王女殿下がとっても良い笑顔で迎えてくれた。
身分関係なく、本気で私のために怒ってくれる人がいる事に、私はお菓子以上に甘く満たされ、幸せな気持ちに包まれたの。




