光があれば闇もある
「……ならないなんて選択ないですよね。分かりました、務めさせて頂きます」
そう答え、私は黒竜王様に頭を下げた。
(……あれ?)
なんの反応も返って来ないので顔を上げると、黒竜王様は小刻みに震えていた。目が潤んでいて、なんだか泣きそう。
(もしかして、嬉し泣き?)
そうとしか思えない。聖獣様の次に黒竜王様、肩書きに潰されそうだけど、この姿を見たら、この選択が間違いじゃなかったって思えるよ。少なくとも、後悔はしないかな。
ハクアは渋々だけど認めたみたい。でも気に入らないのか、不貞腐れているよ。その姿も可愛いんだけどね。
「ありがとう!! 恩に着る!! 早速、契約を交わそう!!」
(いやいや、そんなに急かさなくても逃げないって)
「分かりました」
苦笑しながら、私は答える。
「こっちに来てくれ」
黒竜王様に言われて、私は黒竜王様の隣に移動した。立ったままの私の目線まで、黒竜王様は身体を浮かす。
「少し前屈みに」
黒竜王様の言う通りにしたら、ヒンヤリしたものが額に触れた。何故かこういう時、自然と目を閉じちゃうもんだね。一瞬だけど、額が熱くなった。直ぐに治まって目を開けると、黒竜王様と目が合った。
「これで、契約は完了だ。さぁ、我を抱っこしろ」
要求することは、ハクアとたいして変わらないみたい。よかった。内心ホッと胸を撫で下ろす。
「はい、畏まりました」
私は促されるまま、黒竜王様に手を伸ばし胸に抱く。そして、座っていた席に戻る。自然と、黒竜王様は私の膝の上に座った。意外にも、羽は邪魔にならないもんだね。
ちょこんと座る黒竜王様が可愛くて、ほんわかと和んでる側で、ハクアと黒竜王様が睨み合っていた。バチバチと音がするなんて、小説の中だけだと思ったよ。部屋に置かれている家具とか置物がカタカタと鳴ってるしね。
『……ユーリア、約束破った』
ハクアが拗ねる拗ねる。
(確かに、破ったね。一時間もしないうちに。でも、私が悪いわけないよね。不可抗力だよね)
言っても仕方ないから、心の中で弁解する。意味ないけど。
「器が小さいな、聖獣」
黒竜王様が拗ねているハクアを、面白いのか煽る。なかなかな性格だね。さすがに、少し可哀想になったので助け船を出すことにした。
「黒竜王様」
「なんだ、愛し子」
「他の古竜様たちには、愛し子がいるのですか?」
私の問い掛けに、黒竜王様は首を傾げる。
「何を言っておる? いるわけないだろ。我らの愛し子はユーリアしかおらぬ」
黒竜王様はしれっと、そんな一撃を落としてくれた。
「はい――!? いやいや、聞いてませんよ!!」
焦る。超焦った。だって、そうでしょ。普通、それぞれにいるって思うよね。
「言ってなかったか……それは、済まない。〈竜の愛し子〉は〈古竜の愛し子〉だ。つまり、我ら七柱の竜王の愛し子となる。故に、我の契約はその一つに過ぎぬ。ユーリアは、あと六柱の竜王に会い契約を完了して欲しい」
(何、サラッと追撃してくれてるのよ!! これって、絶対確信犯だよね!! そうだよね!!)
黒竜王様の機嫌が超良いのが腹が立つ。
『……腹が立つなら、膝から下ろせばいいのに』
ハクアがポツリと呟く。
(それが出来るなら、してるわよ!!)
どんなに文句を言っても、相手は古竜様なんだよ。無下には出来ない。それに……モフモフ以外にも目覚めちゃったみたいだし、癖になる触り心地だよ。でも、蛇は駄目だからね。
そんな事を考えていると、黒竜王様が急に声を上げた。嫌な予感しかしない。
「あっ!? 忘れる所だった、まだ伝えていなかった事がある。ユーリア、我と契約を交わしただろう。闇魔法が使えるようになったぞ」
「えっ? 闇魔法? 嘘でしょ……」
(聖女の私が闇魔法!? そもそも、聖女は聖魔法しか使えないんじゃなかったの!?)
「我は黒竜だぞ。闇を司る竜王、我と契約を交わしたのだ、使えて当然だろう」
「理屈ではそうだね!! だけどね――」
「闇は嫌か……ユーリアも闇は悪だと思うのか……」
私の台詞を遮るように、黒竜王様が力なく苦しげな声で吐露する。
今まで、散々言われてきたのかもしれない。知らず知らずのうちに、私は黒竜王様を傷付けていた事に気付いた。
(そうだよね。闇が悪いなんて間違ってる)
闇イコール悪と連想されがちだけど、それはただ単に属性の違いに過ぎないのに。悪事を犯すのは人であって闇のせいじゃないし、心に闇を持っている人はいるけど、その闇と黒竜王様の闇とは根本的に違う。一緒にしたらいけない。
「……ごめん。私は悪だなんて思ってないよ。そんな風に思わせてしまって、ごめんなさい」
膝の上に座る黒竜王様の頭を撫でながら謝る。
「……心から、そう思っているのか?」
威厳がある話し方なのに、声は自信がなさそう。若干、俯いてるし。
「私、思うんです。光があれば、当然闇もあるって。陽がさす場所とささない場所。闇魔法って、日陰みたいなものだと思います。悪い意味じゃなくて。この世界に始めから存在して、必要不可欠なもの。だから、黒竜王様が古竜の一柱に選ばれたと思います」
上手く伝わったかは分からないけど、ただ、悪と闇魔法は違うと考えている事だけは伝わって欲しい。そして闇魔法は、誇れる魔法だと思っている事も伝わってくれれば嬉しいかな。
その気持ちが伝わったのかな、黒竜王様が小さな声で「ありがとう」と言った。私はハクアにするように、その身体をギュッと抱き締めた。




